「子供を一人前の大人にすること」について

2009年8月26日(水) 7:43:48

親の役目は「子供を一人前の大人にすること」だ。
社会に出てひとりでちゃんと生きていける人間にする。本当なら義務教育が終わるまでに。最悪でも大学卒業までに。

ただ、この「一人前の大人」という概念が時代とともに変遷してきている気がする。

昭和初期までは「人様の前に出して恥ずかしくない人間」が「一人前の大人」。
長幼の序を知り、礼儀をわきまえ、義理と人情を知り、人様に迷惑をかけることなく、地道に立派に生きていける人。「教育=モラル」だった。モラル優先の人間観。

昭和中期〜平成初期は「会社に就職すること」が「一人前の大人になること」だった。
これは日本の高度成長に伴って「いい大学入っていい会社に入ることがいい人生」という価値観が生まれた結果だろう。立派な人=社会的地位の高い人。学歴の低い人やアウトロー的に生きている人が蔑まされる社会。
だから親の役目は「子供にちゃんと勉強させて少しでもいい大学にいれること」であった。「教育=勉強」だった。親は勉強しろと口うるさく言っていればいい。だって勉強していい会社に入ればいい人生だから。モラル教育は後退し、同時に礼儀とか義理人情とかも後退した(そういうのは会社に入ってから現場で習うこととなる)。

そして今。
親になった世代が「いい大学入っていい会社に入ることがいい人生」と刷り込まれている分、まだまだ「教育=勉強」という先入観が強いが、実は、親になった世代はみんな「いい会社に入ることがいい人生では必ずしもないらしい」と知っている。なのにまだどこかで「それでもいい大学に入れさえすれば子供は何とかなる」という幻想にすがっている。

でも、たぶん、これからの「一人前の大人」は「日本がどうなってもサバイバル出来る人間」のことだ。

子供を、国や社会がどうなろうとも生きていけるスキルと勇気とパワーを持つ人間にすることが親の役目。
昭和初期までのモラルも日本でしか通用しない。平成初期までの学歴も日本でしか通用しない。そういう日本的に共有してきた価値観が崩れても生き残れる人間にしてあげることが親の役目なのだろう。「教育=サバイバル術」である。

さて、そう考えてくるとき、子供の身につけさせるべきスキルやパワーはおのずと決まってくる。
まず、世界のどこに行っても自分の根っことしてプライドを持てる「日本人としての基礎素養」。これは「自分プレゼンテーション」に近い。自分の国の歴史・文化・宗教・芸術にくわしくなること。これを知らないと海外でバカにされるし、とても「一人前の大人」と見なされない。
次に基本スキルとしての「英語」。ただしTOEIC的なものである必要はなく、ある種のサバイバル・ツールである。同じような意味で「ネット・リテラシー」も重要。これに劣ったまま社会に出すのは親の罪だ。ネットの闇がどうのとかぬるいこと言っている暇はない。ネット世界から隔離した教育をしていると致命的なことになる。
あとは「世界観を広げること」かな。リアルな世界の広さ、様々な価値観にたくさん触れさせる。場馴れに近い。これも親の役目かもしれない。

いま娘は中3。
サバイバルを考えるとき、中途半端に日本の大学を出る必要はないので、高校卒業までと考えるとあと3年半。大学受験するかしないかは娘次第だが(受験のために強制的に猛勉強することは「努力リテラシー」をつけるためにとても重要だが、受験だけにその時期を取られてしまうのはもったいない)、いずれにしてもあと3年半で「日本人の基礎素養」と「英語」と「ネット・リテラシー」と「広い世界観」をある程度つけてあげないといけない。

時間がないな。
教育すべき事柄を整理して、優先順位をつけて子供に与えなければならない。最低限つけさせるとするとそのボーダーラインはどこらへんか、その見極めが大切かも。とりあえず「漠然と勉強させること」は止めた。娘と一緒に整理して優先順位をつけよう。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、[email protected] まで。

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