平安時代、長編小説「源氏物語」を執筆した紫式部が主人公のNHK大河ドラマ「光る君へ」。陰陽師、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の傍らにたたずむ身長128センチの従者「須麻流(すまる)」。謎めいた存在をダンサーのDAIKIさんが演じ切った。軟骨無形成症を抱えながら表現者として活躍の場を広げるDAIKIさんに今作への思いとこれからを聞いた。
「晴明の親友」
軟骨無形成症は、軟骨の異常によって低身長や四肢の短さなどを起こす先天性疾患。低身長症ともいわれる。「僕らのような障害を持った人が役者として挑む場所は今までなかった。演じ続ける意味を感じました。この大河をきっかけに、障害や病気がある人でも、俳優やダンスの仕事に興味をもってもらえたら」と語る。
道長(柄本佑)やその父親・兼家(段田安則)を政治の面で支えてきた晴明。須麻流はドラマオリジナルキャラクターで、晴明と行動を共にし、密談にも同席する。「晴明が悪いことを考えているときも含めてすべて理解している親友というイメージ。晴明から『あれをやれ』とか命じられたことはないんです」。
第32回で晴明がこの世を去ったときも、そばには須麻流の姿があった。月明りが印象的な場面だった。
実は、須麻流は晴明以外の人間と話している場面は見られない。「式神なのか」とその正体はSNSでも話題に。「この体で演じたからこそ人なのか何なのか、いろんな意味で想像してもらえたんじゃないかな。最後まで何者か分からないのが須麻流の魅力」と語る。
俳優は初挑戦。ユースケからは「もっと自分を売っていい」とアドバイスを受けた。撮影終了時に、俳優を続けたいと伝えると「また再会できたらいいね」とエールをもらった。
「何ができるのか」
「背が低い」「足が遅い」「身長が伸びるのがゆっくり」-。病気を自覚したのは小学4年。同級生と比べて自分の体に違和感を覚え、インターネットで検索した。「ショックでした。できないことが多いのは運動が下手なだけだと受け止めていたのが、努力してもどうしようもないことに変わった瞬間でした」
負けず嫌いな性格だけに、「できることを伝えよう」と決めたが、心ない言葉に傷ついた。「気持ち悪いとかチビとか言われました。スルーはできなくてけんかばかり。周囲が自分のために怒ってくれることも申し訳なかった」。それでも成長するにつれ、「いろいろ言う人全員とけんかをしていたら大変。気にしなくていい」と切り替えた。
有名になって変えたい
ダンスとの出会いは中学時代。友人が学校の廊下で踊るのを見て、「面白そうだな」と心が動いた。チームスポーツと違い、自分のペースでできるダンスに魅力を感じた。
転機は高校の文化祭だ。アクロバットなダンスを披露した瞬間、観衆の目が変わった。「病気の子が踊って大丈夫かな」という視線が、「ダンスをする1人の生徒」になった。「有名になって自分の見られ方を変えたい」。病気と生きるなかで抱いた夢をダンスを通じてかなえようと決めた。
平易な道ではなかったが、ポジティブさと行動力でハードルを乗り越えてきた。大学では、保健体育で教員免許を取得。自分が実技で見せられないことは生徒に手本役を任せたり、伝え方を工夫したりと授業内容を練り上げた。卒業後は、ダンスを通じて障害の有無に関係ないつながりを作ろうと活動する団体「SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャルワーカーズ)」に参加、現在は代表を務める。
「聞いて失礼」はない
昨春からは、障害者専門の芸能事務所「アクセシビューティーマネジメント」に所属。オーディションで須麻流役を射止め、俳優デビューが大河ドラマに。撮影では、できることとできないこと、助けがいることを丁寧に伝えた。「あぐらがかけないと監督に伝えたときは別の座り方を提案して、僕だけ片膝を立てた座り方になりました。『これを聞いて失礼』なんてないから知ることを恐れないでほしい。作品を良くするためのコミュニケーションのきっかけに自分がなれたら」
病気、障害、国籍・・・。社会にはいろいろな事情や個性の人がいるが、エンターテインメントの世界の多様性はこれからだ。「障害のある人を起用する時、悪い意味で福祉的な側面が強すぎることがある」と感じる。
「病気で頑張っているから感動が生まれるのではない。作品の感動だけでいい」と考える。「須麻流を本気で演じたことで、低身長症について調べてくれるファンも増えました。128センチをブランドだと捉えて生きてきましたが、その思いは強まりました。一部のことしかできないと思われないように挑み続けたい」
目指す先は明確だ。「ダンススタジオをベースに、障害がある人もない人も交わる場所を作りたい」。スタジオは防音の関係で地下にあることが多いがエレベーターがなくて通えない人もいる。「バリアフリーの有無に悩むんじゃなくて、ダンスでの実力不足とか、自分のやりたいことに近づく上で純粋に悩める場にしたい」と笑顔を見せる。(油原聡子)
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ダイキ 1994年生まれ。横浜市出身。軟骨無形成症を抱えながらも14歳でダンスを始める。「SOCIAL WORKEEERZ」代表。NHK大河ドラマ「光る君へ」で俳優デビュー。ラジオ番組「DAIKIのInclusive Monday!~『教科書では学べないこと』」にレギュラー出演。舞台やCMなど出演作多数。障害者専門の芸能事務所「アクセシビューティーマネジメント」に所属。
キラリと光る存在感
制作統括の内田ゆきさんが、DAIKIさん起用についてコメントを寄せた。
「オーディションに来ていただいた折の、明るく積極的な雰囲気が須麻流役に望ましいもので、ユースケ・サンタマリアさんとのコンビもしっくりくると予想できたこと。そしてダンスのキャリアからか、ご自分を表現したいという思いが強く、さらにスキルもお持ちであることを実感したからです。セリフは多くはないですが、視線のお芝居が効いていて、須麻流という名前(スバルの意)のごとく、キラリと光る存在感は素晴らしいと実感しております」