雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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これからくるミステリ作家「野崎まど」と併せて読みたい5人10作

 2009年にメディアワークス文庫よりデビューした、野崎まどについて、既存の作品と絡ませながら紹介したいと思いますよ。
 ネタバレには、気を配っていますけれど、無意識の「やっちゃったZE☆」がないとも言えないので、気になるひとは気にしてください。

紹介しようと思ったきっかけ

 先日、Twitter読書会の企画で#これからくるミステリー作家というタグが用意され、多くの方がTwitter上で「これからくる!」と思う/思いたい作家を挙げられました。
 パッと見たところ、ここ数年でデビューし「確かに波が来るかも」と思える若手作家としては、似鳥鶏、相沢沙呼、梓崎優の名前が多かったかなという印象です。他には『虚構推理』で本格ミステリ大賞を受賞した城平京、ハルチカシリーズが人気を博し始めた初野晴、東京創元社ミステリ・フロンティアから5年ぶりの新作『星を撃ち落とす』を出した友桐夏などもチラホラと。
 ただ、群を抜いて多いなと感じたのは、野崎まどでした。
 なるほど、確かに、野崎まどには「これから」を期待させる何かがあります。

野崎まどについて

 2009年12月にライトノベルレーベル電撃文庫から、スピンアウトする形で始まった一般文芸/エンターテイメント向けのレーベル、メディアワークス文庫。その創刊ラインナップのひとつに、野崎まどのデビュー作『〔映〕アムリタ 』がありました。
 電撃小説大賞に応募されながらも、一般文芸向きと評価されたのか、新設された「メディアワークス文庫賞」の受賞作として、当時、話題を呼びました。
 得体のしれないペンネームですが、Wikipediaを見る限り、1979年生まれの男性である様子です。
 著作は今のところ、計6冊あります。2009年に1冊、2010年に2冊、2011年に2冊と最初のうちは半年に1冊のペースを維持していましたが、5冊目を出してからは、しばらく沈黙の期間が続いて、先日『2』という今までの作品の集大成の如き作品が刊行されました。

著作の紹介

『〔映〕アムリタ』

 自主制作映画に参加することになった芸大生の二見遭一。その映画は天才と噂される最原最早の監督作品だった。 彼女のコンテは二見を魅了し、恐るべきことに二日以上もの間読み続けさせてしまうほどであった。 二見はその後、自分が死んだ最原の恋人の代役であることを知るものの、彼女が撮る映画、そして彼女自身への興味が先立ち、次第に撮影へとのめりこんでいく。
 撮影は順調に進み、ついに映画は完成するのだが、試写会の翌日に起こった “ある事件”から、二見は最原の創る映画に隠された秘密を知ることとなり――?

http://mwbunko.com/product/2009/12_02.html

『舞面真面とお面の女』

 工学部の大学院生・舞面真面(まいつらまとも)は、ある年の暮れに叔父の影面(かげとも)からの呼び出しを受け、山中の邸宅に赴く。 そこで頼まれたこととは、真面の曽祖父であり、財閥の長だった男・被面(かのも)が残した遺言の解明だった。
 ――箱を解き 石を解き 面を解け
 ――よきものが待っている
 従姉妹の水面(みなも)とともに謎に挑んでいく真面だったが、謎の面をつけた少女が現われたことによって調査は思わぬ方向に――?

http://mwbunko.com/product/2010/04_04.html

『死なない生徒殺人事件〜識別組子とさまよえる不死〜』

「この学校に、永遠の命を持った生徒がいるらしいんですよ」
 生物教師・伊藤が着任した女子校「私立藤凰学院」にはそんな噂があった。話半分に聞いていた伊藤だったが、後日学校にて、不意にある生徒から声をかけられる。自分がその「死なない生徒」だと言ってはばからない彼女は、どこか老練な言葉遣いと、学生ではありえない知識をもって伊藤を翻弄するが……二日後、彼女は何者かの手によって殺害されてしまう――。果たして「不死」の意味とは? そして犯人の目的は!?

http://mwbunko.com/product/2010/10_02.html

『小説家の作り方』

「小説の書き方を教えていただけませんでしょうか。私は、この世で一番面白い小説のアイデアを閃いてしまったのです――」。
 駆け出しの作家・物実のもとに初めて来たファンレター。それは小説執筆指南の依頼だった。半信半疑の彼が出向いた喫茶店で出会ったのは、世間知らずでどこかズレている女性・紫。先のファンレター以外全く文章を書いたことがないという彼女に、物実は「小説の書き方」を指導していくが――。

http://mwbunko.com/product/2011/03_01_isbn.html

『パーフェクトフレンド』

 周りのみんなより、ちょっとだけ頭がよい小学四年生の理桜。担任の千里子先生からも一目置かれている彼女は、ある日、不登校の少女「さなか」の家を訪ねるようにお願いをされる。能天気少女のややや(注:「ややや」で名前)や、引っ込み思案の柊子とともに理桜は彼女の家に向かうが、姿を現したさなかは、なんと早々に大学での勉学を身につけ、学校に行く価値を感じていない超・早熟天才少女であった。そんな彼女に理桜は、学校と、そこで作る友達がいかに大切であるかということを説くのだったが……果たしてその結末は!?

http://mwbunko.com/product/2011/08_02_isbn.html

『2』

 数多一人は超有名劇団『パンドラ』の舞台に立つことを夢見てやまない青年。ついに入団試験を乗り越え、パンドラの一員となった彼だったが、その矢先に『パンドラ』は、ある人物によって解散を余儀なくされる。彼女は静かに言う。「映画を撮ります」と。その役者として抜擢された数多は、彼女とたったふたりで映画を創るための日々をスタートすることになるが――。
『全ての創作は、人の心を動かすためにある』
 彼女のその言葉が意味するところとは。そして彼女が撮ろうとする映画とは一体……? 全ての謎を秘めたままクラッパーボードの音が鳴る。

http://mwbunko.com/product/2012/08_05_isbn.html

2 (メディアワークス文庫)

2 (メディアワークス文庫)

と言うわけで、

 ここまで前フリです。
 ここからは、野崎まどの各作品と、他の作品を比較するような形で紹介して、野崎まどファンには「へえ、これは面白そうだ」と思ってもらい、取り上げた作品が好きな方には「どれ、野崎まど読んでみるか」と思ってもらえればと思います。
 そんな感じで。

天才という筆舌に尽くしがたい存在

 まずは森博嗣『すべてがFになる』です。
 正直、野崎まどと森博嗣の関連性は、既に充分に議論されていると思われるので、気恥ずかしいきらいもありますが、定番としてきっちり抑えることにします。
 1996年に刊行された森博嗣のデビュー作『すべてがFになる』は、建築学科助教授の犀川創平と学部の1年生である西之園萌絵を主人公としてS&Mシリーズの1作目となります。舞台は妃真加島という孤島で、真賀田四季という天才プログラマが登場します。理系ミステリィと呼ばれるこの作品は、全編を理系的思考が覆っており、さらに常人には理解することもできないほど高みに座する存在として「天才」が描かれています。
『アムリタ』に登場する最原最早も、また『すべてがFになる』における真賀田四季と同じく、作中では天才として描かれる女性です。最原最早が主人公に投げかける質問は、ときに意味深で、その軽妙な会話も森博嗣と似ているように感じられます。
 最原最早の映画を観たいと思っているひとなら、真賀田四季にもゾクゾクできると思いますよ。
 そして、もう1冊『すべてがFになる』が面白かった方には、是非シリーズの前半最終作ともなる5作目『封印再度』まで読み進めて頂きたい所存。野崎まどの中でも『舞面真面とお面の女』が好きなひとは、きっと楽しめるはず。

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)

天才その2と信頼できない語り手

 天才というキーワードで森博嗣を紹介してしまったら、そのフォロワーとなる西尾維新も紹介しておかないと片手落ちですよね。
 森博嗣『すべてがFになる』が刊行されてから「天才」という存在が登場する作品は、数多く書かれましたが*1、その中でも最もキャラクタライズされていて、かつインフレするほどに激しいのが西尾維新『クビキリサイクル』です。
 2002年に刊行された西尾維新のデビュー作『クビキリサイクル』には、何人もの「天才」が登場します。具体的には天才技術者、天才料理人、天才占星術師、天才画家、天才研究者といったところ。彼らとの会話は、意味深を通り越して無意味なのでは? と疑いたくなるほどですが、意味も無意味も「天才」の前には等しく無価値なので、問題ありません*2。
 まあ、冗談はさておき、ミステリ読みの間では、西尾維新の最高傑作は戯言シリーズ2作目の『クビシメロマンチスト』だと言われたりします。戯言遣いの面目躍如、この作品では、いーちゃんが好き勝手いろいろ騙るわけですが、それが極めて良く出来ています。ところで『2』を読んだ秋山は驚きました。『アムリタ』を先に読まれた方は、等しくあのシーンで「騙された!」と叫んだのではないでしょうか。

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社文庫)

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社文庫)

怪奇と怪談、日常と非日常

 野崎まど作品には、日常に紛れ込んだ非日常という要素が共通しているように感じられます。『アムリタ』には天才、『舞面真面とお面の女』にはお面の少女、『死なない生徒殺人事件』には不死の、『小説家のつくり方』には小説、『パーフェクトフレンド』には友情、『2』には創作。舞台そのものは現代日本で、何処にでもいそうな主人公が語り手を務めているはずが、気がついたら非日常に囚われている……みたいな。
 そんな作品の雰囲気について考えてみたとき、意外に乙一が、タッチとして似ているのではないかと思いました。
 特に、しっくり来るなあと思うのが乙一「A MASKED BALL ア マスクド ボール」(『天帝妖狐』所収)です。トイレの落書きをテーマに、ものすごい身近な日常から、どんどん話が膨らんでいくという構図が近いですね。なんとなく『死なない生徒殺人事件』を連想したりもします。表題作の「天帝妖狐」も、こっくりさんをモチーフとした怪談物で、狐というところが『舞面真面とお面の女』を思わせますね。
 もう1作、乙一で取り上げるなら、別名義で出版した山白朝子『死者のための音楽』かしら。怪談雑誌『幽』に掲載された短編を集めたもので、感動的な白乙一でも、後味の悪い黒乙一でもなく、その中間を行くような筆致です。
 ちなみに乙一は小学生や中学生が語り手の作品が多いので『パーフェクトフレンド』が好きなひとは、近いものを感じられるかもしれません。

天帝妖狐 (集英社文庫)

天帝妖狐 (集英社文庫)

死者のための音楽 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

死者のための音楽 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

ミステリなのかファンタジィなのか

 野崎まど作品の中で『舞面真面とお面の女』と『小説家のつくり方』は気に入っている作品です。あの精緻な論理展開を追ってからの結末は、たいへん好みです。
 ミステリと思わせながらファンタジィだったり、ファンタジィと思わせながらミステリだったという系統として、思い浮かぶのは2006年に刊行された三津田信三『厭魅の如き憑くもの』です。怪奇幻想小説家にして怪談蒐集家の刀城言耶が語り手を務める刀城言耶シリーズは、最後の一行を読むまで、ミステリなのかホラーなのか分からないという奇作で、毎巻、最後の最後まで気の抜けないシリーズです。
 終盤における怒涛の伏線回収も圧巻ですし、どんでん返しに次ぐどんでん返しも豪快なので、『アムリタ』に魅せられ、それ以降の作品を、ずっと追っている方には三津田信三も面白く読めると思います。
 三津田信三作品で、特にオススメなのは、刀城言耶シリーズの3作目『首無の如き祟るもの』です。『死なない生徒殺人事件』と同様に首切殺人を扱った上で*3、首切り談義を展開しているのが、これが凄まじい重量級です。最後の伏線回収や、どんでん返しも、シリーズ随一ですし、存分に期待して読んでも裏切られることのない傑作です。

厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

操りと敗北

 ミステリにおいてしばしば描かれる要素として「操り」と「探偵の敗北」というものがあります。前者は、本人も気づかないうちに他者に操られてしまい、殺人を犯してしまったり、あるいは間違えた推理を展開してしまったりするようなものです。後者は、ミステリにおいて絶対的存在であるはずの探偵が犯人に敗れるようなものをさします。
 野崎まど作品にも散見される、これらの要素が気に入っている方に、是非、勧めたいのは法月綸太郎『頼子のために』ですね。
『頼子のために』は推理小説家法月綸太郎が語り手となるシリーズ3作目です。17歳の娘を殺された父親が復讐を誓った手記から始まるものですが、とにかく中盤以降の展開が秀逸です。結末あたりは心臓が凍るのではないかというほどの衝撃があって、うん、良い作品です。にっこり。
 もうひとつ取り上げたい作品としては、やっぱりデビュー作『密閉教室』でしょうか。全体的に青臭くて、がんばりが空回りしていたり、目も当てられないほど痛々しい描写が多いのですが、好きか嫌いかで言えば大好きな作品なんですよね。いや、ほら、野崎まど作品でも、主人公がときどき痛々しいじゃないですか。

頼子のために (講談社文庫)

頼子のために (講談社文庫)

新装版 密閉教室 (講談社文庫)

新装版 密閉教室 (講談社文庫)

振り返って見て

 存外に長くなってしまいました。
 けれど、こうして文章にしてみると、自分が、どうして野崎まどを好んで読んでいるのか分かってきますね。結局、自分にとって野崎まどは、森博嗣や西尾維新のようなインパクトのあるキャラクタが軽妙に掛け合いを続けながら、いつの間にか日常に乙一や三津田信三のような怪奇が覆い始め、最後は、ときに法月綸太郎をほうふつとさせるミステリで締めてくれるというような作家なのでしょうね。

これからくるミステリ作家として

 1年かけて書かれた『2』は、『アムリタ』から『パーフェクトフレンド』に至るまでの5作をまとめあげる、集大成のような作品でした。なんとなく、この作品で野崎まど第一部完! という感じです。野崎まどが、充分に力を持っていて、充分に面白い作家であることは、この6冊で証明されたと思うので、次からが勝負な気がします。
 つい先日、新刊が出たばかりですが、早くも次の作品が楽しみです。このミスや本ミスにランクインしないかなー。

*1:話はずれますが、三雲岳斗『M.G.H. 楽園の鏡像』も素敵な天才が登場します。

*2:というような感じの文章が楽しめます

*3:あ、すっかり失念していましたが『クビキリサイクル』も首切物ですね。