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検索エンジン発明の日本、「グーグル」生み出せなかった経営トップ

石黒不二代・ネットイヤーグループ社長

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現在、経済産業省の「新事業を創造するための企業内の人材マネージメントの在り方」という委員会の委員をしている。委員会設立の背景には、日本企業のほとんどが自社の新事業創造に満足しておらず、その要因としてマーケットニーズが把握できていないこと、ビジネスモデルが組み立てられないことを挙げている事実がある。

IT(情報技術)分野でも米シリコンバレーが一人勝ち状態だ。「なぜ、日本にアップルやグーグルが生まれないのか?」という議論も盛んだ。理由は平たく言うと「プロデュース力の欠如」だ。

この「プロデュース」という言葉、カタカナになるやいなや、わかったようなわからないような、という人も多い。そこで、日本企業がプロデュース力を持つための第一歩としての発想の転換を、今回は考えてみたい。

米アップルはシリコンバレーには珍しいハードウエア企業である。だがアップルの成功の源泉は「ユーザーエクスペリエンス(UX)」という言葉で表現される「新しい顧客の体験の創造」だ。

経営不振に追い込まれたアップルの起死回生は携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」から始まった。アップルがやったことは「iTunes(アイチューンズ)」という音楽販売サイトを通じてオンラインで音楽を販売し、「もうCDを店舗に買いに行かなくてもいい」「いつでも好きな音楽がすぐ手に入る」という新しい顧客体験の創造だ。だから、iPodは爆発的に売れた。

アップルは顧客体験だけでなく音楽ソフト会社の体験も変えている。1曲99セントという破格な価格は、レコードやCDをその数倍の値段で売ってきた音楽ソフト会社にとって屈辱的だったに違いない。しかし、すでに違法ダウンロードに悩まされ続け、売上高を激減させていた各社は、新しい体験を欲していた。

 米グーグルが発明したものは検索エンジンである。しかし、グーグルは検索エンジンというソフトを売っているわけではない。

インターネットの普及で世界には情報があふれ、10年で情報の流通量は500倍になった。あふれる情報の中で、自分が欲している情報をすぐに手に入れたい人々に向けて、グーグルは検索エンジンを無料で提供した。その一方でインターネットをひとつのメディアに仕立て上げ、課金ではなく広告から収入を得るモデルを構築した。

実は検索エンジンは、日本ではインターネット商用化のはるか前に発明されていた。しかし、その検索エンジンは、新聞社に売られていたそうだ。新聞社では、過去の記事を含めて検索するという需要があるからだ。

1台数百万円の検索エンジンを大手新聞社に売ると、せいぜい売上高は1000万円だ。グーグルが検索エンジンを使って創造した新しい広告ビジネスの売上高は、いまや、年間500億ドルに達する。日本にこのプロデュース力があれば、日本にグーグルが誕生していたかもしれない。

では、日本企業がこのプロデュース力を高めるために、何をしたらいいのだろうか? 私は、ぜひ、経営トップに発想を変えてもらいたいと思っている。

日本企業が業績予測を考えるときには、必ず「製品×販売数」という考え方で、全体は、その積み上げとなる。ITは、すでに新しい顧客体験をつくりだす「サービス」の時代に突入している。日本企業は「モノをいくつ売るか」という発想から脱却すべきだ。

[日経産業新聞2013年3月7日付]

 この連載は変革期を迎えたデジタル社会の今を知るためのキーパーソンによる寄稿です。ツイッター日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏、ネットイヤーグループ社長の石黒不二代氏、KDDI研究所会長の安田豊氏、NHNジャパン社長の森川亮氏、ライフネット生命副社長の岩瀬大輔氏らが持ち回りで執筆します。(週1回程度で随時掲載)

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