最新記事

リオ五輪閉会式

リオ五輪閉会式「引き継ぎ式」への疑問

2016年9月30日(金)16時40分
小崎哲哉

Yves Herman-REUTERS

<「安倍マリオ」登場やプロジェクションマッピングを使った演出などが好評を博したリオ五輪閉会式の「東京大会プレゼンテーション」。しかし、フレームを使ったダンスを見て、「おや?」と思った。ある舞台芸術の傑作に似ているからだ...>

 リオ五輪閉会式の「引き継ぎ式」(東京大会プレゼンテーション)が現地時間8月21日に行われた。テレビの生中継を観ただけだが、AR(拡張現実)やプロジェクションマッピングの技術は非常にレベルが高くて感心した。だが、「おや?」と思ったこともある。いわゆる「クールジャパン」の強調や、「開会式に間に合わない」という安倍首相がスーパーマリオに変身し、ドラえもんがつくってくれた土管で地球の裏側にワープするという----ロンドン五輪開会式の、ジェームズ・ボンドがエリザベス女王をエスコートするという筋立てによく似た----アイディアなど。しかし、本稿で論じたいのはそのことではない。首相の登場が序幕だとすれば本編に当たる、パフォーマンスの演出についてである。


「安倍マリオ」登場〜退場後(YouTube映像では5分30秒くらいから)、ARを駆使したパフォーマンスが始まる。最初は東京五輪で実施される33の競技のアニメーション。約30秒後に50人のダンサーが現れ、NHKアナウンサーの表現に従えば「光を放つフレーム」の内外で「33の競技をイメージしたアクロバティックなパフォーマンス」を始めた。フレームとは金属製とおぼしい直方体と立方体の枠のことで、大中小3種類・計45個あるという。いずれも人がひとり中に入れて、押したり引いたり転がしたりできるほどの大きさだ。人とフレームによるダンスがひとしきり続き、これもNHKアナウンサーによれば「会場を未来的な空間にし、観客を一気に引き込みました」とのことだ。

 たいへん結構なことに思えるかもしれないが、大きな問題があった。人とフレームによるダンスという発想自体が、ある先行作品によく似ているのだ。シディ・ラルビ・シェルカウイとダミアン・ジャレが共同で振付を行い、アントニー・ゴームリーが舞台美術を担当した『バベル BABEL (words)』である。付け加えるまでもないが、シェルカウイ氏とジャレ氏は国際的に活躍する振付家。「サー」の称号を持つゴームリー氏も世界的に著名な彫刻家で、ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタへの参加経験があり、1994年にターナー賞を、2013年には高松宮記念世界文化賞(彫刻部門)を受賞している。


Babel(words) - Eastman / Sidi Larbi Cherkaoui & Damien Jalet

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

バランスシート縮小「焦る必要ない」、市場荒らさない

ワールド

米首都で銃撃、イスラエル大使館員2人死亡 容疑者1

ビジネス

JPモルガンCEO、米スタグフレーションリスクを警

ワールド

NZ、今年度の新規支出を10年ぶり低水準に抑制 成
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜いた──ただしそれは異形のAI
  • 4
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 5
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 9
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 10
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中