鳩山ご飯、店の候補は他にどこがあったか

2009年10月 6日(火) 8:57:06

鳩山首相とのご飯から一週間くらい経ちますね。Yahoo!Topics の影響もあって一時アクセスがドカンと伸び、理解できないノイズ(的外れな誹謗中傷)も一時増えましたが、ようやくちょっと落ち着いてきてホッとしています。

ツイッターはフォロワーが倍増しましたが、本当にツイッターって炎上しにくいですね。その辺が掲示板やブログとは大きく違います。あっという間に時間が流れ去り情報が過去になるので、いわゆる「祭り」が起きにくいのかもしれません。誹謗中傷する人をブロックでき、ブロックするとその人からこちらが全く読めなくなる、という機能も一役かっているのかも(まだブロックしたことはありませんが)。そういう意味で芸能人や著名人に向いているメディアですね。
オバマやブリトニーやヨーコ・オノなど、ツイッターを使っている世界的有名人はどうなんでしょう。誹謗中傷の比率が少なかったとしたら、このメディア独特の美点がもっと鮮明に見えてきます。どこかにリポート上がってないかな。どなたか知ってたら教えてください。

ちなみに首相の回りの反応としては、さすがに慎重なスタッフもいて、ツイッターを使うのはまだ検討中とのこと。そりゃそうでしょう。でも検討のテーブルに載っただけでも一歩前進。一国のリーダーと国民とのフラットでオープンなつながりのキッカケとしてツイッターは優れていると思うので、今後も機会があればお勧めしてみたいと思います(別にツイッターの回し者ではないですが)。


さて。
あの日のご飯についていろんな感想をいただきましたが、意外と「『行く店を考えてください』と言われて、他にどこを考えたんですか?」「私ならあの店を選ぶかも」というような話題で盛り上がったので、そのことを少し書いてみようと思います。

これはねぇ、本当に悩みました。
朝、メールが入ってから、バタバタとメンバーが確定し、午前中に5人でのご飯が確定したのですが、警備のSPさんを入れたら10人以上が入店できる必要があったんですね。つまり店選択の条件が「当日の夜に予約がとれて、10人〜15人で、出来れば個室で、警備的にも大丈夫な場所で、もちろんおいしいところ」(笑)。こんな店なかなかない。困ったなぁ…。

というか、朝の時点では5人で公邸でご飯を食べるはずだったんです。ケータリングで。
でも昼前くらいに松井官房副長官からメールが入り、「総理が外の空気が吸いたいとおっしゃっているので、どこか外のお店に行きましょう。さとなおさん考えて下さい」と振られたんですね。国連やG20などの外交デビューの直後だし、一般の生の反応にも直に触れてみたかったのかもしれません。それにしても、ボクなんかが店を勝手に決めてしまっていいのかなぁ、警備とかどうするのかなぁ、とか思いつつ、そんなこと素人のボクが考えなくてもよいと開き直って、店選びに集中しました。

最初は高級店なのかなと思いました。フレンチかイタリアンかと。警備的にもやりやすい店が多いし。
でも松井さんが「たとえばカジュアルな居酒屋とか」と書いてきたので、あぁそういうお望みなんだ、と。で、以前松井さんとご一緒したことがある「さいき」の2階はアリなんじゃないかということに二人の間ではすぐになったですね。歴史ある店だし、おいしいし。

ただ、なにしろ当日なので、2階の座敷を借り切りできる可能性が低い。じゃ、第二候補、第三候補も考えようということで、困ったときの知恵袋、「うまい店対談」を一緒にやっている伊藤さんにも電話して相談し、いろいろ考えました。
悩んだ末、第二候補を四の橋の「うずら」の奥の座敷借り切り、第三候補を浅草の中国料理店「龍圓」の2階借り切り、ということにしました。3店ともカジュアルな店、かつ、おいしい、かつ、借り切りが可能っぽい、かつ、下町っぽい商店街が近くにあり一般の空気に触れたいという首相のリクエストにも応えられそうな立地です。第三候補の店は中華だけど、まぁ居酒屋的な雰囲気の店なのでいいかと。というか、ありがちなダイニング系もイヤだし(個人的に)、居酒屋チェーンはさすがに無理(若者が多く収拾がつかなくなりそう)。となると、当日の夜の個室ですから、本当に限られてきます。

店に店員さんが出勤してくる時間まで待って、まず第一候補の「さいき」に電話しました。
ご主人が出て(14時ころ)、運良く2階が借り切れる、と。ここで「さいき」にほぼ決定したですね。首相が行くことを伝えて了解をいただき仮予約しました。ご主人「はぁそうですか」と超淡々。さすが。
で、松井さんに連絡を取り、松井さんからSPに連絡が行きなどして、「さいき」さんにはたぶん夕方、所轄の警察やSPが下調べに訪れたのではないかと思います。で、警備の面からも正式にオッケーになりました。その後、首相補佐官から電話があり、「『さいき』の前の道はクルマが入りにくいほど狭いので、近くの道で鳩山さんをおろしてそこから歩く」という段取りが伝えられました。「佐藤さん、店まで先導をお願いします」とも言われ、仕方がないからオッケーと(この辺、ちょっとリアリティがなさすぎてボンヤリしてました。「首相をボクが先導? はぁ……わかりました」という感じ)。

ボクは18時半ころに現地に着いたのですが、もう黒服(SPさん)がわらわらいて、なんだか重々しい雰囲気。
首相が現地に着いたのは18時45分ごろだったでしょうか。クルマで「さいき」がある細道の入り口前(恵比寿駅横)について、そこでボクと「はじめまして」の挨拶をし、松井さんもすぐ合流して、3人プラス大勢のSPさんで「さいき」に向かって歩き始めた、と。

事前に松井さんと「『さいき』に行くならすぐ近くの『縄のれん』に寄るのも面白いね。首相もよろこぶかも」とは電話で話していたのですが、松井さんが首相に聞いたところ「まぁそこまでは…」という反応だったらしく、それはナシということで話は決まっていたんですね。
だけど急にその場で松井さんが「さとなおさん、『縄のれん』どうする?」と振ってきて、「あ、すぐそこですよ? 鳩山さん、行ってみますか?」となって、店の前まで行きました(首相とかセンセイとか呼ぶのイヤなので、鳩山さん、と呼びかけることが多かった)。

店を外から見て、そのまま去るかと思いきや、首相が立ち止まって中を覗き、興味津々そうな顔を見せたので、「じゃ、少しだけ入りましょう!」と思わず言ってしまったですね。きっとボクの後頭部を睨みながら警備のSPさんたちが「勝手なことすんな勝手なことすんな」と呪ってたと思います。これに関してはごめんなさいとしか言いようがない。でも本当にダメならプロである彼らからストップがかかるはずなので、素人としてはあまり気を遣わないことにしました。事前にこの界隈の店を一応調べてるのかもしれないし(SPがどう動くのかはハリウッド映画くらいしか知らないから想像つかん)。

首相は「縄のれん」でとても楽しんだと思います。たぶん立ち飲みデビューだったと思うのだけど、すごく自然体。すぐに店内のお客さんと撮影大会・名刺交換大会・握手大会になっちゃったけど、それぞれに丁寧に時間をかけ、いろんなヒトの話をじっくり聞いてましたね。カウンターに首相と並んで立ったけど、この辺でもまだボクはリアリティがなくてふわふわしてました。ただ緊張はしなかったです。首相に高圧的な雰囲気がゼロなので、なんとなくこちらも普通でいられた感じ。マジで「それでいいのか」と思うくらい、上から目線じゃない人でした。

「縄のれん」のおじさんもおばさんも大層喜んで、代表的な料理をいろいろ出してくれました。ここのハラミステーキは安いけど絶品。首相も握手攻めの合間に一切れずつ食べて「うまいうまい」と。 あぁ良かった。お連れした側としては本当にホッとしたですね。「そろそろ7時なので『さいき』さんに向かいましょう」とお伝えしたときも、「悪いから全部食べましょう」と、残っていたモツ煮込みとかをばんばん食べてました。気遣いの人。

そういえば「さいき」でも気遣いの人でした。
最初はビールから始めたんだけど、ビール瓶をご自分の手元において、注ぎ役を首相がやるんですね。他の人にやらせてくれない。コップのビールが少し減ったら、自然にすぅっと手が伸びてきて注いでくれる。最初は「首相に注いでもらうオレ」みたいな感じで光栄に思っていたけど、だんだん注いでもらうことが普通に感じられて来るくらい(笑)

と、多少余談も入りましたが、「縄のれん」と「さいき」になった経緯をくわしく書くとこういう感じです。


余談ついでに書くと、相変わらず「どうせ民主党のキャンペーンかなんかに関係してるんだろ」というような "自信たっぷり" の裏読みメールが来たりしますが、あらゆる意味に置いて「ありえない」とお答えするしかありません。

どうして所属している組織で個人にレッテルを貼るのかな。古いなぁ。本当に「松井さんの友人のいちブロガー」として呼ばれただけです。松井さんと知り合ったのも、共通の友人がいたことと、彼がボクのサイトを読んでくれていたことからです。もう5年以上のおつきあい。そして、松井さんにこちらから「いつか首相に会わせて」とか言ったこともないですね(ボクがどちらかというと鳩山ネガだったことを松井さんは知っています)。

というか、仕事で首相に会うのなら、まずは社長が行くでしょう。一介のクリエーティブ・ディレクターがひとりで行くわけがない。常識的に。しかも仕事なら守秘義務がありますから、個人ブログやツイッターで詳細を公開したりできません。懲戒喰らっちゃいます。その辺を織り込んだ上での演出だとまでお疑いになるのならどうぞご勝手に。

まぁ可能性的にいうと、今後なにかご相談を受けないとも限りませんが、もしそういう機会があったとしても、今回みたいに「国民とフラットかつオープンにつながる意義」を説くと思います。
マスメディア(広告会社も含めて)のフィルターを通さない別のつながり。トップダウンで美化したイメージをつけるのではなく、血が通っている生身の人間として、悩んだり苦しんだり喜んだりする首相の姿をオープンに見せ、ボトムアップで国民とわかりあえていくこと。同じ時間に同じ人間としてフラットにつながること。そういうコミュニケーションを理解してもらい実行してもらうよう動くと思います。そういうことが実現すると、社会が根っこから変わる気がするので。

というか、また「長〜いさなメモ」に戻ってますね。すいません。ということで今日はこの辺で。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、[email protected] まで。

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