船を首都圏の交通手段に! 4年後の東京オリンピックを視野に、舟運の社会実験が活発化している。ねらいは水辺からの観光・地域おこしだ。鉄道や車に比べて移動時間はかかるが、それ以上の魅力もある。夏の1日。実験船に乗り込むと、混雑も渋滞もない、都会の海原を吹く風が心地良い。
千葉みなとを静かに進む船。海上の岸に円筒状のサイロが並び立つ。「大きなホースが見えますよね。あれで、船から穀物、小麦などを吸い上げてサイロに移すんです」。千葉市都市局海辺活性化推進課の市川拓弥さん(27)がデッキから指をさす。何だか社会科見学みたい。
東京臨海副都心の有明桟橋を出て2時間。東京ゲートブリッジをくぐり、東京ディズニーランドや三番瀬を横目に千葉みなとへ到着した。
7月28日、千葉県、千葉市、船橋市が9月19日まで実施する「東京湾ツーリズム旅客船運航実証実験」がスタートした。
東京・有明発~千葉みなと行き(所要120分)、船橋市浜町行き(同70分)などのルートがある。乗船料は13歳以上1000円、小学生500円。国の地方創生加速化交付金計4000万円を原資に、格安の運賃設定が実現したという。航路と組み合わせて、千葉都市モノレールの車両基地や製鉄工場、ビール工場の見学など両市内を巡るツアーも販売中で、「予約で満席の日もある」(県観光企画課)という。
千葉市の年間観光客は幕張メッセの見本市やコンサート客を含めても2255万人、船橋市にいたっては159万人で、東京の舟運観光の拠点、浅草・押上・向島地区の6600万人に遠く及ばないが、「東京と千葉を結ぶ初の定期航路を観光客誘致の呼び水にしたい」。乗船していた県・市職員は口をそろえた。
千葉みなとの旅客船ターミナルは4月に完成。施設内のシーフードレストランには、ダイビングもできる高さ8・5メートルの巨大水槽に魚がユラユラ。パスタの皿からあふれ出んばかりの特大の二枚貝はホンビノス貝だ。平成10年に侵入が確認された外来種が今やご当地海鮮グルメに昇格し、肉厚でプリッとした身から濃厚なエキスがジュル~。
桟橋の広場ではセグウェイで潮風を切る男女の姿も。海辺の印象が薄かった千葉でリゾート気分が味わえた。
一方、東京都では「オリンピック開催時の大集客も見据え、多様な航路の充実が求められる」(都市基盤部交通プロジェクト担当)として、舟運の社会実験を行っている。 羽田空港から船で都心に向かう新航路などのダイヤを検討・調整中で、今秋の就航に向けて、8月中には予約を開始したいという。
国土交通省も羽田空港と横浜を結ぶルートのほか、災害時に人や物資の運搬拠点となる河川の船着き場も活用して、都心の秋葉原や水道橋などで実証実験を行ってきた。
都では船移動の魅力として「景色などの非日常体験」のほか、「陸側から手を振られる特別感」をあげている。今度船を見かけたら、照れずにハーイ!(笑)とやってみよう。一個人ができる、ささやかな観光客への「おもてなし」になりそうだから!?(重松明子、写真も)