昭和58年11月に中国の胡耀邦共産党総書記が来日した際、中曽根康弘首相に対し、「日本が適当に自衛力を増強させることにつき中国は反対しない」と述べていたことが、12日公開の外交文書で分かった。胡氏はまた、日中両国が戦争を行うことはないとの見通しも示したが、日中の平和が続く期間を21世紀初めまでに区切っていた。
胡氏が日本の防衛力整備に理解を示したのは、当時の中ソ対立を背景に日米両国との関係強化を目指す中国政府の方針に基づくもの。59年3月に中曽根氏が訪中した際には、趙紫陽首相(後の総書記)も「中曽根内閣の政策を軍国主義政策とは考えていない」と述べていた。
中曽根氏との会談で、胡氏は「いかに日本が自衛力を拡大させようと、中国と戦うことにはならない」とも述べたが、日中間の平和が続くのは「今世紀末から21世紀初めにかけては」と前置きした。改革開放路線を進めていた中国指導部が、経済成長に伴う軍拡による戦略的自立を想定していた可能性もある。
胡氏は朝鮮半島情勢についても言及。当時の中国最高実力者・●(=登におおざと)小平氏が北朝鮮の金日成主席と2回会談した際に、金氏が北朝鮮の南侵について「あり得ないし、またそれだけの力を持っていない」と語り、●(=登におおざと)氏が「われわれも、北朝鮮が南に侵攻することに賛成しない」と表明したことも明かした。ただ、中国側はこうした中朝間のやりとりを対外的に公表しないよう求めた。
胡氏はまた、朝鮮半島の緊張激化を避けることが中国共産党監部の一致した意見だとした上で、「南北朝鮮が連邦制という形で自主平和統一を実現することに賛成である」と述べた。連邦制は北朝鮮政府が1980(昭和55)年に提案していた。