個人事業主の消費税はどうなる?課税のタイミングなど基礎知識を解説
個人であってもなんらかの事業を行っている場合は、原則として消費税を納める義務がある「課税事業者」となります。
ただし、売上1000万円以下であるなど一定の条件を満たすことで、消費税の納税義務を免除される免税事業者となることができます。
そこで消費税の課税事業者になるタイミングや納税額の計算方法、各種手続きなど、個人事業主なら知っておくべき“消費税の基礎知識”をわかりやすく解説します。インボイス制度導入による個人事業主への影響も確認しておきましょう。
目次
消費税の課税事業者になるタイミングは?
消費税は、商品やサービスを消費する際に課される税金で、消費者が負担し事業者が納税を行う間接税です。
事業者は、1年間に消費者から預かった消費税から、仕入等で支払った消費税を差し引いた金額を、翌年3月31日までに申告および納税します。
消費税の申告・納税義務がある「課税事業者」になる条件のひとつは、売上1000万円を超えることです。ただし売上1000万円を超えてすぐではなく、以下いずれかのタイミングで課税事業者になります。
- 「基準期間」の課税売上高が1000万円を超えた翌々年
- 「特定期間」の課税売上高または「給与支払額」が1000万円を超えた翌年
上図のとおり「基準期間」は前々事業年度のことで、「特定期間」は基準期間の翌年1月1日から6月30日までのことをいいます。
特定期間の判定の場合は、課税売上高が1000万円を超えていても、給与支払額で1000万になっていなければ課税事業者にはなりません。つまり、どちらも1000万円を超えたときに課税事業者になるということです。
ここでいう「給与支払額」は、給料や賞与など所得税の対象となる金額(給与所得)の合計額です。通勤手当や退職手当など給与所得にならないものは含めません。また、特定期間中に実際に支払った金額が対象ですので、特定期間中の給与のうち未払給与は含みません。
課税事業者ではない事業者は「免税事業者」といって、申告も納税も免除されます。免税事業者は消費税を利益とすることができ、経理負担や経済的な負担が軽くなるというメリットがあります。
法人成りで最大2年間納税免除
個人事業主が株式会社や合同会社などの会社を設立して、個人から法人になることを「法人成り」といいます。
法律上、個人と法人は別人格になるので、法人成りした1年目は基準期間がないということになります。2年目は、特定期間中の課税売上高または給与支払額が1000万円以下であれば免税事業者となるので、法人成りすると最大2年間は消費税の納税が免除されます。
つまり、課税事業者になるタイミングで法人成りすると、免税期間を延ばせるということです。
消費税納税額の計算方法
納付する消費税額を計算する方法は、原則となる計算方法と簡易的な計算方法(簡易課税制度)の2種類あります。
簡易課税が適用されるのは、課税売上高が5000万円以下で事前の届出を行った事業者です。
簡易課税制度では、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を用いて納税額を算出するため、計算を簡易化することができます。
原則となる計算方法
消費税納税額の原則的な計算方法は、一般課税・本則課税などとも呼ばれ、下記の通りに算出します。
消費税の納付税額 = 売上税額(課税売上にかかる消費税額)ー 仕入控除税額(課税仕入等にかかる消費税額)
実際の計算では、消費税は国税である消費税と地方税である地方消費税をそれぞれ算出します。また、取引に応じて「標準税率」と「軽減税率」に分けて算出する必要があります。
詳しい計算方法については下記の記事で解説しています。
簡易的な計算方法(簡易課税制度)
消費税の納付税額 = 売上税額(課税売上にかかる消費税額)ー 仕入控除税額(売上税額 ✕ みなし仕入率)
簡易課税制度で適用される計算方法では、売上税額にみなし仕入率を掛けた金額を仕入控除税額として計算します。みなし仕入率は事業区分ごとに異なり、以下のとおり定められています。
- 第1種事業(卸売業)…90%
- 第2種事業(小売業)…80%
- 第3種事業(農林漁業、建築業、製造業など)…70%
- 第4種事業(飲食店業など)…60%
- 第5種事業(運輸・通信業、金融・保険業、サービス業)…50%
- 第6種事業(不動産業)…40%
簡易課税制度における消費税納税額の計算方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
課税の対象外となる取引も
下記のような不課税取引と非課税取引は課税の対象外となるため、消費税納税額の計算においては考慮されません。
- 不課税取引
国外取引、対価を得て行うことに当たらない寄付や単なる贈与、出資に対する配当 - 非課税取引
土地や有価証券、商品券などの譲渡、預貯金や貸付金の利子、社会保険医療などの取引
このほか役員報酬や給与、社会保険料なども消費税の課税対象外となります。
納税額の違いをシミュレーション
計算方法によって消費税の納税額がどのくらい変わるのかを簡易的にシミュレーションしてみましょう。以下の計算では消費税は標準税率10%のみとし、地方消費税額は考慮していません。
例1 卸売業のケース(課税売上:2000万円、課税仕入:800万円)
【原則となる計算方法の場合】
2000万円✕ 10%ー 800万円✕ 10%= 120万円
【簡易課税制度での計算方法の場合】
2000万円✕ 10%ー 2000万円✕ 10%✕ 90%= 20万円
上記の例では、実際の仕入控除税額が、みなし仕入率で計算された仕入控除税額よりも少なくなるため、簡易課税を選択したほうが消費税の納税額が軽減されます。
仕入控除税額はみなし仕入率が高いほど多くなるため、みなし仕入率が高い卸売業や小売業などは、簡易課税制度の適用を検討してみましょう。
例2 サービス業、多額の設備投資を行ったケース(課税売上:2000万円、課税仕入:1500万円)
【原則となる計算方法の場合】
2000万円 ✕ 10%ー1500万円 ✕ 10%= 50万円
【簡易課税制度での計算方法の場合】
2000万円 ✕ 10%ー2000万円 ✕ 10%✕ 50%= 100万円
サービス業は通常、非課税となる人件費(給与)が経費の多くを占めるため簡易課税の方が有利になる場合が多いのですが、例2で挙げたケースでは、設備投資により多額の消費税を支払ったことで実際の仕入控除税額が多くなったため、原則どおりの計算方法のほうが有利になりました。
このように、どちらを選択すると納税額が少なくなるかをシミュレーションした上で検討するといいでしょう。
消費税の各種手続き
消費税に関して以下のいずれかに当てはまる場合、所定の手続きが必要となります。
1.課税事業者に該当したとき
課税事業者の条件を満たしたときは、すみやかに事業所の住所地を管轄する税務署に「消費税課税事業者届出書」を提出する必要があります。
新たに事業を開始したときは、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出すると、その課税期間から課税事業者になることができます。
課税事業者に該当しなくなったとき
売上が1000万円に満たず免税事業者になるときは、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出」をすみやかに所轄税務署に提出します。
2.自ら課税事業者を選択するとき
設備投資などを行って赤字になる場合には、売上にかかる消費税よりも、支払った消費税の方が多くなることがあります。このとき、多く払いすぎた分の消費税は還付されるしくみになっています。
ただし、免税事業者は消費税の還付を受けることができないため、還付を受けるためには届出をして自ら課税事業者を選択する必要があります。
またインボイス制度導入に合わせて適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、課税事業者となることが必要です。
手続きは、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を所轄税務署に提出する必要があります。個人事業主の場合は、前年の12月31日までとなります。
課税事業者となったときに提出する「消費税課税事業者届出書」とは異なるため注意しましょう。なお、自ら課税事業者を選択してから2事業年度は、免税事業者となることができません。
課税事業者から免税事業者に戻る場合
課税事業者を自ら選択していた事業者が、免税事業者に戻るときは、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を、適用を受けようとする前年の12月31日までに所轄税務署に提出します。
届け出をして免税事業者に戻っても、基準期間や特定期間での売上(または給与支払額)が1000万円を超えたときは課税事業者になります。
3.簡易課税を選択するとき
課税売上高5000万円以下の事業者が、簡易課税制度を適用するときは、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を所轄税務署に提出する必要があります。
個人事業主の場合、届出の期限は前年の12月31日までとなります。
なお、原則として簡易課税を選択してから2事業年度は、一般課税に変更できません。
簡易課税から一般課税に変更するとき
簡易課税をやめて一般課税に戻るときは、「消費税簡易課税制度選択不適用届出」を、適用を受けようとする前年の課税期間の初日の前日まで、つまり個人事業主の場合は12月31日までに提出します。
消費税の確定申告と納付期限
消費税申告と納税は、原則として課税期間が終了した日の翌日から2か月以内に行います。つまり個人事業主の場合は、課税期間の翌年の3月31日までが期限です。
また、前年度の消費税額が48万円を超えた事業者は中間申告も必要になります。申告に必要な用紙とその記入方法は国税庁ページから入手・確認できます。
消費税の納税方法
消費税の納税方法には以下の方法があります。
電子納税(e-Tax)
電子納税(e-Tax)を利用すると、事前に登録した預貯金口座から振替をするダイレクト納付や、インターネットバンキングによる納付ができます。
振替納税
納付期限までに、所轄税務署または預貯金先の金融機関に口座振替依頼書を提出するか、e-Taxから口座振替依頼書を提出することで、振替納税をすることができます。
クレジットカード納付
専用のWebサイトからクレジットカードにより納付することができます。納付税額に応じた決済手数料がかかります。支払った額に応じてクレジットカードのポイント還元を受けることができます。
コンビニ納付
国税庁ホームページで納付に必要な情報をQRコードとして作成(印刷)することで、コンビニで納付することができます。納付金額は30万円以下となります。
窓口納付
現金に納付書を添えて、金融機関または所轄税務署の窓口で納付します。
スマホアプリ納付
令和4年(2022年)12月1日から、一度の納付につき30万円までであれば、PayPayなどスマホアプリからの納付も可能になりました。詳しくはこちら
税理士に依頼したときの費用は?
消費税申告だけを税理士に依頼する場合には、3万〜5万円前後が相場となっており、売上金額に応じて報酬金額も高くなる傾向があります。
税理士と顧問契約を結んでいる場合には、消費税申告にかかる費用が決算申告料に含まれているケースも多いです。
還付申告においては、成功報酬型の料金設定をしている税理士事務所もあります。その場合の料金は還付金額の約20~30%を見積もっておきましょう。
なお、あくまで一般的な料金相場ですので、実際の費用については契約前にきちんと確認するようにしましょう。
インボイス制度が個人事業主へ与える影響
先述した条件を満たせば免税事業者となることができますが、2023年10月導入のインボイス制度により、個人事業主でも課税事業者への転換を余儀なくされる可能性があります。
課税事業者は、「課税期間中の課税売上げ等に係る消費税額」から「その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額」を控除して計算(仕入税額控除)した消費税額を納付します。
しかしインボイス制度導入後は、いくつかの例外があるものの、実質は「適格請求書発行事業者」に支払った仕入にかかる消費税のみが控除対象になります。
つまり、現行制度では免税事業者・課税事業者いずれの取引であっても、仕入れにかかった消費税を差し引くことができますが、インボイス制度導入後は免税事業者からの仕入税額控除の廃止されることになります(※段階的)。
したがって現在免税事業者である場合、インボイス制度導入に合わせて課税事業者となるか、免税事業者のままで消費税を請求しないかを選択せざるをえなくなるのです。
制度開始時から適格請求書を発行したい場合、現行法人および個人事業者は、2023年3月末までに適格事業者としての登録を行い、適格事業者番号の発行を申請しなければなりません。
個人事業主が法人成りをし、免税期間を最大限に利用したい場合には早急に対応することをおすすめします。
おわりに
課税事業者に該当する際に、個人事業主から法人成りをした場合、最大2年間消費税の納税が免税されます。そのため今から法人成りをすることで、インボイス制度導入まで消費税が免除になる可能性があります。
法人設立後に経営や税務に関する相談をしたい場合は、法人成りするタイミングで顧問税理士をつけることを検討をするとよいでしょう。
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