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ネットワークで
なぜ遅延が⽣じるのか
加藤 淳
2016/12/25
Who am I ?
• ネットワークエンジニア
• 某外資系メーカ勤務
Twitter: @jkatojp
Jun Kato / 加藤 淳
Q. ネットワークの遅延
(Latency)は限りなくゼロに
近づけることが可能である
Yes or No
1パケットの視点で⾒る
ネットワーク遅延
プロセス遅延 (Processing Delay)
パケット
出⼒先決定
ヘッダ書き換え
フィルタリング
QoS
統計情報取得
カプセル化
筐体内転送
• 伝送装置
• メディアコンバータ
• スイッチ
• ルータ
• NAT装置
• 仮想化装置, IPsec, etc
• 通信機器の⼊⼒インターフェイスで受信して
出⼒インターフェイスのキューへ送るまでにかかる時間
出⼒
キュー
パケット
ルータの例
暗号化
キューイング遅延 (Queueing Delay)
• 通信機器の出⼒インターフェイスキューに⼊ってから
出⼒処理を⾏なうまでにかかる時間
出⼒キュー
• 出⼒処理より速いペースでパケットが届くとキュー待ちが増える
• 広帯域回線から狭帯域回線への転送、⼀時的な輻輳 (バーストト
ラフィック) などへの対応
優先制御
キューイング
スケジューリング
シリアル化遅延 (Serialization Delay)
• 通信機器の出⼒インターフェイスからパケットを電気信号や
光信号に変換して送信完了するまでにかかる時間
出⼒キュー
広帯域回線では短い
狭帯域回線では⻑い
パケット パケット
信号変換
1500バイトのパケットの送出にかかる時間は
• 10GEでは1.2マイクロ秒
• ISDN(64Kbps)では187.5ミリ秒 (187,500マイクロ秒)
伝搬遅延 (Propagation Delay)
• パケットが通信経路上を伝わるのにかかる時間
• 光ファイバの伝搬速度はおよそ 2.0*108 m/s
• 媒体により速度固定。光速より遅い (屈折率, 波⻑短縮率)
パケット パケット
伝搬遅延の理論値
• 東京〜⼤阪間 500km 往復 5ミリ秒
• ⽇本〜アメリカ⻄海岸 海底ケーブル 9,000km 往復 90ミリ秒
• ⼈⼯衛星 静⽌軌道 上空36,000km 2往復 500ミリ秒
※ 実際には他の遅延も含めもっと⻑くなる
半⼆重通信 (Half Duplex)
• データの送信と受信を共通の伝送路上で⾏う
• 伝送路上に3台以上の装置が存在可能
• 送信が可能なのは同時に1台のみ (帯域を共有)
• Wi-Fi (CSMA/CA⽅式) や初期の Ethernet (CSMA/CD⽅式)
ßà全⼆重通信: データの送信と受信が独⽴な伝送路
• 他の装置が送信している時、⾃分は送信できない
• 伝送路を共有する装置やトラフィックが多いと
待ちの確率が⾼まる
• 送信に失敗した場合は⼀定時間を待って再送する
Wi-Fi Access Point
送信中
広帯域回線 ≠ ⾼速回線
• 広帯域回線はキャパシティは⼤きいが
「速い」のはシリアル化遅延のみ
• 伝搬速度は物理法則(光速)を超えられない
広帯域回線 狭帯域回線
通称 ⾼速回線 低速回線
例 100G Ethernet ISDN 64K
プロセス遅延 トラフィック量と処理により変動
キューイング遅延 出⼒側回線帯域使⽤状況により変動
シリアル化遅延 短い ⻑い
伝搬遅延 物理媒体ごとに⼀定
エンドツーエンドで⾒る
ネットワーク遅延
RTT (Round Trip Time)
• RTT とは宛先にリクエストを送って応答を受け取るまでの
エンドツーエンドの往復所要時間
• 往復ではなく⽚道のみの所要時間を計測するのは難しい
リクエスト
応答 (Ack)
RTT = ① 往路のネットワーク遅延 + ② 宛先ノードの処理時間
+ ③ 復路のネットワーク遅延 + ④ 発信元ノードの処理時間
① ②
③
④
エンドツーエンドの経路
• 利⽤している通信端末とサービス提供者の間には様々な
ネットワーク事業者が介在する
• RTT はこの経路全体の遅延を合計した値
携帯キャ
リアA
ISP B
クラウド
事業者 C
D社サーバ
MVNO
事業者 E
ISP F
MVNO事業者(格安SIM)利⽤時の経路
携帯キャリア利⽤時の経路
• ⽬的のサーバにどのネットワーク事業者を経由するのか⼀つの事業者では
すべてコントロールできない
• 事業者間の相互接続点がエンドツーエンドで最適な場所にあるとは限らない
à 札幌同⼠の通信でも異なる事業者間では東京を経由したりする
公衆WiFi
事業者 G
TCPフロー制御
• TCP は送信パケット(セグメント)に対する応答 (Ack) を常
に要求する
• 仮に1セグメントずつ応答を要求すると、最低でも
「セグメント数 x RTT」の時間を要し⾮効率となる
• TCP では⼀度に送受信可能なデータ量 (TCPウィンドウサ
イズ) をネゴシエーションしまとめて送信することで、
ネットワーク遅延の影響を⼤きく軽減している
• TCPウィンドウサイズは動的に変更される
データ
応答 (Ack)
データデータ
TCPウィンドウサイズ
アプリケーションの性質
• アプリケーションの通信パターンによって
体感速度や体感遅延は⼤きく異なる
– バースト型
• Webブラウジング
• ネットラジオ
• チャット
– リアルタイム型
• ⾳声通話アプリ
• オンラインシューティングゲーム
– ストリーミング型
• ビデオストリーミング
ネットワーク遅延の増⼤要因
TCPアプリケーションでの遅延
• TCP の場合、ネットワーク遅延の影響はフ
ロー制御で少なからず軽減される
• むしろ通信経路上のパケット消失による再送
の⽅がTCPセッション全体の処理時間に⼤き
な影響を及ぼす
• パケット消失の原因としては
– 輻輳や処理性能超過による破棄
– 伝送経路の信頼性低下によるエラー
– ルーティングの変化による⼀時的なループ
– その他
使⽤率の増加、輻輳 (Congestion)
• 回線帯域使⽤率が100% (ラインレート) に近づくにつれ
出⼒キューの⻑さが急激に伸びる
à キューイング遅延増⼤
• キューの⻑さ (バッファ) は有限
• キューイングできないパケットは破棄される (輻輳の発⽣)
出⼒キュー
キューイング
パケット破棄
(輻輳の発⽣)
帯域使⽤率
ほぼ100%
使⽤率の増加、輻輳 (Congestion)
• M/M/1待ち⾏列モデル
• Tw =
!
"#!
×Ts
Tw: 平均待ち時間
Ts: 平均サービス時間
ρ: 利⽤率
利⽤率が100%に近づくにつれ
待ち時間が急激に伸びる
利⽤率
平均待ち時間
• 回線帯域使⽤率の他、
サーバの処理性能にも
同様のことが⾔える
• 遅延や輻輳の観点からは、
リソースを処理性能の限
界まで使い倒さないこと!
特定トラフィックの優先制御
• 優先制御 (プライオリティキューイング)
低遅延を保証する QoS 機能の⼀つ
• あなたのインターネットトラフィックは通常ここ
には含まれない
(他事業者 (OTT) が提供するインターネット⾳声
通話含む)
• 優先される通信
– ネットワーク維持に必要な制御パケット
– ルーティングプロトコル
– ネットワーク事業者⾃⾝が提供する⾳声、ビデオ
– ネットワーク事業者⾃⾝が提供するサービス
– など
QoS: ポリシングとシェイピング
Shaping
Traffic
Time
Traffic Rate
Traffic
Time
Traffic Rate
PolicingTraffic
Time
Traffic Rate
Traffic
Time
Traffic Rate
指定帯域超えの
アクション
遅延 ジッタ ⽤途
ポリシング 破棄 低遅延 ⼩ ⾳声、ビデオなど
シェイピング キューイング 増⼤ ⼤ TCPアプリケーション
伝送経路の迂回
• ISPや回線業者はメンテナンスや障害対応などで伝送経路
を迂回させることがある
• 迂回経路は同⼀設備や中継点を通らないことが望ましい
• ところが…
東京
⼤阪
• 迂回経路は通常経路よりも概して遅延が⼤きい
• 国内で数⼗ミリ秒 増加するケースもある
• ISP関係者から聞いたお客様からのクレーム
「いつもより遅延が5ms⼤きいんだけど、どうなってんの?」
その低遅延要求、本当に必要ですか??
東海廻り
北陸廻り
まとめ A. どんな回線も光の
速さは超えられない

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