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鯖江市オープンデータへの取り組みをさらに推進するために
~現在の課題とあるべき姿および推奨施策〜
Code for Japan
2014 年 10 月 31 日
作成:コーポレートフェロー SAP ジャパン 奥野和弘
2
本資料について
本資料は、コードフォージャパンのコーポレートフェローとして鯖江市のオー
プンデータ戦略を考える為に 2014 年 10 月中旬から 11 月末まで鯖江市に SAP
ジャパン社から派遣された、奥野和弘による成果資料です。
鯖江市がオープンデータの取り組みをさらに推進するために何をすべきかを整
理し、市長に提案した資料となります。
コードフォージャパンでは、自治体のオープンガバメント施策を推進するため
に、企業が自治体にリーダー人材を派遣するプログラム、「コーポレートフェロ
ーシップ」を実施しています。
コーポレートフェローシップの詳細については、
http://code4japan.org/corporate-fellowship
をご確認ください。
3
目次
1. 理想的なオープンデータ利活用のサイクルと課題、および取り組み .......................... 5
1.1 理想的なオープンデータ利活用サイクル............................................................. 5
1.2 よくある課題....................................................................................................... 5
1.3 課題解決のための取り組み.................................................................................. 6
2 鯖江市の現状に関する分析と優先施策の特定 ............................................................. 6
2.1 データ公開からアプリ開発へのステップ............................................................. 6
2.1.1 開発者への情報提供..................................................................................... 6
2.1.2 開発者の確保 ............................................................................................... 7
2.1.3 企業との連携 ............................................................................................... 7
2.2 アプリ開発からアプリ利用へのステップ............................................................. 7
2.2.1 アプリケーションカタログの作成................................................................ 7
2.2.2 先進的市民への個別周知活動....................................................................... 8
2.2.3 一般市民への周知活動 ................................................................................. 8
2.3 アプリ利用から新たなアイデアへのステップ.................................................... 10
2.3.1 自治体主導でのアイデアコンテスト .......................................................... 10
2.3.2 市民主導でのアイデアソン .........................................................................11
2.3.3 市民からの日常的なアイデアのフィードバック..........................................11
2.4 新たなアイデアからデータ公開へのステップ.....................................................11
2.4.1 フィードバック窓口の整備 .........................................................................11
2.4.2 データ公開までの手引きの整備 ..................................................................11
2.5 まとめ............................................................................................................... 12
3 今後の推奨施策......................................................................................................... 13
4 統一されたオープンデータ「窓口」サイトの設置 .................................................... 14
4.1 現状................................................................................................................... 14
4.1.1 鯖江市のホームページ(データシティ鯖江) ............................................ 14
4.1.2 Data City Sabae............................................................................................ 15
4.1.3 Likedata.org 内の City Data のページ.......................................................... 16
4.2 参考になる他自治体での取り組み..................................................................... 17
4.2.1 日本政府 .................................................................................................... 17
4.2.2 福岡市........................................................................................................ 18
4.2.3 ニューヨーク市.......................................................................................... 19
4.3 あるべき姿........................................................................................................ 20
4.3.1 窓口の集約................................................................................................. 20
4
4.3.2 初めてオープンデータにふれる人への配慮................................................ 20
4.3.3 網羅性のあるコンテンツ............................................................................ 21
5 データ公開の手引きの整備 ....................................................................................... 21
5.1 現状................................................................................................................... 21
5.2 参考になる他自治体での取り組み..................................................................... 21
5.2.1 米国ニューヨーク市................................................................................... 22
5.2.2 福岡市........................................................................................................ 22
5.3 あるべき姿........................................................................................................ 24
6 市民による定期的なアイデアソンの実施 .................................................................. 24
6.1 現状................................................................................................................... 24
6.2 参考になる他自治体での取り組み..................................................................... 25
6.3 あるべき姿........................................................................................................ 25
7 今後の具体的な取り組みに関するご提案 .................................................................. 26
7.1 統一されたオープンデータ窓口サイトの設置.................................................... 26
7.2 データ公開の手引きの整備................................................................................ 26
7.3 市民による定期的なアイデアソンの実施........................................................... 27
5
1. 理想的なオープンデータ利活用のサイクルと課題、および取り組み
1.1 理想的なオープンデータ利活用サイクル
オープンデータの理想的な利活用モデルは、公開されたデータを利用して、アプリやサー
ビスが開発され、開発されたアプリやサービスが利用され、利用者からのフィードバック
に基づいて新たなデータがさらに公開されるというサイクルが淀みなく回ることである。
図 1:理想的なオープンデータ利活用のサイクル
1.2 よくある課題
しかしながら、実際には様々な問題のためにこのオープンデータ利活用のサイクルが期待
通りに回らない状況が発生する。図 2 はオープンデータ利活用のサイクルにおける代表的
な課題をまとめたものである。
図 2:オープンデータ利活用においてよくある課題
データ
公開
アプリ
開発
アプリ
利用
新たな
アイデア
6
1.3 課題解決のための取り組み
1.2 章で考えたような課題を解決するためにさまざまな取り組みが考えられるが、代表的な
取り組みを図 3 に示す。
図 3:課題を乗り越えるための代表的取り組み
2 鯖江市の現状に関する分析と優先施策の特定
2.1 データ公開からアプリ開発へのステップ
2.1.1 開発者への情報提供
鯖江市がオープンデータ公開基盤として利用している、Data City Sabae(Open Data
Platform)および LinkData.org において、データセットのカタログに加えて、サンプルコ
ードやチュートリアルが提供されている。ただ、情報が分散していること、情報量が必ず
しも十分ではないことなど、いくつかの課題が残る。
図 4:Data City Sabae(左)および LinkData.org(右)の開発者向け情報
7
2.1.2 開発者の確保
開発者の確保という点では、地元の IT 企業である jig.jp との連携、Code for Sabae との連
携、Code for Japan のコーポレート・フェローシップの利用、プログラムコンテストの開
催など様々な取り組みが行われている。現時点では、開発者の数が十分とは言えないもの
の、着実に開発コミュニティを拡大できており、今後もこうした取り組みを継続すること
が重要であると考えられる。
2.1.3 企業との連携
地元 IT 企業である jig.jp との連携の他にも、アマゾンデータサービスジャパン、SAP ジャ
パンらとの連携も進み始めている。また、来年以降もコーポレート・フェローシップを受
け入れることで、企業連携をさらに進めていくこともできると考えられる。
2.2 アプリ開発からアプリ利用へのステップ
2.2.1 アプリケーションカタログの作成
オープンデータの基本的なコンセプトでは、アプリケーションの開発は市民主導で行われ
るべきものであり、データセットカタログの作成とは異なって、アプリケーションカタロ
グの作成は、必ずしも自治体側で行うべき作業であるとは言えない。しかしながら、アプ
リケーションの数も限定的であるオープンデータへの取り組みの初期段階において、アプ
リケーションの利用を促進するためには、利用できるアプリケーションのカタログが提供
されているほうが望ましい。
鯖江市がオープンデータ公開基盤として利用している、Data City Sabae(Open Data
Platform)および LinkData.org の双方において、アプリケーションカタログ機能が提供さ
れている他、鯖江市のホームページ内にあるデータシティ鯖江のページでもアプリケーシ
ョンのリストが提供されている(http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=11552)。
ただ、カタログ間で情報の整合性が取れてない部分があるので、カタログ間の整合を取り、
利用者が利用できるアプリケーションを可能な限り網羅性を持って検索できるようにすれ
ば、さらに価値が高まると考えられる。
8
図 5:Data City Sabae(左)および LinkData.org(右)のアプリケーションカタログ
2.2.2 先進的市民への個別周知活動
鯖江市では、IT に親しむ集い、高年大学での授業、小学校でのプログラミング教室、オー
プンデータハッカソン、オープンデータアイデアソンなど、IT に関するイベントが数多く
行われている。こうしたイベント内でオープンデータアプリケーションが紹介されるケー
スも多くあり、IT に興味のある市民の間でのオープンデータアプリケーションの周知は比
較的順調に進んでいると見られる。
2.2.3 一般市民への周知活動
オープンデータのコンセプトが本当の意味で実現するためには、IT に興味のある市民だけ
でなく、一般の市民にもアプリケーションやサービスが広く浸透し、オープンデータによ
る利益を享受する必要がある。
本プログラム期間中にお会いした市民の皆さんにオープンデータを使ったアプリについて
質問したところ、認知度が高かったものの一つが「つつじバスモニタ」であった。このア
プリはつつじバスの中でも紹介され、また市民の方の実生活においても役に立つため、認
知度が高まっていると考えられる。
図 6:つつじバスモニタの広告
9
こうした成功例がある一方で、ほとんど認知されていない、あるいは利用されていなアプ
リケーションも多くある。しかし、こうしたアプリについても適切な周知活動によって活
用度が向上するものも多くあると考えられる。
本プログラム中に「Free WiFi Navi」について、周知のためのビラとアプリケーションへ
のアクセスのためのリンクを新たに作成し市内各地に設置したところ、このビラを経由し
たアプリケーションへのアクセスが一定数確認された(週に 50 件程度)。また、Free WiFi
Navi にアクセスした人は、他のアプリにも興味を持ち、オープンデータサイトへもアクセ
スするケースが多いことが分かった。こうした結果からも、一般市民への周知活動につい
ては、まだまだ行えることがあると考えられる。
図 7:Free WiFi Navi 周知のチラシとアクセス結果。Free WiFi Navi にアクセスした人は
他のアプリにも興味を持つケースが多いことが読み取れる
10
2.3 アプリ利用から新たなアイデアへのステップ
2.3.1 自治体主導でのアイデアコンテスト
鯖江市では自治体主導、もしくは自治体と NPO が協力したアイデアコンテストが積極的に
開催されている。その中には、地域活性化プランコンテストのように必ずしもオープンデ
ータに限定されないものもあれば、Web アプリコンテストのようにオープンデータともか
かわりの深いものもある。さらに市民協働化のプロジェクトである JK 課の発案で、図書館
空席アプリ「Sabota」が作られるなどの成果もあげている。
図 8:JK 課の発案による Sabota
11
2.3.2 市民主導でのアイデアソン
市民主導でのアイデアソンも数多く開かれている。例えば近年に限っても、「オープンデー
タアイデアソン in 鯖江」「オープンストリートマップアイデアソン in 鯖江」「シビックハ
ッカソン in 鯖江」「禅ハッカソン in 鯖江」などが開催されており、非常に熱心に活動が
行われている。
一方、現時点ではこうした活動が jig.jp / Code for Sabae の福野氏などスキルを持った特定
の人材に依存している状況であり、こうした良い活動を継続して行っていくためには、こ
うした活動を主導できる人材を増やしていくことが必要である。
2.3.3 市民からの日常的なアイデアのフィードバック
鯖江市では、市民がアイデアコンテストやアイデアソンへ熱心に参加しているものの、日
常的にアイデアの議論やフィードバックを行うまでには至っていない。これから取り組む
べき課題である。
2.4 新たなアイデアからデータ公開へのステップ
2.4.1 フィードバック窓口の整備
鯖江市のオープンデータに関するフィードバック先は情報広報課となっているが、現時点
ではフィードバック方法が電話もしくは E-mail となっており、フィードバックを送りたい
と考える市民にとって必ずしも利便性が高いとは言えない。また、フィードバックを送っ
た後、その検討状況がどうなっているかについてのステータスも簡単には分からない。市
民からの積極的なフィードバックを得るためにも、より簡単で利便性の高いフィードバッ
クの仕組みを用意することが望ましい。
2.4.2 データ公開までの手引きの整備
現時点では市役所内でのデータ公開のための明文化された手順がない。今後、より多くの
データを公開していくためには、公開の手順を定め、手引きを作り、それを関係各課に周
知する活動が必要である。
12
2.5 まとめ
以上の鯖江市の現状に関する評価を表にまとめると以下の通りである。
ステップ 施策 状況 評価
データ公開 ⇒
アプリ開発
開発者への情報提供 情報提供はされているが、情報が分散しており、統一の窓口の
整備に課題が残る。
開発者の確保 Code for Sabae、Corporate Fellowship の活用、プログラムコ
ンテストの開催などにより、開発者を確保している。今後もさ
らに多くの開発者を確保していくことが重要である。
企業との連携 地元の jig.jp と緊密に連携できている。またアマゾンデータ
サービスジャパン、SAP ジャパンなどとも連携が進んでいる。
アプリ開発 ⇒
アプリ利用
アプリケーションカ
タログの作成
ある程度カタログ化されているが、情報が分散しており、統一
の窓口の整備に課題が残る。
先進的市民への個別
周知活動
さまざまなイベント(IT に親しむ集い、高年大学、まち歩きイ
ベントなど)を介して意識の高い市民へのアプリケーションの
周知活動を行い成功している。
一般市民への周知活
動
バス内でのつつじバスアプリの広報や、WiFi アプリ紹介ステッ
カーの掲示などの取り組みを行っているが、どれくらいの効果
を上げているかなどの情報が取れておらず評価が難しい。今後
も継続的に活動する必要がある
アプリ開発 ⇒
新たなアイデア
自治体主導のアイデ
アコンテスト
NPO とも協力しながら、アイデアコンテストが定期的に実施さ
れ、さまざまなアイデアが実際の行政に生かされている
市民主導でのアイデ
アソン
地元企業である jig.jp が自治体とも協力しながら、定期的に
アイデアソンなどを実施し効果を上げている。
一方で、現時点ではまだ、jig.jp 福野氏など一部のメンバーに
依存する部分も多く、今後、こうした活動を主導できる人材を
増やしていくことが必要である
市民からの日常的な
フィードバック
現時点では、市民が日常的にどんどんアイデアをフィードバッ
クするには至っておらず、これからの課題である
新たなアイデア
⇒ データ公開
フィードバック窓口
の整備
メールや電話でのフィードバックが可能だが、もっと簡単にフ
ィードバックとその後の経過を知ることのできる窓口となる
ウェブサイトが整備されていることが望ましい。
データ公開の手引き
の整備
現状は個別対応でデータ公開がされているか、今後のニーズの
増加に備えて、データ公開手順などが明確にマニュアル化され
ることが望ましい。
評価:● 良い / ● 改善の余地あり / ● 改善の必要あり
13
これをオープンデータ利活用サイクルにマップしたものを図 8 に示す。
図 9:鯖江市の取り組みに関する評価(まとめ)
3 今後の推奨施策
2 章の鯖江市のオープンデータへの取り組みの現状分析に基づき、鯖江市のオープンデータ
への取り組みを推進するために、今後優先的に取り組むべき施策として以下の 3 つを提案
する。
 統一されたオープンデータ窓口サイトの設置
 データ公開の手引きの整備
 市民による定期的なアイデアソンの実施
これらの優先施策が、2 章で挙げた鯖江市の今後の課題のいずれを改善するための施策であ
るかについて以下の表に簡単に示す。
施策 解決を目指す課題
統一されたオープンデータ窓口サ
イトの設置
開発者への情報提供、アプリケーションカタログの作成、一般市民
への周知活動、フィードバック窓口の整備、市民からの日常的なフ
ィードバック
データ公開の手引きの整備 データ公開までの手引きの整備、フィードバック窓口の整備
市民による定期的なアイデアソン
の実施
一般市民への周知活動、市民からの日常的なフィードバック
これらの優先施策について、詳細な現状分析、参考となる例、あるべき姿を続く章で取り
上げる。また、今後の取り組みについての具体的な提案については最終章で述べる。
14
4 統一されたオープンデータ「窓口」サイトの設置
4.1 現状
第三者的な視点で鯖江市のオープンデータへの取り組みの「窓口」となるサイトを検索エ
ンジンなどを利用して探してみると、次の 3 つのサイトが見つかった。しっかりと見てい
くと、これらのサイトは互いにリンクされていることに気付くが、気づくまでにしばらく
時間がかかった。また、サイトの体裁やデザインが互いに異なっていることや、掲載され
ている情報にもサイトごとに少しずつ違いがあるため、ユーザー目線で見た場合、鯖江市
のオープンデータへの取り組みの全体像を簡単に把握することが難しく感じた。個別サイ
トについて感じたことについても以下に簡単に記述する。
4.1.1 鯖江市のホームページ(データシティ鯖江)
概要
鯖江市役所のドメイン内にあり、検索でもすぐ見つかるので、ユーザーがアクセスする機
会も多いと思われる。以下のような情報が提供されている。
 データシティ鯖江の状況:これまでの取り組みの紹介
 オープンデータ:現在公開されているオープンデータの一覧
 アプリケーション:オープンデータを利用したアプリケーションの一覧
 参考サイト:参考サイトへのリンク
 自治体の皆さんへ:他自治体へのアドバイス
図 10:鯖江市のホームページ内のオープンデータに関するページ
15
良い点
市役所のドメイン内にあるため、これが鯖江市の公式なサイトであることが分かりやすく、
安心感がある。公開されているオープンデータと、そのオープンデータを利用したアプリ
ケーションが一覧表示されており、カタログサイトとしての機能を有する。フィードバッ
ク先として情報広報課の連絡先が明記されている。
改善できると点
「オープンデータとは何か?」「オープンデータにすると何が良いのか?」といった情報が
なく、初心者にはそもそもこれらの情報が何を意味しているのかを理解できない可能性が
ある。また、ページ構成が少々分かりにくいので(例えばアプリケーション一覧は別ペー
ジにあり、参考サイトへのリンクはトップページ内に列挙、オープンデータ一覧は別ペー
ジも用意されているがトップページにも列挙されている)、再整理することで使い勝手が向
上すると思われる。フィードバックについてもフォームなどから電子的に送信できるほう
が、利用者にとってフィードバックを送る際の精神的敷居が下がると思われる。
4.1.2 Data City Sabae
概要
鯖江市のホームページからもリンクされており、サーチエンジンで「鯖江 オープンデー
タ」などで検索した際にも上位に表示される。以下の機能が提供されている。
 オープンデータの検索
 作成されたアプリケーションの検索
 お知らせ
図 11:Data City Sabae のサイト
16
良い点
見やすくきれいなデザイン。データセットを検索する際に、グループによる絞込みの機能
があるので、今後データセットが増えて行った際にもユーザビリティを保つことができる
と思われる。
改善できる点
「オープンデータとは何か?」「オープンデータにすると何が良いのか?」といった基本を
押さえた人を前提とした内容になっている。また、フィードバックの送り先についての情
報が見当たらない。
4.1.3 Likedata.org 内の City Data のページ
概要
鯖江市のホームページで Linkdata.org の紹介がされていることに加え、サーチエンジンで
「鯖江 オープンデータ」などで検索しても上位に表示されるため、ユーザーが辿りつく
可能性が比較的高いと思われる。以下のような機能を持つ。
 オープンデータの公開と検索
 作成されたアプリケーションの公開と検索
 アイデアなどのフィードバックの登録とディスカッション
 アプリケーション作成のチュートリアル
図 12:Linkdata.org 内の鯖江市のページ
17
良い点
オープンデータの公開と検索、アプリケーションの公開と検索、アイデアなどのフィード
バックと、必要とされる機能が使いやすい形で提供されている。また、ダウンロード統計
や、「いいね!」の数に基づいた評価など、公開されたデータやアプリケーションの活用度
を測る基本的な仕組みも提供されている。アプリケーション作成のチュートリアルもあり、
仕組みとして英語にも対応できようになっているなど、コンテンツの網羅性という意味で
は最も優れている。
改善できる点
他の 2 サイトと同じように「オープンデータとは何か?」「オープンデータにすると何が良
いのか?」といった基本を押さえた人を前提とした内容になっているように思える。
4.2 参考になる他自治体での取り組み
次に今後の鯖江市のオープンデータの「入り口」サイトの方向性として、参考になる他自
治体での取り組みについて調査した。
4.2.1 日本政府
日本政府のオープンデータのサイト(http://www.data.go.jp/)はオープンデータに関する
サイトのあるべき姿についての日本政府の見解を示しているとも考えられる。以下のよう
な参考にできる点がある。
 データ検索、オープンデータの取組に関する情報、フィードバックなどのコミュニケ
ーションのためのページを網羅的に提供している。また、これらの 3 つのトピックに
分けたページ構成になっていて、初めて利用する際にもわかりやすい。
 読み手が限定されると考えられる開発者向けのページ、利用統計のページは、不必要
に目立たない形で、ページ上部のメニューからリンクされている。
 最初に目につくトップページには、「オープンデータに対する取組について」として、
オープンデータの意義について簡潔に書かれている。
18
図 13:日本政府のデータカタログサイト
4.2.2 福岡市
福岡市のオープンデータのサイト(http://www.open-governmentdata.org/)は内容と見せ
方(デザイン)の部分で参考にできる面が多い。
 「オープンデータとは?」「データカタログとは?」「活用事例」など、初心者のため
の内容を用意し、それをすぐに目に飛び込んでくる場所に置いている。
 トップページから最新の更新情報をすぐにチェックできる。
 デザインは使いやすさとモバイル世代の嗜好を意識した最新の流行を取り入れている。
図 14:福岡市のオープンデータのサイト
19
4.2.3 ニューヨーク市
米国ニューヨーク市のオープンデータのサイトは(https://data.ny.gov/)、広範な情報を網
羅的に提供している点で参考にできる。
 データセットの登録、検索、フィードバック、可視化(テーブル形式や地図形式、グ
ラフ形式などで)
 開発者コミュニティ
 オープンデータの公開、利用ガイドラインや、利用状況についての報告および啓蒙
 開発されたアプリケーションの紹介
データセットをその場で可視化できるのは、シカゴ市などのサイトとも共通の Socrata
(http://www.socrata.com/)を基盤として活用している。日本では福岡市のサイトが地図
上にデータをマッピングできる同様の機能を提供している。
図 15:ニューヨーク州のオープンデータサイト(上部)注目のアプリケーションが紹介されている
20
図 16:ニューヨーク州のオープンデータサイト(下部)データセットを絞り込んで検索できる
4.3 あるべき姿
鯖江市のオープンデータの窓口となるサイトについて、現在のサイトの課題点や、他の自
治体の事例などを考慮に入れた上で「あるべき姿」を考えると、今後以下のような方向性
で発展していくことが望ましいと思われる。
4.3.1 窓口の集約
鯖江市では現在、さまざまな理由から linkedata.org と open data platform の 2 つをオー
プンデータ公開の基盤として利用しているが、ユーザーの観点からはこれらが物理的、も
しくは論理的に 1 つに集約されることが望ましい。さまざまな場所に情報が拡散すると、
ユーザーにとって全体を把握することが難しくなり、「わかりにくい」「難しい」「面倒くさ
い」といった印象が、やがてオープンデータへの取り組みに参加しようというユーザーの
動機を損なってしまう恐れが高い。今後、オープンデータの利活用に市民に積極的に参加
してもらうためには、魅力的な窓口を置くことが必須であると思われる。
4.3.2 初めてオープンデータにふれる人への配慮
米国などと比較するとオープンデータの価値についての認知が進んでいない日本において
は、オープンデータの窓口となるサイトで市民への啓もうを継続的に行うことが必要だと
思われる。オープンデータとは何か? それがどう市民の生活に役に立つのか? 市民と
してオープンデータに対してどのように参画することが期待されるのか? などの情報を
提供することが望ましい。
21
4.3.3 網羅性のあるコンテンツ
オープンデータのための窓口となるサイトでは、オープンデータの価値を啓蒙するコンテ
ンツと、オープンデータ利活用サイクルの各ステップで必要となる各機能が、網羅的に提
供されることが望ましい。以下に提供されることが望ましいコンテンツおよび機能を列挙
する。
 オープンデータにはじめてふれる人へ向けた情報
 データセットの検索機能
 データセットの更新についての通知機能
 開発者をサポートする情報
 開発されたアプリケーションの検索機能
 フィードバックを行う機能
 オープンデータ利活用の実績についての統計情報
5 データ公開の手引きの整備
5.1 現状
鯖江市では情報広報課がオープンデータへの取り組みをけん引している。しかしながら、
将来公開データセットが増えて行った場合、他の課が所管する情報も含め、すべてのデー
タを公開可能な形に変換し、公開し、定期的に更新する作業を、情報広報課(現在 10 名)
だけでまかなうことは現実的ではなく、今後はデータ公開の作業の一部を、そのデータの
所管課など、情報広報課以外の部署で担う必要が出てくると考えられる。このため、デー
タ公開の手順を定め、それを手引きにまとめ、市役所内で周知徹底していく作業が今後必
須になる。
また、鯖江市は同規模の自治体の中でも職員の数が少なく、現状でも職員は忙しい状況に
置かれているため、単純にはオープンデータ関連作業を増やすことはできず、極力作業負
荷を増やすことなく、データ公開を進めていくための独自の工夫が必要となる。
5.2 参考になる他自治体での取り組み
次に今後の鯖江市のオープンデータの運用体制の「あるべき姿」について、参考になる他
自治体での取り組みについて調査した。
22
5.2.1 米国ニューヨーク市
米国ニューヨーク市では州知事命令によってオープンデータに取り組むことが強制力をも
って定められているほか、Open Data Handbook という詳細なガイドライン(指針)が用
意されており、IT サービスオフィスと呼ばれる組織が随時内容を見直し、必要な更新をし
ていくことが定められている。ニューヨーク市の Open Data Handbook についての詳細な
調査レポートは「1. ニューヨーク州 Open Data Handbook についての調査報告.docx」を
参照されたい。
ニューヨーク州の Open Data Handbook は手引書のあるべき形として参考になるものの、
そこで説明されている手順そのものについては、各機関がデータコーディネーターを任命
していることや、「データ委員会」と呼ばれる部門横断的な組織が設置されていることなど、
オープンデータ対応のために多くの人的リソースを割り当てられていることを前提とてい
るので、鯖江市のように職員の数に制限がある自治体がこのモデルをそのまま適用するこ
とは現実的ではないと考えられる。
図 17:ニューヨーク市のオープンデータ運用のモデル
5.2.2 福岡市
福岡市では、限られた人員で、より負担の少ない形でオープンデータを運用していくため
に、ICT 課とデータ所管課が次のような役割分担をする方法を採用している。
データ所管課:
 データ作成時に公開可能なものはその旨を明記する。可能な限り公開可能とする。
 市役所内でのデータ共有の際には PDF フォーマットだけではなく、編集可能な元のフ
ォーマットでも合わせてデータを共有する。
23
ICT 課:
 市民のニーズなどもくみ取りながら所管課で作成されたデータを整形し、オープンデ
ータとして公開していく。
 データ所管課が「公開可能」としているものに関しては、所管課の承認手順を経る必
要なく公開が可能。
これらの役割分担は、「福岡市オープンデータの取り組みガイドライン」として明文化され
ている(http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/38585/1/opendataguide.pdf)。
福岡市ではさらに、「データを公開して何になるのだろう」「余計な仕事が増えるのではな
いか」などのネガティブな反応が所管課から出てくるのを抑制するため、オープンデータ
に取り組むべき理由や、それに取り組むことが大きな負担にはならないことの説明などを
ガイドラインに盛り込んでいる。
図 18:福岡市オープンデータの取り組みガイドライン
24
5.3 あるべき姿
ニューヨーク州が州知事命令を背景に「やらねばならない」という強制的なアプローチを
とっているのに対し、福岡市がオープンデータに取り組むことの価値を訴求し、大きな負
荷にならないことを説明し協力を要請するアプローチをとっていることは興味深い。これ
には、オープンデータに関する取り組みの成熟度の違い、行政の在り方の違い、文化の違
いなど、さまざまな要因が想像されるが、いずれにせよ、データ公開の手順を策定する際
には、割り当てることのできる職員の数に加えて、オープンデータへの取り組みの成熟度
や文化的背景などについても考慮に入れたうえで、最適なアプローチを模索する必要があ
ることが分かる。
ニューヨーク州の場合も、福岡市の場合も、データ公開の可否の判断はデータの所管課が
行うことになっている。ニューヨーク州では、データ公開の可否を判断する基準がしっか
りと定められている。例えば、著作権や個人情報保護の観点、あるいはそのデータを公開
することによって犯罪などを誘発する危険性の評価などである。こうした内容はニューヨ
ーク州の Open Data Handbook に記載されており参考になる。
ひとたびデータ公開の手順が決まれば、それを手引きとして公開し、関係する部門に対し
て周知徹底していくことが必要であるが、もし可能であれば、関係各課に担当者をそれぞ
れ一名ずつ任じて委員会を設け、手順の定着および改善を行うことが望ましい。
6 市民による定期的なアイデアソンの実施
6.1 現状
鯖江市では市民によるハッカソン、アイデアソンが頻繁に活発に行われており、こうした
ハッカソンやアイデアソンを通して、新たなオープンデータアプリケーションが生まれて
いる点は非常に評価できる。一方で、こうしたハッカソンやアイデアソンの開催が特定の
人たちに依存する傾向も見受けられる。考えられる理由としては、アイデアソンを成功に
導くためには、しっかりとしたファシリテーション(司会進行)が重要であることに加え、
アイデアソンというイベント自体も比較的新しいものであり、その価値について一般市民
にはまだまだ浸透していないことがあげられる。
25
6.2 参考になる他自治体での取り組み
米国シカゴ市では、Open Gov Hack Night と呼ばれるイベントが毎週開催されている。主
催しているのは Open City というボランティアグループである。このイベントでは、市民
自身によって、新たなアプリケーションのプロジェクトが企画され、その進捗が発表され、
議論がされている。イベントのスケジュールや開催場所はインターネット上で告知され、
誰でも参加することができる。技術者でない人々の参加も歓迎されており、多様な背景を
持つ人々が集まることが良いアイデアを生む秘訣であると述べられている。
図 19:Open Gov Hack Night の開催を告知するサイト
6.3 あるべき姿
市民によるハッカソン、アイデアソンの開催については、自治体が主導して行うものでは
ないが、オープンデータによる行政への市民参画という目的を達成するために、NPO など
と協力して市民のオープンデータへの積極的な関与を後押しすることが望ましい。
鯖江市では多くの NPO が活発な活動を行っており、こうした NPO に対して意識付けを行
うことで、市民主導のアイデアソンを、鯖江市の文化として定着させることができるもの
と考える。
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7 今後の具体的な取り組みに関するご提案
7.1 統一されたオープンデータ窓口サイトの設置
統一された使いやすい窓口サイトの構築のためのステップは以下の通りである。
 サイトのコンテンツ、構成、デザインの検討
 予算規模の確定
 IT 基盤の選定
 サイトとコンテンツの作成者の選定
 サイトとコンテンツの作成と公開
サイトのコンテンツ、構成、デザインは、窓口サイトの使いやすさ直結するだけでなく、
それを実現する手段と予算規模にも大きな影響を与えるため、専門家によるアドバイスを
得ながら慎重に進めることが望ましい。そこで、一つの案として、2015 年 4 月から予定さ
れている Code for Japan による Corporate Fellowship 事業を活用し、Web デザイナーと
Web 開発者の派遣を要請することを提案する。
7.2 データ公開の手引きの整備
ニューヨーク州や福岡市の例を見ても分かる通り、データの公開に際しては、必ずデータ
の所管課での作業が発生するため、公開手順の検討には公開すべきデータを所管する課を
加える必要がある。このため、手引書作成のための最初の作業は、部門横断的な検討委員
会の立ち上げである。
委員会が立ち上がれば、その中で、鯖江市役所の実情に合わせた無理のない公開手順を検
討し、マニュアルを作成し、関係各課にそれを周知する。また、実際に運用を開始した後
に出てくる課題に対処するために、手順を継続的に改善する必要がある。
以上をまとめると、データ公開の手引きの整備は以下のようなステップで行われる。
 部門横断的な検討委員会の立ち上げ
 鯖江市の実情に合わせた公開手順の検討
 マニュアル作成と関係部署への周知
 運用開始後の継続的な手順の改善
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7.3 市民による定期的なアイデアソンの実施
市民による定期的なアイデアソンの実施を鯖江市の文化として定着させるためには 2 つの
要素が必要となる。一つ目はアイデアソンをファシリテーション(司会)できる人材の育
成である。二つ目は市民がアイデアソンの効果と楽しさを理解し積極的に参加することで
ある。
これらの二つの要素を満たすため、11 月 23 日に「デザインシンキング in 鯖江」を実施し
た。デザインシンキングとはアイデアソンのための人気のある方法論の一つであり、本イ
ベントでは、このデザインシンキングを活用したファシリテーション(司会)について、
17 名の市民の方と 12 名の市役所職員の方に学習していただいた。
また同時に、2 つのテーマ「若者が住みたくなる、住み続けたくなるまち」と「外国人観光
客に感動を提供するまち」について、実際にデザインシンキングを利用したアイデアソン
を開催し、133 の新しいアイデアを生み出すことに成功した。また出席者の多くから「楽し
かった」とのフィードバックを得た。
こうした取り組みを一度きりのもので終わらせないため、今後どのようにこれを市民主導
で続けていくかが課題である。そこで本年 12 月の下旬に、第二回アイデアソンを開催する
ことを提案し、市民の方のファシリテーション(司会)のもとで、「アイデアソンを鯖江の
文化として広げていくには?」というテーマでアイデアソンを実施していただく予定であ
る。

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