軽減税率導入に向けた協議が本格化する直前のタイミングで「自民党最大の聖域」とされてきた党税制調査会の会長交代が一挙に行われたのは首相官邸の強い意向によるものだった。消費税増税時に導入するとした財務省の還付制度案をめぐり、公明党と同党の支持母体の創価学会から猛烈な抗議を受け、財務省案に固執する野田毅前税調会長の続投は困難と判断。同時期に安倍晋三首相と菅義偉(すが・よしひで)官房長官の「対立説」まで流れ始めたこともあって野田氏更迭を急いだ。
「財務省案はのめませんよ。組織が持たない」
財務省の還付制度案が報じられた9月上旬。菅氏は、創価学会幹部から電話で抗議を受けた。公明党は平成24年の衆院選以降、過去3回の国政選挙で軽減税率導入を公約に掲げている。電話は、次期参院選の協力を保証できないという事実上の通告で、菅氏は黙るしかなかった。
関係者によると、財務省案は野田氏と財務省主税局の一部幹部が作成。首相と菅氏、公明党の山口那津男代表と北側一雄副代表しか知らされていない極秘案件だった。案の作成を主導した野田氏は9月上旬には、与党内の了承手続きに関する具体的な日程まで固めていたという。
自公両党の税調幹部による会合で公明党側は、財務省案に難色を示したが、野田氏は「財務省案を説明すればするほど理解が深まっている」と語り、譲歩するそぶりはなかった。
それを横目に官邸は当初、「与党協議を見守りたい」(菅氏)と静観していた。しかし、再考を求める公明党や学会幹部らの抗議はその後も続き、事態は変化した。