TINAMIX REVIEW
TINAMIX
東浩紀インタビュー TINAMI(X)との対話 オタク的図像と検索型世界像
東浩紀×編集部(まさしろ/相沢恵)
東:東浩紀 ま:まさしろ 相:相沢恵

1.TINAMIという検索エンジン

写真1

東:
僕はこのあいだ、青山ブックセンターの講演をTINAMIの検索データにもとづいた統計資料で締めさせていただいて、ルネッサンスジェネレーションの講演でも同じ資料を使わせていただいた。TINAMIの活動には大変興味を持っています。今日は、インタヴューに来ていただいたので、逆に、ふだんあまり聞いていないTINAMIの理念というか、考え方についてこちらから聞きたいと思っています。

ま:
わかりました。TINAMIというのはTINAMIXの上にあるのでご存じの方もいらっしゃるかもしれないんですけど、基本的にはアニメ・マンガのイラストを描いている方々のウェブページを集めた検索エンジンです。従来、アニメ・マンガのイラストを集めた検索エンジンというのは、いわゆるファンアートと呼ばれるイラスト、それに対するジャンル分け――たとえば『CCさくら』であるとか、古いところだと『セーラームーン』であるとか――作品のファン活動の一環として描かれたイラストレーションとそのサイトをジャンル分けで紹介していたんですね。

東:
ジャンル分けというか、オリジナルの作品ごとに分類するみたいに?

ま:
ええ、そういった分け方が一般的なんです。同じことはTINAMIもある程度はやっているんですけど、基本的にはどういう図像をみんな描いているのか、というところに注目して集めてみよう、と。

東:
つまり作品オリジナルのタイトルではなくて、図像そのものの特徴を分類するということですね。そこがまさに僕の関心を引いているんですが、最終的にはTINAMIでやりたいことってどういうことなんですか?

ま:
そうですね。いま同じアニメ・マンガ系であっても、いろんな絵が氾濫していると思うんですよ。つまりすごくリアルチックなものであったり、ディフォルメの効いたいわゆる「ぷに絵」と呼ばれるものであったり。これらはいろんな幅があるんですけど、僕らは鑑賞する際に「好きな絵/嫌いな絵/可愛い絵/カッコイイ絵……」と取捨選択を働かせていると思うんです。この取捨選択が、どういう感覚から来ているのだろうか、これが根本的な問いですね。

たとえばディフォルメの効いた絵があるとして、「ディフォルメ度がここまでだったらオッケーなんだけど、これ以上リアルになっちゃったら僕は好きになれない」とか、そういうラインが必ずどこかにあるはずではないか。そうすると、絵の幅が、なんらかのかたちで数値化できないか、その仕組みを数値化できないか、という思いが漠然とあって。
注1:ニューラルネットワーク
神経系の知覚、学習、記憶の働きをシミュレートする計算モデル。個々の神経細胞 にあたるユニット間の結合が、経験の効果で変化することにより、脳に似た知的働 きが生みだされるとする。

東:
ルネッサンスジェネレーションの講演でもいったことなんだけど、その試みを見ていて僕は次のように考えたんですね。オタク的なデザインは、実は、顔を認知するときにニューラル・ネットワーク*1が行っているような方法で作られているんじゃないか、ということです。つまり、「顔」そのものを一気に認知するのではなく、目、顔、口……、といったいくつもの要素があり、それらが自由に組み合わされ、変形されることでどんどんデザインが進化しているような、そういうモデルで捉えるといいんじゃないか。さらにオタク系文化で面白いのは、こうした「要素」がどんどん増えていることですね。

たとえば僕は講演で初音ちゃんの触覚*2を例に出したんだけど、ああいうタイプの髪の毛そのものは以前から描かれていたのだと思う。でも、その髪のかたちが「要素」として認知され利用されるようになったのは、やはり最近のことなんじゃないか。あとメイドもそうじゃない。もとを辿れば大島弓子の「綿の国星」や、それこそ「不思議の国のアリス」にまで行き着くのかもしれないけど、メイド萌えが突出してくるのはここ10年なんじゃないか。そういうタイプの要素がいろいろ登録されて、組み合わされると、それこそ「触覚度30%、メイド度50%、天使度20%」のようなデザインが出てくる。僕は、そんな風にしてオタク系のデザインを見てるんですね。【クリックすると動画を再生します:要RealPlayer】
注2:初音ちゃんの触覚
『痕』(96年/Leaf)に登場する柏木四姉妹の末妹、柏木初音の跳ねあがった、特徴的な髪の毛のこと。また同ブランドがリリースした『初音のないしょ』のタイトルデザインは、強調した触覚をデザイン化したものとなっていることから、制作者の自覚がうかがわれて興味深い。

またそれがある程度妥当だろうと思われるのは、この10年はまた、オタク系の店がどんどん充実してきて、ついに秋葉原がオタク化した時代でもあるわけですね。秋葉原にいま行くと、それこそギャルゲー系のポスターがバーッと一面に貼ってあって、これはまた絵がおそろしく似ているわけじゃない。似ているんだけど少しずつ違うというもののなかで、ある特定の個体が選択されて、今度はまたそれに似たものがバーッと増えて……というような、俗流進化論の実験室みたいな空間がそこには作られている。それはまさに、ニューラル・ネットワークの訓練そのものなんですよ。

いずれにせよ、オタク系デザインの消費というのは、ちょっと社会的な離島みたいなところがあるじゃない。特にギャルゲーなんかは。ギャルゲーの消費者層は僕の印象では、結構固定していて、主に専門店に通っているわけでしょう。で、その専門店に行くとギャルゲーのデザインがバーッとある。そこにはオタク系以外のデザイン的な要素が流れこんでいきにくいから、必然的にどんどん純化され、実験が進んでいるんじゃないか。これがここ数年僕が感じ続けていたことで、そこがまたTINAMIの試みと重なる部分でもある。そこでまさしろさんに訊きたいんだけど、いまTINAMIが検索エンジンでやっているパラメータ検索は、どんな感じで作られているんですっけ?

ま:
図像的パラメータとしては、ウェブサイト自体の年齢制限であるとか、キャラクターの絵の比率、あと絵柄の設定――これはディフォルメ度という一次元のスタイルで設定していく。それからキャラクターのなかで男女の割合がどれくらいあるか、描かれているキャラクターの年齢ですね。

東:
それに加えて、カテゴリーやキーワードでの検索もできるわけですよね。それを見て僕が思うのは、おそらく、まさしろさんがTINAMIをはじめたときは、オタク的なデザインという巨大なデータベースがあって、そのデータベースを最も的確に、すばやく検索するにはどうしたらよいのか、という単純な欲望から始まったんだと思うんですね。でも結果として出てきたものは、僕なんかが見ると、オタク的な図像全体の地図というか、オタク的な図像を支える論理や規則が逆に示されているというか、そんなものになってきている。

そういう論理というのは、一人ひとりは意識してないんだろうけど、集団としてみるとはっきり分かる。たとえば、天使度が低いものから高いものまで多数の図像をズラーッと並べることができる。集団としてみるとそのスペクトルの存在はあきらかで、しかも、時代によって重点がこっち側にずれたり、あっち側にずれたりする、という動きが、実はいまTINAMIを利用すると分かるようになっている。

普通サブカルチャーは何でもそうだけど、文化について語るときは、まず作家や作品で分類していくしかないんですね。それに対して、TINAMIは全然違ったタイプの分類を提案しようとしている。その変化が、結果的に、オタク的な図像の進化の特質をうまくあらわしている。だからこれは、これは非常に面白い試みだと思うんですよ。オタクにとっても、オタクと無関係な人々にとっても。

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