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「知」とは何かを再認識させられた夜 〜MIT石井裕教授と

2012年1月24日(火) 12:47:02

ishii120124.gif突然のお誘いだった。

先週金曜日に、来日中のMIT石井裕教授が電通で講義を行い、そこでどうやらボクのことやSIPS理論について、ずいぶんと言及してくださったそうなのだ。

石井教授のことは、MITで39歳で教授になった天才として、もちろん知っていた(ほぼ日のこれも読んでたし、これを読んだりTEDを見たりもしていた)。でもお会いしたこともなく、あちらがボクのことを知ってくださっていて、本も読んでくださっているなんて想像もしていなかった。

でも、ずいぶんと褒めてくださったそうで、その講義を聴いていたボクのラボ員が名刺交換しがてら「佐藤といっしょにやってます」と伝えたら、「会いたいなぁ」と言ってくださり、急遽、その3日後の昨晩、会食することになったのだった(来日中で昨晩しか空いていなかったそうだ)。

あの石井先生といったいボクは何を話せるのか…。対等にお話できるような知的背景も乏しいし、日々いろいろさぼって生きているのがバレてしまうのではないか…。あー…胃が痛いぃぃ……。

会食前は、そんな感じでかなり臆病になっていた。
知の巨人と会わせていただく前はいつもこう。急に自分に自信がなくなる。まぁでもおちつけおちつけ。自分がやってきたことや、いま考えていること、踏みしめているスタンス、上段の構え、それらをゆっくり確認し直す。人生は相対的なものではない。人と比べず自分を出せば良い。そんなことを何度も自分に言い聞かせ、自分の分野における自信も取り戻し、自分を励ましつつ会食場所に向かった。

会食は六本木の「ラ・シャッス」というジビエの店にした。
和食好きとお聞きしていたし、いつもはアメリカ在住の石井先生だ。本当は和食を選ぶべきだったのだけど、石井先生の唯一の希望が「全面禁煙の店」だったので、3日前に予約取れそうな和食店で全面禁煙の良店(しかも総勢5人)を思いつかず、さんざん悩んだ挙げ句、ここにした。熊とか猪とか蝦夷鹿とか海鴨とか、とにかくジビエ満載のお店である。結果的にはここでよかった。「食べたことない!」っていう肉をたくさん喜んで食べていただいた。

で、話をちゃんと対等に出来たのかって?

いや、なんというか、杞憂だった。すばらしい時間だったのだ。
超謙虚かつ丁寧な方で、こちらが知らないことは丁寧にお教えくださるし、こちらの言葉は常にメモって思考を広げていくし、なんだかとても心地よい知的空間があっという間に出来上がり、何も臆することなくいろいろな話ができた。死や「忘れられてしまうこと」についてや松井冬子についてやアートの諸相についてや原発や支援活動についてや尊敬する人についてや、そして知的生産技術についてなどが・・・5時間くらいにわたり次々につながっていく。

同席した中島聡、松本朋子、岩田正樹というメンバーも良かった。
ある話がそれぞれのきっかけをもらって違う次元に駆け上がっていく。いやぁ濃密な時間だなぁ。なんという贅沢をいましているんだろうなぁ。ジビエもうまいなぁ。ワインもなかなかいいし。でもこの対話が一番のご馳走だなぁ。酔ってしまうのがもったいないよ…。

向こうから勝手にたくさん押し寄せてくる情報の渦の中にいると思考停止になりがちになる。
そんな自分をどこかで許していたことに気がつかされた。さぼるなオレ。4つ年上のこの先輩に負けないくらいは動け働け考えろ。

店を出たら真っ白な世界だった。大雪の東京。
それも含めて、忘れられない夜になった。ボクの中にある「身体痕跡」が残った。

石井先生、ありがとうございました。
それと、間を取り持っていただいた森隆一さん、ありがとうございました!

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、[email protected] まで。

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