みすず書房

望郷と海

始まりの本

判型 四六変型
頁数 312頁
定価 3,300円 (本体:3,000円)
ISBN 978-4-622-08356-6
Cコード C1336
発行日 2012年6月8日
備考 在庫僅少
オンラインで購入
望郷と海

「彼はついに〈告発〉の言葉を語らなかった。彼の一切の思考と行動の根源には、苛烈で圧倒的な沈黙があった。それは声となることによって、そののっぴきならない真実が一挙にうしなわれ、告発となって顕在化することによって、告発の主体そのものが崩壊してしまうような、根源的な沈黙である。強制収容所とは、そのような沈黙を圧倒的に人間に強いる場所である。そして彼は、一切の告発を峻拒したままの姿勢で立ちつづけることによって、さいごに一つ残された〈空席〉を告発したのだと私は考える。告発が告発であることの不毛性から究極的に脱出するのは、ただこの〈空席〉の告発にかかっている。」

「人は死において、ひとりひとりその名を呼ばれなければならないものなのだ」
シベリアでの収容所体験の日々と戦後日本社会に著者は何をみたか。解説・岡真理

目次

I
確認されない死のなかで——強制収容所における一人の死
ある〈共生〉の経験から
ペシミストの勇気について
オギーダ
沈黙と失語
強制された日常から
終りの未知——強制収容所の日常
望郷と海
弱者の正義——強制収容所内の密告

II
沈黙するための言葉
不思議な場面で立ちどまること
『邂逅』について
棒をのんだ話  Vot tak! (そんなことだと思った)
肉親へあてた手紙——一九五九年一〇月

III
一九五六年から一九五八年までのノートから
一九五九年から一九六二年までのノートから
一九六三年以後のノートから

付・自編年譜
初稿掲載紙誌一覧
解説 問題はつねに、一人の単独者の姿にかかっている——今、石原吉郎を読むということ(岡真理)

書評情報

蜂飼耳
東京新聞2012年8月4日(土)
毎日新聞
2012年8月26日(日)
志賀賢治
毎日新聞「この3冊・試写の記憶」2016年8月7日(日)