クローズアップ現代 20th 1993~2013

NHK ONLINE

国谷裕子キャスターに聞く

第1回から出演している番組の顔・国谷裕子キャスターはこの20年、どのような想いで番組を続けてきたのでしょうか。番組作りの舞台裏や著名人インタビューのエピソードなどをうかがいました。

――「クロ現」のキャスターを務めるうえで、国谷さんが大事にされているのは、どんなことでしょうか?

最も大切にしているのは視聴者の立場から物事を見ていく姿勢を保つことです。その上で複雑で難しい事象に対して、より深い視点を持てるようにすることでしょうか。キャスターという立場は、問題を俯瞰して見ることができなくてはならない。同じテーマでも置かれた立場によって課題が異なり、いろいろな視点を踏まえなくては深い議論ができないと思います。ですから最初に自分が疑問に思ったことを大切に持ち続けながら、知り得た情報や知識を生かして、そのテーマを掘り起こす材料にしていく。「取材者と視聴者をつなぐ橋渡し役」が、キャスターだといえるでしょうね。

――なるほど、ほかにも国谷さんが経験から感じていらっしゃる“キャスターの役割”とは何でしょう? 例えば番組の前説(番組最初の語り)では、かなりの思いを込めて語っていると思うのですが…

なによりも自分の言葉で語ることが大切です。もちろん個人的な意見は入れないことは大前提にしつつ、前説では自分の言葉で語ることが、大事だと思っています。やはり人間って、どんなにたどたどしくても熱を持ってしゃべっているかどうかで、その話を聞いてみようという気が起こってくるものではないでしょうか。もう一つは、26分という限られた放送時間の中では、すべてを語れるわけではないので、前説には、今日のテーマはこの角度から取り上げます、という番組のフレームをきっちりと伝える狙いもあります。そこで自分の言葉で語るか語らないかでは、視聴者に伝わる熱にも、大きな差が出てくるのではないのでしょうか。

国谷裕子キャスター


国谷裕子キャスター

――番組が始まる直前に、ゲストと打ち合わせをしますよね?

ゲストとの打ち合わせは、番組を決定づける大切な時間だと思っています。視聴者にその日のテーマをきちんと正確に伝えるためにとても大事なプロセスなのです。番組の理想は取材者が制作したVTRリポートとスタジオトークとの相乗効果によって、より深い視点が視聴者に伝わることです。ディレクターとともに想定質問も考えておきますが、制作側の思いと、ゲストが大切だと考えていることが異なっていたりすることも、ときどきあります。しかも生放送なので、時間ぴったりに終わらなければならない。ですから、打ち合わせはゲストと私の信頼関係を作る場所でもあります。

――実際にそこではどんなふうにゲストとの打ち合わせを?

ほとんどフリートークで進めていますね。このテーマにはこんな観点がありますが? こういう違った見方も?など、テーマについてのブレインストーミングを時間の許す限りします。そしてその会話の中で、相手の表情とか言葉の強さ、話の長さなどに注意をしています。そうすることによって、「ここはとてもこだわっていらっしゃる所だな」あるいは「この点についてはあまり重要視されていないな」とか、もしくはちらっと語った言葉の端に、奥深い何かが隠されていたりすることが分かってくるんですね。そんなふうにしてお互い正面から向き合いながらフリートークを重ねていくうちに、短い時間の中でもテーマを捉える視点について議論し、すり合わせもできるし、信頼関係も深まっていく。あらかじめゲストの方の著作や記事、発言などを読んだり聞いたりしておきますが、実際に自分の目や耳で体感すると、ニュアンスが大きく違っていることに気付くこともあります。またこのプロセスを経ることで、生放送への自信にもなっていきますし、ほんとうに大事な場です。場合によっては、その打ち合わせがないまま、生放送の場でゲストに向き合うことも時にはありますが。

――番組の中でゲストとのトークで大事なのはどんな部分ですか?

その人の持つ熱や思いをいかに深く掘り下げていくというか、いちばん強く伝えようとしていることを、どう引き出すかということですね。それが番組のいちばんの核心であり、大事なことだと思っています。なかにはゲストの方の思いがややバランスに欠けていると思ったときは、こちらから「こういう角度もありますよね?」と、質問していきます。


――ゲストへのインタビューといえば、過去に“ビッグインタビュー”でスティーブン・スピルバーグさんや高倉健さんなど、国内外の著名人へのインタビューも数多く行っています。

スピルバーグさんは、ほんとに映画少年がそのまま大きくなったような方でしたね。小さい頃にいじめにあったりしても、それを乗り越える手段としての映像の持つパワーに気がつかれて、今では世界的な名監督になられた。最近では『リンカーン』のようなシリアスなテーマも撮られてますけど、その一方で『E.T.』のような映画もたくさん送り出している。子どものような表情で語る彼の姿はすごく印象的でした。

国谷裕子キャスター

スティーブン・スピルバーグ監督の出演回
2012年2月22日(水)放送
永遠の映画少年 スピルバーグ
~創造の秘密を語る~


国谷裕子キャスター

――高倉健さんはどんな方だったのでしょうか。いろいろエピソードがあったと伺っていますが…

ちょうど70歳を迎えられたときにインタビューさせていただきました。半世紀以上もトップスターに居続けるということは、本人にとってはどんな思いなのだろうと、そういうことを中心にお話しをお伺いしようと考えていたんですね。ところがまずお会いした瞬間から驚かされました。あの大スターが直立不動で90度にお辞儀をして、「高倉健です。よろしくお願いします」とあいさつされて、そしてインタビューが始まる前に「僕はインタビューが苦手です。僕が黙ったら、次の話に進んでください」と頼まれたのです。それでその言葉をまじめに受け取って進めていたら、一言二言話されると、すぐに会話がとまってしまう(笑)。ずっとこのままやっていても会話は深まらないし、どうしようかと。


――そこからどうインタビューを進められたんですか?

それでもう約束を破ろうと決意して、高倉さんが話された後に、すぐに次の質問に移らずに私も黙って待つことにしました。そうしたら次第に高倉さんからとても素敵な言葉、いいお話しが出てくるようになりました。でもそうなるまで、お互いが黙っている無言の時間がたびたびあり、最長ではたしか17秒ほどあったのかな、とても長い時間に感じました。番組ではその17秒間もカットせずにそのまま放送しました。 テレビのインタビューの素晴らしいところは、文字で起こしたものと違って、相手の表情も見えることだと思います。このときも、高倉健さんの横顔、あるいは目をちらっと私に向けて「質問しないの?」と無言で訴える姿など、あの“間”も多くを語っていました。放送が終わった後に、高倉さんから「あの間を使ってくれてありがとう」と、ディレクターにお礼の言葉が届いたとも聞きました。会話の“間”って、とても大事だなと、改めて実感させられたインタビューでしたね。

国谷裕子キャスター

モフセン・マフマルバフ監督の出演回
2002年1月16日(水)放送
アフガニスタン “悲しみ”を撮る

国谷裕子キャスター

ラフダール・ブラヒミさんの出演回
2005年3月30日(水)放送
ブラヒミ国連特別顧問 混迷の中東を語る

――そのほかにも印象に残っている方はいらっしゃいますか?

イランの映画監督で、モフセン・マフマルバフさんにお会いしました。当時、アフガニスタンにこだわって映画づくりをされていたのですが、その時の言葉が今でもとても印象に残っています。

――それはどんな言葉だったのでしょうか?

彼は映画制作以外にも、アフガニスタンで学校を建てたり、教育のNGOのような活動もされていました。教室に入れない子どもが、少しでも学ぼうとして、教室の外で耳をそばだてて聴いているその姿に胸を打たれ、それこそがアフガニスタンの希望だと話されていました。そして番組の最後に、彼がユニセフで行った有名なスピーチを涙ながらに語ったときに、私も思わずもらい泣きしてしまいました。言葉の持つ重み、あるいは思いの深さというのは本当に伝わるのだと、とても心に響いたインタビューでしたね。
今、国連としてシリアの調停をしている特使のブラヒミさんの言葉も思い出深いですね。彼は難しい紛争地域に入っていって、反目しあってる人々を仲介するのが役目です。それで「いつも反目しあっている人々を、どうやって和解させることができるのか」と聞きました。すると一言、「アイ ジャスト リッスン(I just listen)」。そういう、その当事者ではないと語れない言葉というか、その人たちから発せられる、ずしっと重い言葉をいただき、それを放送できたときが、この仕事をやっていてよかったなと実感できる瞬間ですね。重要なことをあまり積極的に話したくない人もいるわけですが、そこをいかに相手に話していただけるかも苦労のしがいがあることです。だからインタビューには格闘技のような要素もあります。


――これからインタビューをしてみたいという人物はいますか?

よく聞かれますが、今、日本を取り巻く北東アジアの情勢が厳しさを増すなかで、核兵器やミサイルの開発を進める北朝鮮のリーダー、そしてその北と向き合う韓国の新しいリーダー、朴大統領。この二人でしょうか。朴大統領は、韓国初の女性リーダーとしても関心があります。ロシアのプーチン大統領にも話を聞いてみたいですね。
ただ、こうした日本を取り巻く国際情勢を左右するリーダーの発言も重要ですが、今の日本では、そうした言わばVIPへのインタビューというものではなく、一人ひとりが発する言葉が重く感じられることが多くなりました。自分の生活の先が読めなくなってきており、そうした先行きへの思いが深くなっている方が増えているためでしょうか。東北の被災地へいくと、特にその思いは強まります。

国谷裕子キャスター


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