新聞記事の見出しの著作物性について

当市では、新聞記事の見出しが検索できるシステム(以下、「本件システム」と言います。)を市立図書館に導入したいと考えております。利用者の方が探している新聞記事にアクセスしやすくすることが目的です。任意の文字列を入力すると、それに該当する見出しと掲載されている新聞の名称、掲載日が出力される仕組みです。本件システムの導入に当たって、法律上、どのような点に留意すべきでしょうか。

1 本件システムに関して、法律上、検討すべきなのは、①見出しが著作物に当たるかどうか、②見出しが著作物に当たらないとしても、見出しの利用について不法行為が成立するかどうかという2点です。

2 新聞記事の見出しの著作物性

(1) 著作物は著作権法により保護されており、著作権者に無断で著作物を利用する行為は、原則として著作権法に違反します。

著作物といえるためは、思想又は感情が創作的に表現されていなければなりません(著作権法2条1項1号)。そこで、まず、新聞記事の見出しに創作性があるかどうか、すなわち新聞記事の見出しが著作物に当たるかどうかについて考えてみます。

(2) この点について、ヨミウリオンライン(YOL)事件(東京地判平成16年3 月24日判時1857号108頁、知財高判平成17年10月6日)が参考になります。この事件では、インターネット上のウェブサイトに掲載されたニュース報道における見出しの著作物性などが争われました。

知的財産高等裁判所は、見出しの著作物性について、「一般に、ニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用し得る字数にも自ずと限界があることなどにも起因して、表現の選択の幅は広いとはいい難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。しかし、ニュース報道における記事見出しであるからといって、直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく、その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのであって、結局は、各記事見出しの表現を個別具体的に検討して、創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。」としました。

その上で、6つの見出し(①「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」、②「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」、③「道東サンマ漁、小型漁船こっそり大型化」、④「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突、1人死亡」、⑤「国の史跡傷だらけ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」、⑥「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」)について、個別具体的に検討し、いずれも著作物とはいえないという判断をしました。

(3) 著作物といえる見出しを利用するためには著作権者の許諾を得る必要がありますが、知的財産高等裁判所の判断によれば、見出しには創作性を肯定し得る余地もないではないものの、その性質上、著作物といえる見出しはほとんどないと思われます。

3 不法行為の成否

(1) 新聞記事の見出しが著作物に該当しない場合、これを利用するのは原則として自由です。ただ、新聞記事の見出しが著作物に該当しない場合であっても、その利用が社会的に許容される限度を超えた場合には、法的保護に値する利益を侵害するものとして、不法行為(民法709条)が成立することがあります。

(2) 上記ヨミウリオンライン事件において、知的財産高等裁判所は、見出しが法的保護に値する利益になるとしたうえで、行為の目的及び手段を検討し、無断でなされていること、営利の目的があること、反復継続してなされていること、情報の鮮度が高い時期に利用していること、デッドコピーをしていること、多数のユーザーに配信していることなどを指摘して、そのような行為は社会的に許容される限度を超えるとして、不法行為の成立を認めました。

(3) ご相談のケースについて考えて見ます。本件システムの目的は図書館を利用する方の検索の便宜に供することであり、そこに営利の目的はありません。また、本件システムにおいては、利用者の方が検索のために一定の文字列を入力することにより、これに対応する見出しが出力されるものであって、上記ヨミウリオンライン事件とは異なり、鮮度の高い情報が多数の者に逐一配信されるというものでもありません。

これらの点からすると、本件システムは図書館の役割に照らして公共性の高い行為であり、社会的に許容されるものとして、不法行為が成立することはないと思われます。