11月6日東京時間の朝、X(旧ツイッター)とFOXニュースでアメリカ大統領選の結果を追い始めた。序盤から共和党のドナルド・トランプが優勢のようだった。しかし、4年前の成り行きを考えると喜ぶには時期尚早だ。2020年の選挙でも、序盤はトランプが勝ちそうだったが、その後、民主党が支配する主要スイングステート(激戦州)の投票所は、深夜に閉鎖され、票の集計結果と勝者の発表は翌日に持ちこされた。翌朝になって、最終段階でなぜか急増したバイデン票が、彼を僅差で勝者に押し上げたことが国中に知らされた。
しかし今回は、東京時間の昼頃にはトランプ勝利をお祝いしても大丈夫だということが明らかになった。民主党支持の主要ネットワークCNN、MSNBC、CBS、ABCのアナウンサーたちはショックを受けているようだった。トランプはすべての地域と支持者層で2020年の選挙よりも良い結果を出しており、民主党のカマラ・ハリスは4年前のバイデンよりも悪い結果を出していた。真夜中に届けられた謎の票は、勝敗を覆すことができなかった。
結局、7つのスイングステートではすべてトランプに軍配が上がった。トランプは一般の投票総数、選挙人の獲得数、どちらでも勝利した。
トランプ支持の意外な源
トランプ支持者は意外なところで増えていた。2020年、トランプはメキシコ国境に近い、人口の96%がヒスパニック系であるテキサス州スター郡において60ポイント差で敗れたが、今回は16ポイント差で勝利した。2020年、トランプはイスラム教徒の多いミシガン州ディアボーンではバイデンに11%対88%で敗れたが、2024年にはハリスを43%対36%で破った(残りは緑の党候補のジル・スタイン)。ミシガン州ではラテン系の60%がトランプに投票した。18~29歳の男性では、2020年にはトランプが1%、ジョー・バイデンに劣っていたが、今回は13%の差でハリスを上回った。
民主党が自信を持って票田だと認識してきた選挙区は、そのシナリオに従わなかった。民主党に忠誠を誓っていた有権者たちは、他の多くの先進的でない「ごく普通の」アメリカ人と同じように、民主党が支配する政権とそのメディアが過去4年間この国に押し付けてきた長い「虚構」のリストに反発したのだ。
民主党が作りあげた虚構リスト
民主党とメディアがつくりあげた虚構はどんなものだったか。その最たるものは、バイデンは2020年に何の異常もなく当選したのであり、その結果を疑う者は反逆的な「選挙否定論者」だ―というものだった。
バイデンは不思議なことに2020年に8100万票を獲得した。2024年、ハリスが獲得したのは6900万票だったが、これは2020年以前の3回の選挙におけるバラク・オバマとヒラリー・クリントンとほぼ同じ数である。2020年のバイデンの異常な1200万票増はどこから来たのか? おそらくトランプ新政権下で判明するだろう。バイデン政権下では、あえて尋ねようとする者は誰でも脅迫と制裁の対象となった。
今回もテレビ局と新聞社は、民主党が選挙に勝つために必要な虚構を作りあげた。私たちは、老いたバイデンが突然、選挙戦から降り、視界から消えるまで、彼の精神状態は完璧だ、と聞かされていた。メディアは選挙民に、テレプロンプターを見ながらロボットのようにスピーチを読み上げるハリスを、まるで彼女が自分の言葉で語っているように紹介した。
記者会見、討論会、ライブインタビューなど、彼女が自分の言葉で語る必要がありそうな場面は、なるべく、そしてこっそりと避けられた。録画されたテレビインタビューでハリスが返答を間違えても、CBSは別の質問に対する返答を親切にも継ぎ足した。『ニューヨーク・タイムズ』紙と『ワシントン・ポスト』紙は最後まで、選挙は「拮抗している」と報じた。選挙の数日前、『エコノミスト』誌は読者にハリスの地滑り的勝利を期待するよう伝えた。
「国境は安全だ」
これは大失敗だった。
テレビのネットワークや新聞はテキサス州境を越えて押し寄せる何千人もの移民希望者の姿を、できるだけ報道しないよう努めたが、現場の市民はiPhoneを使って動画を撮影し、XやTikTokなどのソーシャルメディアにアップロードした。テキサス州との国境付近に住む合法的なヒスパニック系市民は、何千人もの新しい移民と職を取り合うことに興味はなかった。彼らはトランプに投票した。
「ダイバーシティが私たちを強くする」
この刺激的な作り話は、民主党を支持するマイノリティ層にアピールするためのものだった。しかし、マイノリティに特別優遇措置などを与えても、その見返りとして彼らのありがたい票が保証されるわけではないことが判明した。 ハリスのまぎれもない空虚さと凡庸さは、彼女に投票するはずだったマイノリティを含め、誰の目にも彼女が大統領候補に性別と人種だけで選ばれたことを明らかにした。ジャマイカ人教授とインド人医師の娘が、スピーチの時だけ不自然なアメリカ黒人訛りを使って、被害者仲間として自分たちに投票するよう訴えたとき、アメリカの黒人たちは気分を害した。
「ジェンダーは流動的で、男性は子供を産むことができる」
この虚構は有権者の多く、特に黒人やヒスパニック系の男性から強い抵抗を受けた。子供たちのトランスジェンダー手術、トランスジェンダーを政権や軍の重要なポストに就かせること、公立学校でトランスジェンダー・イデオロギーを教えること、生物学的男性に女性とスポーツで競い合い、女子トイレを使用する権利を与えることを民主党が常態化させようとしたことは、あらゆる人種・民族から予想外の抵抗を受けた。
「強い男性はフェミニストである」
ハリス陣営が盛んに宣伝した一連のビデオ広告には、女性に投票したり中絶権を支持したりできる「十分に強い」「男らしい」男性が登場した。しかし、残念なことに、広告に登場する俳優たちは、ほとんどの男性視聴者には男性らしくないように映った。ハリスが男性有権者にアピールするため、副大統領候補にミネソタ州知事のティム・ウォルツを選んだのも失策だった。ウォルツの功績の一つは、男性用トイレに無料のタンポンを常備することを義務付けたことである。大統領選前にウォルツは写真撮影のために狩猟服を着せられ、ショットガンを持たされたが、使い方を知らないことがポーズから明らかになっただけだった。ハリス陣営は、より多くの男性をハリスに投票させようと働きかけたが、逆に黒人やヒスパニック系を含む多くの男性が離れていった。
「何人も法の下に平等である」
党に支配されたメディアは、このフレーズを使って、トランプをはじめとし、民主党の敵を選んで行われた刑事訴追を正当化した。
2020年のトランプ敗北後、民主党の連邦・州検察は、さまざまな独創的な法理論に基づき、彼を刑事訴追した。その数は合計116件にのぼる。刑事訴追の多くは、2020年の選挙結果に関してトランプが起こした訴訟に基づいていた。トランプの弁護士らも、2020年の選挙に異議を唱えたことで刑事訴追された。2020年の選挙結果に抗議するために2021年1月6日に国会議事堂に入った1358人が起訴され、長期の実刑判決を受けた。
一方、バイデン大統領の疑惑は都合よく無視された。バイデンにはオバマ政権時の副大統領在任中、息子のハンターや他の家族が仕組んだ複雑な裏口を通じて、政治的影響力と引き換えに、中国やウクライナなど外国勢力から数百万ドルを受け取っていたという疑惑がある。ここでそれが事実だと認定するつもりはないが、少なくとも、民主党が支配する司法省は、これらの疑惑を捜査・起訴する努力をしなかった。しかしメディアは、「何人も法の下に平等である」と断言した。
誰も異議を唱えたり、疑問を呈したりすることが許されなかった虚構のリストは続く。
「トランプはロシアと共謀した」
「トランプはナチスを『とても素晴らしい人々』だと言った」
「気候変動は存亡の危機であるから、連邦政府の大規模な支出が必要である」
「大規模な連邦支出はインフレを抑制する」
「アメリカは組織的な人種差別主義国である」
そして最後に――
「トランプは民主主義への脅威である」
この虚構は、民主党メディア複合体から発せられたものであり、選挙の不正操作疑惑や、政治的動機による政敵の刑事訴追などについての異論を「誤報」として踏みつけることで成立した。本当に不正操作があったか、訴追が不当なものだったのか、決めつけるつもりはまったくない。ただ、異論を封殺してしまおうというその姿勢は腹立たしいものだった。
アメリカ国民はノーと言った
虚構を暴く決定的な要因となったのは、イーロン・マスクによるツイッターの買収だった。マスクは、反対意見や公式に「承認」されたナラティブ(物語)に反するデータやアカウントを組織的に抑圧していたツイッターのアルゴリズムを解体した。Xと改名されたツイッターは、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストが流布する虚構に異議を唱えるニュースやアイデアの重要な一次情報源となった。Xでは、反対意見も受け入れられるようになった。イーロン・マスクがいなければ、トランプの勝利はありえなかっただろう。
アメリカ人は本来、現実的で楽観的で勤勉である。社会主義を信じていない。マーティン・ルーサー・キング牧師に賛同し、人々は性別や人種ではなく、人格や功績で判断されるべきだという考えを持っている。誰もが恐れることなく自由に意見を述べるべきだと信じている。
民主党の政治メディア複合体は、アメリカの基本的価値観に反する虚構の網を作り上げた。
そして彼らは成功しつつあった。
もしハリスが勝利していたら、アメリカは言論の自由を認めないソビエト型の一党独裁国家へとさらに大きな一歩を踏み出していただろう。だが、アメリカ国民はノーと言ったのだ。(米ニューヨーク州弁護士 スティーブン・ギブンズ)
(月刊「正論」2025年1月号より)
スティーブン・ギブンズ
一九五四年生まれ。東京育ち。米ハーバード大学ロースクール修了。日本企業が関わる国際取引に長年従事し、一九八七年以降は東京を拠点に活動する。青山学院大学や上智大学の専任教授を歴任。