アサド政権崩壊後の混迷シリアを待つ「3つのシナリオ」を検証する
Preventing Another Morass
Steve Travelguide -shutterstock-
<人々は独裁者アサド打倒の歓喜に沸くが、宗教的・民族的に分断された国は、リビアやスーダンが陥った落とし穴を避け、安定への道を歩めるのか>
シリアのバシャル・アサド大統領の政権崩壊後、世界はそこで繰り広げられる解放の光景に胸を打たれた。長年離れ離れだった家族が再会し、過酷な環境で投獄されていた元収容者たちが自由の身になった。
こうした歓喜の瞬間は、周辺各国で過去に見られた風景と酷似している。リビアのカダフィ政権打倒時、エジプトのムバラク政権崩壊、イラクのフセイン政権打倒、スーダンのバシル政権の終焉......。
だが歴史は、次いで訪れる困難も警告している。当初の高揚感はしばしば、その後の不安定性や悲劇、後悔にかき消され、多くの人々が旧体制時の秩序と思しきものを懐かしむようになるのだ。
シリアにとって今の問題は、同様の騒乱の後に他国が陥ってきた落とし穴を避けて、違った道を歩めるかどうかだ。
シリアは民族的にも宗教的にもバラバラな国で、利害のぶつかる政治課題を抱えた4つの主要勢力が存在する。
まずはクルド人だ。250万人を擁するこの民族集団は、トルコとの国境のシリア北東部を支配しており、トルコとクルド人は敵対関係にある。
その結果、アメリカが支援するクルド人と、反政府勢力を束ねてアサド政権を打倒し、かねてからトルコの支援を受けてきたシャーム解放機構(HTS)との間に緊張が生じている。
さらに事態を複雑にしているのは、クルド人がイスラエルと戦略的同盟関係にあること。イスラエルは歴史的に、イラクやシリア、トルコ、イランの一部でクルド人の自治国家建設の夢を支持してきた。
2つ目の勢力は、現在シリアの大部分を支配し、多種多様なイスラム主義派閥で構成されるHTSだ。その中には穏健派から、強硬派ジハード主義者、イスラム過激派のルーツを持つ外国人戦闘員までもが含まれる。
彼らはシリア多数派のスンニ派アラブ人を代表しているとも主張する。
HTSの指導者モハマド・ジャウラニは、イスラム統治の夢を抱きながらも、穏健化路線を進めてきた。彼は最近、CNNに「イスラム統治を恐れる人は、誤った前例を目にしてきたか、正しく理解していないかだ」と語っている。
3つ目の勢力は、イスラム教ドルーズ派だ。
シリア第3の規模の勢力で、主にイスラエル国境近くの南部に住む。一部のドルーズ派指導者はイスラエルに併合されることを望んでいるともいわれるが、イスラエル占領下のゴラン高原では、同地域のシリア返還を求めている指導者もいる。
イスラエルはゴラン高原の入植地拡大計画を承認したばかりで、イスラエル軍はここ数日、国境の非武装緩衝地帯を越えて前進している。
4つ目は、シーア派の分派アラウィ派と、キリスト教徒。彼らはアサド政権崩壊後、最も弱い立場に置かれている少数民族で、彼らに関心を寄せたり、保護する力を持つ近隣国の味方もいなければ地元勢力の仲間もいない。
連邦制統治に割れる賛否
現在の国内力学と、より広範な地域の地政学を分析することで、シリアの未来には3つのシナリオが考えられる。
1つ目のシナリオは、世俗的な連邦国家が形成されることだ。
これは、シリアを構成する多様な民族と宗教に対応したもので、連邦制により、全てのグループが地方と中央の両方のレベルで代表権を持つことが可能になる。既に事実上の自治を享受しているクルド人などの少数民族は、この案を支持している。
HTSは、新生シリアにおけるクルド人の役割について公式のコメントは出していない。ジャウラニは、「次のシリアでは、クルド人は重要な存在となる。私たちは共存し、誰もが法によって権利を与えられるだろう」とだけ述べた。
連邦制モデルに対する周辺諸国の意見は割れている。イスラエルは連邦制を支持している。
同国のギデオン・サール外相は、シリア全土を実効支配し、主権を持つ単一のシリア国家は「非現実的」とし、「論理的なのは、シリアの多様な少数民族の自治を目指すことであり、連邦制が望ましいかもしれない」と述べた。
一方、ヨルダンやトルコは、連邦制には反対している。トルコのクルド人に代表されるような自国の少数民族に与える影響を懸念しているためだ。
紛争長期化で利する国
2つ目のシナリオは、強力な中央集権国家だ。この場合、HTSのようなスンニ派イスラム主義勢力が主導する中央政府が基盤となる。権威主義的な統治が行われ、少数民族は抑圧され、イスラム法の役割が増大する可能性がある。
トルコはこのシナリオを強く支持している。シリア北部の一部を支配するクルド人民兵組織「人民防衛隊(YPG)」の脅威を排除できるとみているからだ。トルコは、YPGと自国内の分離主義組織「クルド労働者党(PKK)」の関係を警戒している。
強力な中央集権国家が成立すれば、トルコはシリアで影響力を拡大することも可能だ。そこには、カタールからサウジアラビア、ヨルダン、シリアを経由してヨーロッパへガスパイプラインを敷設するという経済的な動機もある。
3つ目のシナリオは、紛争の長期化と事実上の分裂状態だ。これはシリア国民にとって最悪の結果で、暴力が継続し、国が民族的・宗教的に分断されたままになる。
近年のリビアやスーダンと同じように、シリアがこの運命をたどる可能性を示唆する要因は数多くある。シリアには歴史的な不満を募らせた民族が存在し、強力な民主主義の伝統もない。
このシナリオは、歴史的な敵の1つを弱体化させるという意味で、イスラエルに大きな利益をもたらす。また、トルコはシリア北部の占領を拡大し、クルド人勢力への攻勢を強めようとするだろう。
3つのシナリオ全てが示しているように、シリアの将来は、さまざまな国が影響力を行使し、それぞれに異なる政治的、経済的、安全保障上の利益を追求している地域情勢と密接に結び付いている。
アラブ連盟の8カ国は最近、ヨルダンで会合を開き、シリアの「平和的移行プロセス」への支持を表明した。各国代表はアメリカとトルコの外交トップとも個別に会談し、少数民族の権利を尊重する包括的な政府を求めた。
しかし会合では、出席国間の意見の相違が激しいことに加え、イスラエルなどの主要国が不在だったため具体的な計画には至らなかった。
現状では、シリアの将来のための国際的な枠組みを構築することが不可欠だ。
Ali Mamouri,Research Fellow, Middle East Studies, Deakin University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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