気持ちいいでしょ? あんたの作ったネットワークよ。
平凡な社会人一年生、桜坂工兵は厳しい就職活動を経て、とあるシステム開発会社に就職した。そんな彼の教育係についた室見立華は、どう見ても十代にしか見えないスーパーワーカホリック娘で!?
多忙かつまったく優しくない彼女のもと、時に厳しく指導され、時に放置プレイされながら奮闘する工兵。さらには、現場を無視して受注してくる社長のおかげで、いきなり実際の仕事を担当させられることになり―。
システムエンジニアの
[tegaki font=”mincho.ttf”]なれない! SE!![/tegaki]
これは面白い! だけど、痛い!!
なんだか身につまされるエピソードが立て続けに出てきますよ? いや、主人公の工兵の、半分どころかほとんどブラックな会社・スルガシステムへの就職の顛末については割と同情できないような気もするんですが、でも、彼のような流れでこの業界へと身を投げてしまう新入社員も少なくなかったりするのではないかという思いも抱いてしまいますね。
私自身は本職のSEでもないですし、作中に登場するような立華をはじめとするプロフェッショナルなスキルも持っていない、むしろ工兵の側の人間ですが、この過酷な労働環境は文字だけで追っていてもシャレにならないなあと、SEを生業にしているひとたちの想像を絶する苦難に涙をぬぐいかけてしまいますが。
電撃文庫というレーベルでこういう作品を出すというのも英断だなあと思いますね。まぁ、すでに『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』なんて作品もありますから、受け入れられる土壌はあるんでしょうけれど、業界を志すひとたちの夢をことごとく打ち砕くようなないようですからねえ(笑) 本編も荘だけれど、あとがきものっけから「SEにだけはなるな!」ですからね、実体験が語られているだけに、そのことばの重みは生半なものではありませんねー。
まぁ、それでもラノベという枠の中で展開するお話だけに、工兵がたたき込まれた、理想とあまりに違う現実にただただ押しつぶされるだけでないのは不幸中の幸いかと。右も左もわからない初心者が、初日からいきなり実戦投入されるような無理難題を押しつけられて、それでも逃げないということ、さらにはその苦しみをバネに挽回してみせること、そして初心者なりに初歩の知識と技術を早々に身につけていくこと、などを見ると、おいお前、適性あるんじゃないか? とか思えてきてしまいますから。というか、付け焼き刃にしろなんにしろ一晩集中しただけで業務用ルータの簡単な設定をこなせるようになるとか、初心者とは思えませぬっ……!
工兵の指導役となった立華の方は、彼とは正反対にSEとしての実力と矜持を兼ね備えてはいるものの、それ以外の部分はてんでダメという、ふたり揃ってのデコボココンビ。見た目、幼くて、けれど凄腕というはいはいフィクションフィクションとスルーしてしまいそうなキャラ設定ですけど、話す内容は生々しいだけにキャラ造形意外の部分で、彼女のを実感してしまったりして苦笑。対人関係からして不器用な彼女のそばにいることを何とか許された工兵が、スパルタな彼女のもとで見事一人前のSEへとたたき上げられるのか、あるいは一瞬の高揚に浮かれた彼が現実を再認識してスタコラサッサと逃げ出すのか。人間関係的な部分では、本当に始まったばかりだという感じなので続巻があるならそこら辺の掘り下げも期待したいですね。
内容が理解できればできるほど、このブラックな状況に嫌な笑いが浮かんでしまうという、泣き笑いなお話でしたよ。いろいろな意味で一部で話題になりそうな予感です。
hReview by ゆーいち , 2010/06/15
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