日本の子供の貧困率は今、先進国の中で最悪レベルにあるという。貧困は、子供の教育機会を奪うだけでなく、豊かな日本社会の将来のツケとして暗い影を落とす。少子高齢化、無縁社会…。わが国の未来は、貧困などの危機にある子供たちに託すしかない。貧困が貧困を生む、この見えにくい現実について考えたい。
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豊かな日本社会なのに子供の貧困問題が深刻化している。昨年、厚生労働省が発表した「子供の(相対的)貧困率」は過去最悪の16・3%に上り、6人に1人の約325万人が「貧困」に該当する。豊かな先進20カ国のうち、4番目の高さにある。
だが、この6人に1人という数字を見て、疑問を持つ向きもあるだろう。日本は経済大国である。「相対的」というぐらいだから、豊かな日本では貧困であるという基準が高く、このような驚くべき値が出てしまうのではないか。
この基準、貧困ラインは個人単位の額である。平成24年では年額122万円となるが、子供の場合、単身で暮らすことは少なく、これでは具体性に欠ける。世帯単位に換算してみると、親と子1人ずつの一人親世帯(2人世帯)で年額173万円、月額約14万円、親子4人世帯で年額244万円、月額20万円余りにしかすぎないのである。
学力以前の「不利」
このような厳しい経済状況は子供たちにどのような影響を与えているのであろうか。注目を浴びているのは学力の問題だろう。全国学力テストでも、低所得世帯の子供の学力が低いことが分析されている。
だが、筆者の児童相談所での臨床経験からすると、学力以前の段階ともいえる健康、食生活、親子関係などで不利な状況を背負う子供も多いことを伝えなければならない。
さらに、貧困家庭の収入が低いのは親たちが働いていないからではない。ほとんどがワーキングプアであるからだ(日本の子育て世帯の失業率は先進国の中で最も低い)。
ある工場で働くシングルマザーは収入を増やすため、昼間から少し単価の高い夜間に勤務時間をシフトさせたが、その結果、近隣から育児放棄していると通報された。筆者が経済状況を聞くと、母親の選択に共感せざるを得ない気持ちが湧いてきて、子供の危険性に対する判断との間で自分自身が板挟みになってしまったこともある。
こうした厳しい状況の背景の一つは、子供を持つ親たち、特に若い親たちの労働状況の悪化だろう。しかし、日本の場合、貧困化の進展に合わせて、政府からの子育て世帯への援助が限られている。つまり、公的支援が貧困なことを指摘しなければならない。
まず、子育て世帯は経済的に困窮していても、児童手当などの金銭的な支援(現金給付)を十分に受けていれば、貧困に陥らずにすみ、子供への影響を防ぐことができる。他の豊かな先進国が子供の貧困率を低く抑えることができているのは、親たちの稼働所得に格差が少ないためではない。現金給付が日本に比べ、潤沢なためである。