東日本大震災後に福島県郡山市で始められた文学講座「ただようまなびや 文学の学校2015」で29日、最終プログラム「朗読とディスカッション」にサプライズゲストとして登場した作家の村上春樹さんは自作短編を朗読するとともに、ユーモアあふれる表現で小説における想像力などについて語った。大好物のカキフライを揚げることと執筆活動は、どちらも「孤独な作業」という点で似た行為なのだという。文学の学校校長で作家の古川日出男さんや、司会を務めた翻訳家の柴田元幸さん、アメリカの小説家のレアード・ハントさんらとともに登壇した村上さんは「想像力は、外部から与えられるものではなく、自分の中から出てくるもの」など、参加者約160人の前で、作品が生み出される背景について持論を展開した。
登壇者らの主な発言は次の通り(敬称略)。
◇
【村上春樹】
想像力について話せということですが、きょうは代わりに、カキフライのことを話します。僕は、カキフライが大好きです。
でも、うちで食べることってまずないんです。うちの奥さんが揚げ物が一切イヤなので、出してくれないんです。結婚して45年になりますが、結婚したあとで、揚げものが苦手だということが判明したんです。つらいです…。
だから僕は、自分で作るんです。例えば奥さんが出かけたときは、鍋に油をそそいで、台所で1人で、カキフライを揚げます。
熱々のを食べるとおいしいですけど、世の中で1人でカキフライを食べることぐらいむなしいことはない(笑)。僕は「1人カキフライ」と名付けています。