近年、国による公文書管理について、次々と重大な問題が生じている。
発端は、南スーダンのPKOに派遣されていた自衛隊の日報について情報公開請求があった際に、一度は廃棄したとされたものの後に存在が判明した件である。その後、安倍総理夫人が関わったとされる森友学園への国有地売却問題では、財務省が決裁文書を廃棄しただけでなく、改ざんを行っていた事実が国土交通省に存在した文書との相違から発覚した。なお、この改ざんに関わったとされる近畿財務局の職員が自殺していたことも報道されている。また、加計学園の獣医学科新設に際して、安倍総理の知人である同学園理事長の加計氏に対する便宜供与があったとの疑惑の件では、柳瀬元安倍総理秘書官が愛媛県職員と面会し、その際に「首相案件」と発言していたことが県側の公文書に記されていたにもかかわらず、柳瀬氏は面会を含め一連の発言は一切なかったと主張した。これらのことは、いみじくも国の公文書管理の実態のみならず、公務員としての倫理性やその矜持に関わる重大な問題を露見させる結果となった。さらに今年度に入ってからは、安倍総理主催の「桜を見る会」の招待者名簿に関わる公文書の有無や管理をめぐって、国会で野党の追及が継続中である。直近では、新型コロナウイルス感染症への対応に関する政府決定に至る関係会議議事録が未作成だったことについて野党から指摘され、行政文書の管理に関するガイドラインに示された「歴史的緊急事態」に指定されたことを受けて、議事録作成を義務化する始末である。
公文書は、文字通り「公の文書」であり、その作成~管理~公開におけるプロセスが国民に対して明確であることは、民主主義の根幹である。情報公開と公文書管理は車の両輪であり、双方が正しく機能することで、この国の記録管理体制が将来にわたって保証される。それらを支える法として「情報公開法」と「公文書管理法」「公文書館法」が存在しているが、安倍政権下における一連の公文書管理問題では、情報公開請求のあった文書の保存年限を変更、廃棄したほか、文書そのものを不存在・不作成とするなど、関連法令を無視し、政権に忖度した官僚の横暴振りが露わとなっている。
公文書は、現在の国民のためのものだけではない。いまは非公開文書であっても、「特定歴史公文書等」として国立公文書館に移管・保存され、非公開期限を越えて公開される流れは、「公文書管理法」に規定されているとおりであり、将来の国民がこれらの公文書を閲覧できる権利を保障しなければならない。
また、公文書が歴史的事実を検証する歴史資料として極めて重要であることは、これまで近現代公文書によって新たな研究が進められてきたことからも明らかである。為政者の都合により公文書が現用段階で廃棄されることで、歴史的事件の検証が将来に期待できないことは、誠に忌々しき状況であると言わざるを得ない。
現在、「特定歴史公文書等」の保存・公開を担う国立公文書館において、公文書管理の専門職であるアーキビスト認証制度の準備が進められており、各省庁へも公文書管理の専門職派遣が検討されている。その専門職認証にあたっても政権偏重の制度にならないよう、倫理性の担保と人材の養成について関心が高まっている。
発足以来、公文書はもちろん歴史資料や文化財の保存・利用問題に取り組んできた日本歴史学協会は、今回の一連の公文書管理に関する政府の暴挙に対して厳重に抗議するとともに、民主主義の根幹となる公文書の将来にわたる適切な保存・管理と利用公開を政府および関係各省庁に対し強く要請するものである。
2020年3月21日
日本歴史学協会
会長 中野 達哉