最新記事

エジプト

独裁政権の裏をかくハッカーたちの頭脳戦

政府にネットが完全遮断されたエジプトに自由を取り戻そうと、世界の技術者が前代未聞の試みに乗り出した

2011年2月4日(金)18時05分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 先週、エジプト政府が国内のインターネット網を遮断してから数時間後、意外な連中が状況打開に乗り出した。世界の「ハッカー」たちだ。

 すべての始まりは、アメリカの起業家シャービン・ピシェバーがネットが遮断直後にツイッターに書き込んだメッセージ。エジプトにある普通のノートパソコンをインターネットルーターに転換するソフトウェアを現地に送りたい、そのために力を貸してほしいというものだ。このソフトを使って、パソコンからパソコンへメッセージを順次送っていく形の通信網「メッシュネットワーク」を作ろうというのだ。

 世界の技術者たちはこのメッセージを次々に広め、「オープン・メッシュ・プロジェクト」への協力を申し出た。ルーター機能を生かせば近くの人との通信は可能になる。もしネットワーク内の1台がダメになっても、別のパソコンを通じたルートを探してメッセージを伝達できる。「携帯型の臨時ネットワークは作れる」とピシェバーは言う。「最低でもエジプトの人々は連絡を取り合って団結することができる」

 さらに、ネットワーク内の誰かが外部との通信手段を得られれば、それをネットワーク内の人たちと共有することもできる。

 グーグルやツイッターの技術者たちも、多くの人たちとエジプトのための取り組みをスタート。ネットの代わりに電話でメッセージを残すと、その音声が文字に変換されてツイッターに投稿されるようになった。

農村部でのネット接続が発想の原点

 エジプトのプロバイダー「ヌール」はネット遮断後も例外的に営業を続けていたが、1月31日についに停止。その後もネットに接続する方法はいくつかあった。固定電話を使ったダイアルアップのモデムで国外のプロバイダーを通じてネット接続する人もいれば、衛星回線を使う人もいた。

 いち早くピシェバーの呼びかけに応えたのは、米ミシガン州でIT企業を経営するゲーリー・ジェイ・ブルックスだ。彼はすぐにウェブサイトを開設し、世界の技術者からのメッセージをとりまとめ始めた。エジプト国内のワイアレス技術の専門家たちにも連絡を取り、メッシュネットワークのソフトを広く流通させ、インストールを促す協力者を募った。

 アメリカの技術者たちがバラバラに持っていたソフトの「部品やかけら」を組み合わせれば、誰でも簡単にソフトをインストールして使用できるようになると、ブルックスは語った。「48時間以内にプログラムを組み立てて、CDかUSBメモリの形で流通させられる」

 メッシュネットワークという概念は以前からあった。「すべての子供に1台ずつノートパソコンを」という理念を掲げるNPO団体OLPC(One Laptop Per Child)が独自開発した格安の携帯型端末には、メッシュネットワーク機能が内蔵されている。確かなネット接続方法がない農村地域の子供たちが対象だからだ。この端末を使えば、子供たちは少なくとも地域内では連絡を取り合える。さらに地域内に1人でもネット接続できる者がいれば、全員でそれを共有できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロサンゼルスで移民の抗議活動、トランプ政権が州兵派

ワールド

コロンビア大統領選の候補者、銃撃される 容疑者逮捕

ビジネス

CPIや通商・財政政策に注目、最高値視野=今週の米

ワールド

マスク氏との関係終わった、民主に献金なら「深刻な結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 2
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全な場所」に涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 5
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 6
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「銀」の産出量が多い国はどこ?
  • 9
    ディズニーの大幅な人員削減に広がる「歓喜の声」...…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 10
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中