佐藤秀峰氏が報じる講談社の搾取
佐藤秀峰onWeb
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このような形で原稿料などの情報を公表・共有することは、情報格差を埋めることになり、極めて重要なことである。MyNewsJapanも原稿料データベースを作成している。
佐藤氏は73年生まれで、98年3月に漫画家デビュー。2002年2月から講談社『週刊モーニング』で『ブラックジャックによろしく』の連載を開始し、その単行本が1巻目から100万部を超えるなど、大ヒット漫画家に上り詰めた。
佐藤秀峰の漫画制作日記
「プロフィール」より(Copyright © 佐藤漫画製作所)
。これは小学館ヤングサンデー『海猿』での話 |
・マスコミへの2次使用無断許可50件
・セリフの無断改ざん
・登場人物氏名の無断変更
モーニング全作家のなかでも稼ぎ頭である佐藤氏の原稿料は、100万部売れてもなお、1ページ23000円だった。一方、モーニング連載作家の原稿料平均は1ページ31680円であることが判明し、休載。覚書を交わし、33000円にアップして連載を再開した。
だが、その後『ブラックジャックによろしく』が、講談社によって、韓国の出版社に2次使用が無断許可され、ネットに作品が流出していることが判明。モーニングへの不信感が頂点に達する。
講談社は作家を下請け扱いでバカにし、好き放題やって搾取しているのだった。27歳で年収1200万円 、40歳で1800万円、60歳まで終身雇用で生涯年収7億円という、自らの高給を維持するために…。
特にひどいのは、売れれば売れるほど講談社だけが加速度的に、より儲かる仕組みになっており、著者と利益を分かち合う姿勢が全くなかったことだった。
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佐藤氏は、原稿料アップと印税スライド制を要求するが、交渉は決裂。2007年1月、小学館の『ビックコミックスピリッツ』へ移籍して連載再開となった。ページ単価は35000円ほどに若干アップし、印税もスライド制になった。
現在、年間450ページを描くが、原稿料は計約1600万円に過ぎない。1話あたり15万円の企画料を入れても、スタッフの総人件費1800万円と、トントンだ。オフィス賃料や佐藤氏自身の給料はここからは出ず、単行本の印税に頼ることになる。
単行本の印税は10%で、一冊50円×1000万部超=5億円超がこれまでの会社の売上となっているため、そこから月70万円の佐藤氏の月収を捻出しているという。とはいえ印税は水モノで、不安定だ。この金額は、安定的に支給される講談社28歳社員の給与 よりも低い。
小学館と2006年11月に結んだスライド制の契約では、単行本10万部以上の印税は11%になったが、相変わらず原稿料では食べていけず、単行本の印税に頼った“ギャンブル構造”は変わらない。
このままでは漫画家になる人がいなくなってしまう。佐藤氏はホームページを作った理由について、「漫画という文化を10年後に残すために、何ができるかと言うことを考え始めた」と記している。
紙から解き放たれよ
単行本が1冊100万部近く売れ(出版社はボロ儲けだ)、テレビドラマ化され、これ以上のヒットはありえないというほど売れても、事務所の経営が苦しいという佐藤氏。
こうやってPC画面上で大画面で読めれば十分だ |
ジャーナリストや作家と決定的に異なるのは、漫画家はスタッフの人件費が必然的にかかることだ。ジャーナリストは背景画を描いたりしないから、1人で取材して1人で執筆するのが当り前なのに対し、佐藤氏は6人のスタッフを抱えている。にもかかわらず、扱いは普通の作家と同じで、印税10%、1ページ3万5千円。
ならばなおさらのこと、佐藤氏には、とにかく「ネットでも」連載してほしい。著作権を持っているのは出版社ではなく、佐藤氏だ。だから、「シングルソース、マルチユース」で、スピリッツに連載しつつも、同時(か1週遅れでも)にネットやケータイに配信して有料課金をすべきだ。
たとえば私は、他の作品と「抱き合わせ販売」されてしまうスピリッツは買わないが、佐藤氏の作品だけはお金を払って読みたい。1週分で300円くらいは普通に払いたい。だが佐藤氏は、払いたい人から取れていない。
小学館は、講談社と同様、「貰いすぎ正社員」の高給を維持するために、これ以上のフィーは出さないだろうし、これはOECDなど国際機関からも指摘されている正社員の過保護規制という構造的な問題なので、政治が動いて労働法制を改めないと解決しない問題だ。
「貰いすぎ正社員」が、漫画という日本のカルチャーまで破壊している。政治家は、この実態を理解しているのだろうか。
政治に期待できない以上、佐藤氏は、独占契約を結ぶ必要は全くない(高額な独占契約料を貰っているなら別だが)ので、紙への執着を捨てて多メディア展開を進めれば、一気に経営はよくなる。紙のコストは印刷、流通ととてつもなく大きいが、そのコストに見合うだけのパフォーマンスを読者に与えられていない。私も、紙でやっていないからジャーナリズムを経営できている。
佐藤氏の漫画はジャーナリズムそのものだ。私も単行本は全て買って読んでいる。同世代としても、ぜひ頑張って欲しいのである。
→ 佐藤秀峰の漫画制作日記
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漫画家搾取
人気漫画家でも意外と大変なんだな
会社の給料と会社の規模が比例するのは日本だけだという事実を最近初めて知った。リスクとっている人がノーリスクの人よりも報われないはおかしいだろうと思う
搾取とは穏やかじゃないな/『他の作品と「抱き合わせ販売」されてしまうスピリッツは買わないが、佐藤氏の作品だけはお金を払って読みたい。(中略)だが佐藤氏は、払いたい人から取れていない』
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読者コメント
2021/01/01 10:58の佐藤秀峰氏のnoteでWeb漫画雑誌「マンガ on ウェブ」はなぜ敗北したのか?という記事があった。電子書籍では雑誌という形態は必要無くなったとの事。一つの曲がり角に時代が来ているのだと思う。
クリエイティビティのない出版社社員が、不当な報酬を搾取するのはおかしい。書籍の電子化で、作家革命を起こしてはどうでしょう。中間マージン取りまくりの出版社や印刷会社はそのうち、炭鉱と同じ運命を辿るでしょう。
あとは編集部からあったという「侮蔑的な対応」。でもそれ「熱い仕事上のやりとり」と紙一重。勿論、漫画家が怒ってるんだから編集部は「大失敗」してる。だけど佐藤氏も抗議のやりとりが「下手」だったのでは。初期に普通にビシッと言ってれば、あそこまで一方的に非道な言葉は、言う方だってそれなりの会話の文脈がなければ吐かない。HPでも(金の交渉と違い)自分が何をどう言った後に「暴言」を吐かれたかあまり書いてない。
もう一つ大事なのが、その搾取出版社と本格的に揉めて以降の「ブラックジャックによろしく」は、なにより漫画としてツマラナイ。この事は漫画家も出版社も読者も、もっと考える必要があると思う。
年間8千万前後の印税は、待遇改善を要求&業界を変える闘いの兵糧としてもけっこうな額。あのHPからだけでも感じる本人のエキセントリックさは、同業者から共感を得るためにも勿体ないと思わざるをえない。作業時間や収入保証のないリスク、スタッフを抱えるつらさは、たとえば陶工だってそう。単に、漫画はまだ大衆商品で「作品が儲かってるはずだから払ってくれ」に絞ればよかったのに。
挿絵『海猿』でのお話のように、小学館の編集部もセリフの改ざん他をヤリまくってたみたいだし、「講談社の搾取」じゃなく「漫画出版社の搾取」でしょ。で、その搾取利益のおこぼれで現代やらサピオやらプレイボーイやら回してんでしょうよ。ジャーナリズムの危機とか言ってる「良識派」に訊いてみたいね。
印税の5~6億円は連載開始から7年間にわたっての収入であり、膨大な作業時間と収入の保証のないリスクに比べれば、あまりにも低い報酬ではないでしょうか?
トップクラスの漫画家でこの収入・・・。他に雑誌を支えている「普通の」漫画家は推して知るべし、です。
どう考えても出版社員と漫画家の利益配分が間違っています。
思うのですが1作品で5〜6億の印税があってなおかつ生活が苦しいなんて話があるでしょうか。ほかに映画化された作品もあったはず。
住居、食費、遊興費などを経費とできる漫画家がなおかつ「自分の会社」から小遣いを毎月70万円もらっているということでは。
会社の社員って誰?氏の奥さんも漫画家で、別に給料が払われていると考えるのが普通では?スタッフは共用?
いろいろヘンだと思います。
佐藤さんのネット連載には大賛成です。
大手出版社が高給を維持できる理由の一つが、書籍の「再販売価格維持」ですが、ネット上で誰もが低予算で作品を発表できる今、書籍に関してこの制度は全く意味が無くなったと思います。
これをきっかけに大手出版社の給与が適正な価格に落ち着き、作家の努力が報われるようになることを望みます。
佐藤秀峰さんがんばれ!!
それはチョイスした出版社の責任では?しかも売れてても作家にその売れた分をまわさないで、作品を勝手に使ったり、台詞を無断改ざんしてるのは、まったく理解できませんね。こんなことが通用するのもこの先ないでしょう。
講談社に限らず出版社にはもう未来はないでしょうね。
佐藤秀峰氏にはぜひ頑張って欲しいです。
mynewsjapanには出版利権についても取材して欲しいです。
佐藤さんが苦労されているのは分かりますし、もう少し待遇改善があっても良いとは思いますが、ちょっと一方的に過ぎるのでは。そりゃ現実にヒットしたら後付けで丸儲けと言えるでしょうが、売れなかった場合のリスクも出版社が一方的に負っているという事実を忘れてやいませんか?
講談社、小学館、集英社、みんな高級なだよね。漫画家は見下しているし、漫画編集部に異動した人も見下され。だけど会社の収入を支えているのは漫画かファッション誌だから、ホントに非人道的だなこいつら。
あと、某メーカーのサラリーマンからライターに転身した方に聞いたことがあるのですが、出版するに際して、契約書を交わさずに口約束だけで事が進むのが常態化していて驚いたと言っていました。ビジネスの常識が通じない世界なんでしょうか。泣き寝入りしている人も多いんじゃないですかね。
出版も再販制という規制に守られた業界。官僚→大企業→下請という構造はここでも健在。講談社も文部科学省から天下りをうけいれているんじゃないですか?1940年体制は罪深い。
佐藤さんのプロフィールにある講談社のモーニング編集部からの回答の要約の「そこにあるのは純粋な市場原理であり」という部分はどうなんでしょうか。再販制度と委託制度下で市場原理が機能していない日本の出版業界における講談社社員の存在意義は、江戸時代の街道の関所で袖の下をせしめている小役人のそれと類似しているのではないかと。
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