年金の「実像」は意外に額多く 三大作戦でさらに増やす
1億円達成の黄金律(4)
24年夏、5年ごとに行う公的年金の財政検証が公表された。ここで初めて、老後の公的年金の現実に近い金額が明らかになった。
毎年初め、年金額が発表される。24年度は、国民年金(基礎年金)が、年金保険料を40年納めた満額で月6万8000円。厚生年金は基礎年金を含め夫婦合計で月23万483円だ(ともに67歳以下)。
この厚生年金は「標準的な夫婦」の「モデル年金」と呼ばれる。「標準的な夫婦」は会社員として40年働いた夫と、ずっと専業主婦の妻。だが、こうした夫婦は共働きが当たり前の今では少数派だ。
実際の年金額は「モデル年金」より多く
そこで財政検証では、実際の年金加入歴を基にした65歳時点の年金額見通しが示された。24年度の65歳女性の年金月額は、平均で約9万3000円。主に専業主婦だった65歳女性も、平均では7年弱、厚生年金に加入して働いており、年金額は月7万5000円強だ。「標準的な夫婦」の妻より多い。
大卒就職率は24年4月1日時点で98%。今後、女性の厚生年金加入期間は長くなるだろう。過去30年並みの経済状況が続くと仮定した推計では、今の30歳女性が65歳でもらう年金月額は平均で約10万7000円と、今の65歳より多い。
さらに、財政検証を基に年金改正を議論している社会保障審議会年金部会では、性別、働き方別、収入別に、24年度の1人あたりの平均的な年金月額が示された。組み合わせれば、独身や共働きなど、様々なライフスタイルの現実に近い年金額の目安になる。
例えば、平均的な収入の会社員の夫とパートの妻の年金は、2人で26万967円で、「標準的な夫婦」より3万円ほど多い。夫婦とも平均的な収入の会社員だった共働き夫婦は、2人合わせた年金が月29万4977円で、65歳以上の無職夫婦世帯の平均支出(28万2496円)を賄える水準だ。
厚生年金に加入して働く女性は若年層ほど増える見通し。議論の中で、2022年の国民生活基礎調査から、夫婦世帯の26%はともに正社員で、世帯年収が平均的な収入の1.25倍以上の夫婦が正社員共働き世帯の8割を占めることも分かった。今の若い世代が老後に受け取る年金額は、これまで注目されてきた「モデル年金」より増えるだろう。
年金部会では、ライフスタイル別の現実に近い年金額を、定期的に公表する方向で検討している。
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年金は増やせる 75歳まで待てば1.84倍
老後に受け取る公的年金は、工夫すれば増やすことができる。3つの作戦を紹介しよう。
1つ目は、受取時期を遅らせる「繰り下げ作戦」だ。受給開始は原則、65歳だが、1カ月単位で繰り下げられる。手続きは簡単で、「受給する」と申請しなければいい。
1カ月遅らせるごとに、受給額は0.7%ずつ増えていく。最長で75歳まで待てば、1.84倍に増える。例えば、先ほどの表で紹介した平均的な収入の会社員男性が75歳まで待つと、年金は月16万2483円から約29万9000円にもなる。基礎年金も、75歳まで待てば月6万8000円から約12万5000円に増やせる。基礎年金と厚生年金のどちらかだけ繰り下げることもできる。
繰り下げ中に体を壊して働けなくなるなど、資金が必要になったら、受給開始前なら繰り下げをやめられる。65歳からもらうはずだった額の年金をまとめて受け取れる。23年4月から、70歳以降に繰り下げをやめる際は「5年前までは繰り下げていた」として、少し増えた年金をもらえる。繰り下げ中に亡くなれば、増額無しの年金が最大5年分、遺族に支払われる。
2つ目は、「長く働く作戦」だ。厚生年金は70歳未満が加入できる。リタイアを遅らせるほど、厚生年金を増やせる。
働き続けて年金受給を繰り下げる合わせ技が最強だ。厚生労働省が、会社員の夫と専業主婦の妻の「モデル年金」を物差しとして試算すると、今は32歳の夫が64歳まで働けば、65歳から受け取る年金は月1万3000円増える。74歳まで働き、かつ75歳まで繰り下げれば、月18万2000円も増やせる。
自営業やフリーランスで国民年金だけの人は、受け取る基礎年金を積み増す手段がある。国民年金保険料に月400円を追加して払えば、65歳からの年金が200円ずつ増える。「付加年金」という仕組みで、これが3つ目の作戦だ。
チリツモだが、年金を2年受け取れば元が取れる割の良さがメリット。例えば付加保険料を40年間払うと、総額19万2000円。一方、年金はずっと年9万6000円増える。付加年金も繰り下げで増やすことができる。
(大賀智子)
[日経マネー2025年1月号の記事を再構成]
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