最新記事
宇宙開発

測位衛星「みちびき」を現在の4基から11基体制に...ほか、新たに宇宙基本計画工程表に盛り込まれた目標は?

2024年12月26日(木)20時50分
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
石破茂

石破茂首相(写真は12月24日、首相官邸で行われた記者会見にて) YUICHI YAMAZAKI/Pool via REUTERS

<毎年末に改訂される宇宙基本計画の工程表。宇宙分野で日本が将来的にどんな施策を実行していくかが記載されたこの資料だが、今回はどんな目標が加わったのか>

政府の宇宙開発戦略本部(本部長・石破茂首相)は24日、宇宙基本計画の工程表を改訂した。将来的に日本だけで高精度な衛星測位システムを実現させるために測位衛星「みちびき」を11基体制に拡充する計画や、激化する各国の衛星打ち上げビジネスの中で存在感を示すため2030年代前半までにロケット打ち上げを官民で年間30件程度にする目標などが盛り込まれた。

工程表は、日本が宇宙分野において将来的にどのような施策を実行していくかという計画を記載した資料だ。国際情勢などを踏まえて毎年末に改訂されている。①宇宙安全保障の確保、②国土強靭化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現、③宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造、④宇宙活動を支える総合的基盤の強化に大別され、令和5~14年度(2023~32年度)の各年とそれ以降の計画目標が図示及び記述されている。

①では、測位や防衛通信の独自性を目指すことや、宇宙空間の監視の強化がうたわれている。たとえば、現在「みちびき」は4基体制で、米国が運用するGPS(全地球測位システム)を併用しないと高精度な位置情報を得ることは難しい。このため政府は、日本のみの衛星網で精密な位置情報の取得が可能となる7基体制での運用を目指している。今回の改訂では、衛星の故障などに備え11基体制に向けた開発を進めることが記された。

また、防衛能力の強化のため、ミサイルを探知・追尾できるよう、多数の小型衛星を連携させて一体的に運用し情報収集するシステム「衛星コンステレーション」を2027年度までに構築するという。

②では、衛星を活⽤した防災・減災や気候変動の見守り計画等に触れ、24年7月に軌道投入に成功した「だいち4号」の定常観測運⽤とデータ提供の開始、令和6年度から3年間の「民間衛星の活用拡大期間」などについて記載された。

③では、アルテミス計画への主体的な参画や、月面へのピンポイント着陸に成功した⼩型⽉着陸実証機(SLIM)の着陸技術の発展に関する記述とともに、29年4月に地球に最接近し、衝突の可能性について話題となっている「小惑星アポフィス(直径約340メートル)」について、「地球接近天体(NEO:Near Earth Object)からの脅威に備えるための国際的なプラネタリー・ディフェンス活動への貢献も見据え、国際協力による探査計画に向けた検討、調整を進める」ことが書き加えられた。

④では、年間30件のロケット打ち上げ目標とともに、民間事業者への支援や再使用型ロケット等の新たな宇宙輸送システムの構築とそれに関わる制度環境の整備の検討について記載された。

石破首相は同戦略本部の会合で、「宇宙分野は、安全保障、防災、自動運転など、産業や国民の生活に恩恵を与えている。熾烈な国際競争野中で、世界に遅れをとってはならない」と述べた。

weboriginak20210521baeki-profile2.jpg[筆者]
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版のウェブ連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

ニューズウィーク日本版 2029年 火星の旅
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月20日号(5月13日発売)は「2029年 火星の旅」特集。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

内田日銀副総裁、午前10時27分から参院予算委に出

ビジネス

対米交渉不退転の決意、雇用・所得犠牲にして米投資せ

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、調整継続 ハイテク株安い

ビジネス

エヌビディアCEO、台湾テック見本市で講演 最新A
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我との違い、危険なケースの見分け方とは?
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 6
    刺さった「トゲ」は放置しないで...2年後、女性の足…
  • 7
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 8
    飛行機内の客に「マナーを守れ!」と動画まで撮影し…
  • 9
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 10
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 7
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 8
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 9
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 10
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中