コラム

4月のオバマ来日の目的は何なのか?

2014年02月20日(木)15時18分

 4月下旬のアジア歴訪の一環として、オバマ大統領の来日がほぼ確定したようです。昨年末の安倍首相の靖国神社参拝以来、日米関係はかなり「こじれた」感じになってきていますが、そうした文脈から考えると、今回の首脳会談では目に見える成果としての関係改善が求められます。

 これは、オバマ大統領に取っては非常に大きな問題です。現在、アメリカの外交は、スノーデン事件で欧州では「イメージダウン」を余儀なくされる中、シリアやウクライナ問題では「行き詰まり感」が顕著となっています。その一方で「自分が力を入れる」と宣言してきたアジア外交まで行き詰まるようですと、大統領の威信は大きく低下する可能性があるからです。

 では、日米関係の改善という場合、この2014年の3~4月の時点では具体的に何をすれば「改善」ということになるのでしょうか? 2つ大きなテーマがあると思います。

 1つは、日中関係です。

 昨年末の安倍首相の靖国参拝に始まって、同じく安倍首相のダボス会議での「第一次大戦直前」との不用意な比較論発言、CNNの単独インタビューを受けた安倍首相の「中国は20年間ずっと拡張主義だった」という発言、そしてNHKの籾井会長の発言に、今回の衛藤晟一首相補佐官の「アメリカの『失望』発言には失望」という発言など、一連の「右傾化の兆候」は、明らかに「中国を利する」ことになっています。

 それは、安倍首相並びに周囲の言動により、中国は「日本は依然として枢軸国家であり、連合国並びに国際連合の敵」だと批判することが可能となっているからです。結果として、中国があたかも「自分が連合国の戦勝と第二次大戦の戦後の平和な世界」という「レガシー(遺産、正統性)」を持っているかのように振る舞っています。

 これはアメリカにとっては到底容認できないことです。アメリカは自ら血を流し、日本も血を流す中で太平洋の平和が実現し、戦後の日米の良好な関係ができているわけです。一方で中国というのは、国連の創設メンバーではないし、戦後は長い間冷戦を戦う中で、アメリカの仮想敵であったわけです。その中国がまるで国連=連合国を代表して日本を枢軸国だと罵倒するような「口実」を与えるということは、太平洋の戦後体制を根幹から揺るがすことになるのです。

 日中関係に関しては、少なくともこうした負のスパイラルを止めること、そのためにも日本側でこれ以上の事態悪化を招くような言動は止めること、これが大きなテーマになると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国PDD、第1四半期は47%減益 国内競争激化や

ビジネス

アングル:米小売り企業、非公開化検討 トランプ関税

ビジネス

トランプ・メディア、ビットコイン投資へ25億ドル調

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、ダウ740ドル高 対EU関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 3
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 6
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 7
    ハーバード大学にいられなくなった留学生、中国の大…
  • 8
    広島・因島の造船技術がアフリカを救う?...「もみ殻…
  • 9
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 10
    米国債デフォルトに怯えるトランプ......日本は交渉…
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 7
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 8
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 9
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 10
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story