100とは

イタリアンサドルレザーベルト

イタリアンサドルレザーベルト

強くなれたあの日

子どもの頃の僕は、なにしろ臆病で、ちょっとしたことで人一倍怖がる子どもだった。

道を歩いていても、人がいなければ、しんとして怖いと言い、人がいれば、あの人が怖いと言うように、何かあるたびに、いちいち怖がって、親に面倒をかけた。

8歳の時、町外れにあった柔道の道場に通うことになった。自宅から道場までは、歩いて30分の距離だった。夕方の暗くなった道を一人で歩くのだ。柔道を習うのは楽しいけれど、その行き帰りが僕には怖くて仕方がなかった。

「明るい道を歩けば大丈夫よ」と母は言ったが、途中にあるうっそうと茂った木々や、お化け屋敷に見える家や、なんだか不気味な曲がり角など、僕にとっては怖いものだらけだった。

目をつむって歩いたり、走ってみたり、時には大きな声で歌をうたいながら歩いたりと、子どもながらの工夫をするけれど、そうすればそうするほどに怖さは大きくなって、通うことに僕は、駄々をこねるようになった。

ある日、そんな僕をみかねた父が、「これで今日から強くなって、何も怖くなくなるぞ」と言って、革のベルトを買ってきてくれた。

その頃の僕にとってベルトとは、チャンピオンベルトであったり、ヒーローの変身ベルトだったりと、かっこよくて強い者の証だった。しかも、本物の革のベルトなんて、同い年の子どもで持っている子なんていなかった。

「このベルトをつければ、もう何も怖くはない。強くなれるんだ。ほら、つけてみろ」と父は言った。

強くなれたあの日 ストーリーイメージ

僕は生まれて初めて、ベルトというものを自分の腰に巻いた。

「違う違う、ちゃんとこの間を通して巻くんだ」。つけ方を知らず、ベルトループに通さずに、はいていたジーンズの上から、そのまま腰に巻いた僕を見て、父は笑って言った。

「おお、なかなかかっこいいな。これでもう大丈夫だろ。強く見えるぞ」

僕はベルトを巻いた自分を鏡に映してみた。

父が買ってくれたベルトは、やせっぽちの僕には少し大きくてゆるかったが、なにより四角いバックルがまぶしかった。そして、本物の革のいいにおいがした。

「かっこよくて、強くなった」。僕は鏡に映った自分を見てそうつぶやいた。どんな怖い道だって一人で歩けると思った。

イタリアンサドルレザーベルト

イタリア職人の情熱

“本物”かつ“高品質”のベルトを目指し、世界有数の皮革産地であるイタリア・トスカーナ州のクラフトマンと取り組んだレザーベルト。

イタリアンサドルレザーベルト
イタリアンサドルレザーベルト

その土地に住む先人たちの知恵と技術、情熱が詰まった、タンニンなめし加工を施したベルトは、使い込むほどに味わいが増し、深みあるエイジングに成長していくのが最大の魅力。ていねいで質実な手仕事の極みが冴えわたる。

イタリアンサドルレザーベルト

一人で歩くこと

大人になっても、怖いと思うことは、毎日のようにたくさんある。僕はいまだに怖がりだ。

けれども、怖いと思うその気持ちを無くしてしまったらいけないとも思う。

いつだって人は、その怖さを乗り越えるために、必死に学んだり、とことん考え抜いたり、歯を食いしばって耐える力を育ませるからだ。

サンフランシスコを一人で旅していた時、いつも一人でいるという怖さを、僕ははじめて経験した。本当の意味での孤独を知ったというか。

テンダーロインのホテルに泊まりながら、知り合いや友だちと呼べる人が、多少出来たとしても、いつも一緒にいるわけでもなく、今ここにこうしているのは、自分一人きりであり、何があっても一人で向き合うしかないという現実は、当たり前のようだが、若かった僕にはなかなか辛かった。

「読書くらい、自由になれることはない。物語の中に入りこんで、どんな自分にもなれるからさ。けれども、自由になればなるほど、人は孤独になるんだ。そう、自由とは孤独なんだ……」

ある日、ロバート・ルイス・スティーブンソンの『宝島』を買った古本屋の主人が、僕にこう話してくれた。

「孤独にはなりたくない。孤独は怖いです」と僕は言った。

「いや、君はすでに孤独なんだよ。孤独とは、人間の条件だからさ。誰もが一緒だよ。孤独なのに、孤独は嫌だと受け入れないからいつまでも怖いんだ。孤独を受け入れ、孤独を愛することさ。そうすれば人はもっと強くなる」。

古本屋の主人は膝にのせた猫をなでながらそう言った。

「孤独とは人間の条件……」

「そう、孤独とは人間の条件さ。孤独だからこそ、人を思いやり、人の弱さがわかり、人を助け、人を愛するのさ」。

一人で歩くこと ストーリーイメージ

頭ではわかった。だからと言って、今すぐ孤独を受け入れ、孤独を愛することができるようになれるのか。そうなりたいけれど、まだそうなれない弱い自分がいた。

けれども、この世界にいる人が皆、同じように孤独であると知れただけで、僕はなんだか気持ちが安らいだ。

そして、いつか父が買ってくれた革のベルトを思い出した。あの時、僕は、ベルトという憧れのお守りを手に入れ、確かに一人で歩くという孤独を受け入れたのだった。

イタリアンサドルレザーベルト

スタイルを格上げ

イタリアンレザーベルトの中でも、最も重厚感のある「サドルレザーベルト」。入手が困難とされる厚さ4mmの堅牢な革は、一流高級靴の靴底を供給してきた「ヴォルピ」社との取り組みによって実現。

イタリアンサドルレザーベルト
イタリアンサドルレザーベルト

切り込みの入った、伝統的な穴の処理は、こだわりの証。デニムやチノなどカジュアルなスタイルに相性抜群。トラディショナルで本物志向な存在感が魅力。

日の終わりに、パンツから外して、テーブルに置いてみる。質実剛健な、かっこよさがある。そんなベルトを選びたい。

松浦弥太郎
イタリアンサドルレザーベルト
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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