6. 4.なぜ大学で「アントレプレナーシップ」なのか?
アントレプレナーシップは、長らく経済学のテーマの一つにすぎないと考えられてきた。しかし、
最近の研究では、アントレプレナーシップが現代経済における富の創出の主役として先導的な役割を
担っていることが認められている。少なくとも過去20年の世界では、たえず新しい事業が誕生し、そ
れらの事業の原動力であるアントレプレナーシップは人間の幸福を向上させるうえで重要な役割を果
たしている。
こうした認識がある中で、アメリカの大学ではアントレプレナーシップに関する講義は急激に増加
している。以前からビジネススクールでは一般的なカリキュラムとして扱われていたが、近年は関心
が高まる中で学部教育の中で最も急速に拡大しているテーマである。 ある調査によれば、1985年当時、
アメリカの大学で設置されているアントレプレナーシップ関連科目は約250だったものが、 2008年現在
では5000を超え、アントレプレナーシップを専攻科目にできる大学のプログラムは、1975年の104校
から2006年には500校超へと増加している。
下の表は、アメリカのアントレプレナーシップ教育で最先端にあるバブソン大学(米マサチューセ
ッツ州)経営学部で開講しているアントレプレナーシップ関連科目のリストである。一見してわかる
ように、大学ではベンチャービジネスの経営だけを教えているのではない。ファミリービジネス(家
業)や大企業のコーポレート・ベンチャー、世界各国のアントレプレナーシップ、あるいは社会問題を
アントレプレナーシップの視点で分析して解決に向け取り組もうとする社会学関係の授業もいくつか
設けられている。これは4年制学部の大学生(ビジネススクール等の院生ではない)に対する授業であ
り、専攻科目としてだけではなく「教養科目」としてアントレプレナーシップが教えられていること
がわかるであろう。
バブソン大学・経営学部(学部)のアントレプレナーシップ関連科目
分野 主テーマ 講義の名称(英語原文)
経営管理 事業機会 Entrepreneurship and Opportunity
成長事業の経営管理 Managing Growing Businesses
テクノロジー New Technology Ventures
起業家論 Great Entrepreneurial Wealth: Creation, Preservation and Destruction
ファミリービジネス戦略 Key to Success Family Business Enterprises
起業家としての家業経営 Family as Entrepreneur
コーポレート・ベンチャー Corporate Entrepreneurship
マーケティング Marketing for Entrepreneurs
成長戦略 Venture Growth Strategies
事業の実践演習 The Ultimate Entrepreneurial Challenge
ファイナンス 資金調達 Raising Money-VC, Angels & Incubators
ベンチャーファイナンス Entrepreneurial Finance
国際 中国の起業 Entrepreneurship and New Ventures in China
中南米の起業 Entrepreneurship in Latin America
アジアの起業 Entrepreneurship in Asia
社会 社会的起業家論 The Enlightened Entrepreneur: Changemakers, Inspired Protagonists, and Unreasonable People
社会的起業の計画 Social Entrepreneurship by Design
社会的起業の経営管理 Social Enterprise Management
社会問題の観察 The Enlightened Observer
環境と起業 Environmental and Sustainable Entrepreneurship
トルコの環境関連起業 Social Responsibility through Eco-Enterprise in Turkey
アフリカの起業と社会 South Africa: Entrepreneurship, Culture, & Society in Developing Economy
文化 起業的文化 The Creation of Entrepreneurial Culture within your Organization
ワークショップ 起業体験(一般) Living the Entrepreneurial Experience (General Focus)
起業体験(企業) Living the Entrepreneurial Experience (Corporate Focus)
起業体験(技術開発) Living the Entrepreneurial Experience (Technology Focus)
起業体験(家業) Living the Entrepreneurial Experience (Family Focus)
起業体験(社会起業) Living the Social Entrepreneurial Experience
(出所)バブソン大学ホームページ。
さらには、最近の大学自体が、起業活動を行っている。各大学は「技術移転オフィス」 (TLO、
Technology Transfer Office。)を通じて、大学内の教員や研究者がベンチャービジネスを設立して自ら
の研究を市場向けに商品化することを支援している。研究機関としての大学は、イノベーションや、
新たな企業の基礎となるような新たな製品・プロセスの創造という点で、唯一ではないにせよ重要な
源泉となっているのである。大学が教員による重要な活動としてアントレプレナーシップを掲げつつ、
そうした活動を学生たちに教えていないとすれば、学校の使命と実践が乖離してしまう。
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10. Ⅱ.起業家とベンチャービジネス
起業家とベンチャービジネス
(1)起業家の意味
(きぎょうか、英語:entrepreneur アントレプレナー 「企業家」とも言う。
『起業家』 entrepreneur アントレプレナー。
entrepreneur、アントレプレナー )とは、自
ら事業を起こす者をいう。日本では、通常はベンチャー企業を経営する人々を指すことが多いが、欧
米では自営業者や家業、あるいは新しい社会的組織の立ち上げ(社会起業家)などを含めて、日本よ
りも幅広い意味に使われている。英語のentrepreneurは、フランス語である"entrepreneur"(アント
ルプルヌール、請負業者・起業家)の英語読みから始まった。
何かに取りかかる、 事業を興すという意味の言葉としては、英語には「undertake」が一般的である。
しかし、「undertaker」には「葬儀屋」という意味もあることが嫌われて、現在では「entrepreneur」
というフランス語起源の言葉が「起業家」に相当する英語になっている。
ntrepreneurの定義)
(Entrepreneurの定義)
An entrepreneur is a person who has possession of a new enterprise, venture or idea and is
accountable for the inherent risks and the outcome. The term was originally a loanword from
French and was first defined by the Irish-economist Richard Cantillon. Entrepreneur in
English is a term applied to a person who is willing to launch a new venture or enterprise and
accept full responsibility for the outcome. Jean-Baptiste, a French economist, is believed to
have coined the word "entrepreneur" in the 19th century - he defined an entrepreneur as "one
who undertakes an enterprise, especially a contractor, acting as intermediately between
capital and labor.
起業家は、新しい事業や挑戦を行おうとする熱意を持った人間であり、リスクや結果への責任を持つ人々で
ある。この言葉はもともとフランス語から借用され、アイルランドの経済学者リチャード・カンティヨンが初
めて定義したものである。英語では、起業家という用語は、新しいビジネスや企業を設立し、結果に対する全
責任を負うことをいとわない人間に対して適用される。フランスの経済学者ジャン=バティストは、19世紀に
起業家という言葉が生まれたと考えており、彼は、起業家について、資本と労働の中間的存在として活動し、
その二つの要素の活用を請け負って、企業経営を引き受ける人間と定義した。 (Wikipediaより引用)
(2)アントレプレナーシップの解釈
Entrepreneurship is the act of being an entrepreneur, which can be defined as "one who
undertakes innovations, finance and business acumen in an effort to transform innovations
into economic goods".
アントレプレナーシップは、起業家、すなわちイノベーションを経済的価値に転換しようとして技術革新や
金融活動やビジネス技術に取り組もうとする人々の諸活動のことを言う。 (Wikipediaより引用)
『アントレプレナーシップ』(英語:entrepreneurship)は、日本では通常「起業家精神」 (あるい
は企業家精神)と訳されることが多い。すなわち、心の動き、魂、気力、理念、自尊心といった心理
的気質をあらわすかように認識されることが少なくない。日本では、おそらく「スポーツマンシップ」
(スポーツマン精神)の解釈にまねて、entrepreneurshipの接尾辞である"-ship"を「精神」と解釈し
たかもしれない。
しかし、上表のように、entrepreneurshipの英語を日本語に訳すと、起業家の活動、新しい事業を
生み出す活動、という意味となっている。つまり、英語のentrepreneurshipは、日本語で「起業家精
神」 と表現される精神的な意味よりも、 新しい事業を起こすという活動の全体的な意味を持っている。
日本の研究者においても、たとえば清成教授は『企業家とは何か』 (清成忠男編訳、東洋経済新報社、
1998年)の序文で「アントレプレナーシップは、正確には精神をも含めた全体的な企業家活動を意味
する」と述べている。
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