最新記事

米財政

迫る「強制削減」に手を打てないオバマ

3月1日の発動期限を前に声明を出したが議会との足並みがそろう見通しは暗い

2013年2月21日(木)15時17分
エレノア・クリフト(本誌コラムニスト)

オバマは強制削減を先送りするため、ようやく議会に協力を呼び掛けた Joshua Roberts-Reuters

 今となっては、「強制削減」という言葉の意味を知らないアメリカ人はほとんどいない。ホワイトハウスと議会が財政赤字削減案に合意できなかった場合、3月1日から自動的に歳出削減が発動されることになっている。

 事態の大きさを考えると、この問題についての議論は驚くほどなされてこなかった。だが先週、オバマ大統領はようやく7分間の声明を発表し、強制削減を先送りするために暫定的な措置を取るよう議会に求めた。さらにオバマは、11年に共和党側に提案した赤字削減案について「今も交渉の対象だ」と語った。

 共和党が待っていた言葉だ。2年前に赤字削減案を提案したとき、オバマはまだ立場が弱く、多くの妥協をした。だが再選を果たし、世論調査で高い支持率を得ている今なら、当時の譲歩をほごにしてもおかしくない。

 だがオバマは大局を見ているし、強制削減が発動されれば米経済が大変な打撃を受けることも分かっている。

「わが国の経済は、いま軌道に乗っている。議会が自ら招いた傷口がこれ以上広がらなければ、その軌道を保つことができる」。オバマはそう語り、議会に対して「強制削減による景気への悪影響を数カ月遅らせる」ために短期的な予算措置を講じるよう求めた。議会は政府の国債発行枠(債務上限)についてはオバマの提案どおりに動き、上限の適用を5月半ばまで3カ月延長する法案を可決している。

財政の崖とはここが違う

 強制削減について驚くのは、民主・共和両党が行き詰まり打開のために何ら具体的な努力をしていないことだ。両陣営とも、強制削減が発動されても最悪の事態にはならないと思い込もうとしているかにみえる。

 その判断はある程度まで正しい。「これは『財政の崖』問題とは違う。強制削減が行われても国が終わるわけではない」と、民主党系シンクタンク「第三の道」のジム・ケスラーは言う。

 確かに「財政の崖」の場合は、回避できなければアメリカの債務不履行と世界的な金融危機につながっていた。しかし強制削減では、国防費の削減率は大きいが、社会保障関連予算はそれほど削られずに済みそうだ。

 共和党はオバマ政権が求める増税より国防費の大幅削減を受け入れるだろう。オバマは債務上限の延長のときと同じく議会に打開策を任せようとしているが、議会側が動く気配はない。

 共和党のエリック・カンター下院院内総務は先週行った演説で、学費負担の軽減や留学生の査証給付条件の緩和など民主党に歩み寄るような施策を提案した。「より良い生活」というスローガンを打ち出したカンターは、「財政問題の先にあるものに焦点を合わせる」ときが来た、と語った。

 カンターは強制削減には直接触れなかった。しかし将来を見据える共和党幹部の1人として、抜本的な改革が期待できないなら、解決へのアプローチを変えるべきだと言いたかったようだ。

 富裕層増税を受け入れた共和党は、さらなる増税には難色を示している。だが「第三の道」は、大統領選で共和党候補のミット・ロムニーが提唱した政策を借り、個人の税法上の抜け道を塞ぐ案を掲げている。高額所得者の年間控除額の上限を3万5000ドルに引き下げる一方、寄付金を例外にすれば、4000億ドルの歳入増になる。

 両陣営の優柔不断と党派対立の末に強制削減が発動されれば、どれだけの犠牲が出るだろうか。カンターは「より良い生活」を促進するためにアプローチを変えたいようだが、その前にホワイトハウスと議会は「より良い仕事」を進めるべきだ。

[2013年2月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

台湾、今年の成長率予想を+3.1%に下方修正 米関

ビジネス

独失業者数、10年ぶり300万人に接近 5月予想以

ワールド

プーチン氏、停戦条件にNATO拡大停止の誓約など 

ワールド

仏インドネシア、防衛装備品調達で覚書 ラファール戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「地上で最も幸せな場所」に家を買う方法と「必要な覚悟」
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 6
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    広島・因島の造船技術がアフリカを救う?...「もみ殻…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 7
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 8
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 9
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 10
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中