最新記事

日本社会

「集団自殺」に突き進む日本人

英エコノミスト誌が警告した「人類の自発的絶滅」は杞憂だった、日本を除いては

2011年1月5日(水)18時12分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

緩慢な死 高齢化を放置すれば日本の労働人口はますます減少し経済も衰退する Yuriko Nakao-Reuters

 英経済誌エコノミストが「自発的な人類絶滅」に関する刺激的なエッセイを掲載したのは、1998年末のこと。「問題は(人類が)滅亡するかどうかではなく、それがいつ起きるかだ」という警告は衝撃的だった。

 世界の大半の国はこんな警告を受け流した。だが、日本政府だけは密かにこの運命を恐れているのではないか。私は1年半ほど前に移民の受け入れを拒む日本の実態について書いたことがあるが、ニューヨーク・タイムズ紙も1月2日、高い技能をもつ外国人さえ受け入れようとしない現状を報じている。一言で言って、状況は1年半前と変わっていない。


 高齢化に伴い、労働人口の減少が差し迫っているにもかかわらず、日本は移民に門戸を開こうとしていない。政府の政策は正反対で、小さな利益団体を保護する一方、国内の大学・大学院で学ぶ留学生や外国人労働者が自国に戻るよう積極的に働きかけている。

 2009年には、政府が統計を取っている半世紀間で初めて、在日外国人の登録者数が減少し、前年比1・4%減の219万人となった。これは1億2750万人という日本の総人口のわずか1・71%だ。

 移民の増加は、20年間に及ぶ日本の経済停滞を打開する一つの解決策になると、専門家は指摘する。だが、日本政府は若年労働者(とその新鮮な頭脳)を受け入れる代わりに、経済成長を阻害し、慢性的な財政赤字の削減努力の足を引っ張り、社会保障制度を崩壊させかねない「人口危機」を手をこまねいて見ているだけに思える。

 日本の「高齢化時計」のタイムリミットは刻一刻と迫っている。政府の試算によれば、日本の人口は今後50年間で今の約3分の2の9000万人にまで減少する。2055年には、国民の3人に1人以上が65歳以上で、労働人口は今の3分の2以下の5200万人になる。

 自民党は08年に1000万人の外国人を受け入れる計画を表明したが、世論調査では国民の過半数が反対を表明。朝日新聞が約2400人の有権者を対象に行った調査でも、回答者の65%が開かれた移民政策に反対している。


 

地球温暖化と同じく問題を先送り

 この問題について議論すると必ず、「高齢の労働者とハイテクロボットを活用すれば、日本は立ち直れる」という主張をする人がいる。だが昨年発覚した所在不明の「消えた高齢者」問題によって、日本の高齢者人口が当初の見込みより少ないことが明らかになった。ハイテクロボットが賢くなりすぎるのも困りものだ。頼みの綱のウィル・スミスはすでに老人で、ロボットの暴走を止めてくれそうにない。

 真面目な話、日本の移民受け入れ問題は、地球温暖化と同じ類の位置付けにある。多くの人が長期的には重大な問題だと理解しているのに、すぐに行動を起こすだけの目先のインセンティブがないのだ。私の認識が間違っていればいいのだが。

Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 05/01/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ経由のロシア産ガス輸送停止、契約延長され

ワールド

USスチール生産能力削減に米政府の拒否権、日鉄が提

ワールド

プーチン大統領「自信を持って前進」、新年演説で団結

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利差が背景 円対ドルで4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 2
    JO1やINIが所属するLAPONEの崔社長「日本の音楽の強みは『個性』。そこを僕らも大切にしたい」
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…
  • 5
    ロシア、最後の欧州向け天然ガス供給...ウクライナが…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 8
    スターバックスのレシートが示す現実...たった3年で…
  • 9
    「こんな物が危険なの?」運転中に胸ポケットに入れ…
  • 10
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 7
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 8
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 9
    ヨルダン皇太子一家の「グリーティングカード流出」…
  • 10
    JO1やINIが所属するLAPONEの崔社長「日本の音楽の強…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中