東日本大震災アーカイブ

【魚の放射性物質】県、水揚げ全量検査へ 解体せず 短時間で 機器設置や人員確保課題

魚種を拡大しながら続けられている試験操業。県は消費者の信頼回復のために放射性物質の全量検査に取り組む=2月26日、相馬市・松川浦漁港

 県は、県内の港に水揚げされる魚介類の全魚種を対象に、放射性物質の全量検査を実施する方針を固めた。解体せずに短時間で検査可能な非破壊式検査機器を導入し、効率的に取り組む。開発中の機器が実用化され次第スタートする。本県沖の漁は2年近く自粛したままで、再開後に消費者の信頼を回復するには全量検査が必要と判断した。ただ、機器の設置や人手の確保など課題が山積している上に、消費者の不安解消につながるかは不透明だ。

■安全を担保 
 魚介類の検査態勢拡充に向けた考え方は、4日に行われた2月定例県議会の追加代表質問で県が示した。
 県によると、検査は水揚げ直後に実施する。コメと同様、検査物をベルトコンベヤーに乗せる方法や、クレーンのように機器そのものを動かして測定することなどを想定している。本県の主力魚種であるカレイやヒラメ、アイナメをはじめ、沖合のサンマやカツオなども対象とする。
 検査機器は9社が開発を進めており、コメの全袋検査技術などを応用している。発泡スチロールに梱包(こんぽう)し、氷詰めの状態でも測定可能となる見込み。機器は1台当たり数千万円になるとみられ、県は国の補助金活用や東京電力への賠償請求を検討する。
 県水産課は「機器が開発され次第、導入したい。安全を担保し、消費拡大につなげたい」としている。

■時間に限り 
 魚介類はコメや牛肉と違い生鮮食品のため、迅速な検査が求められる。早朝の水揚げから夕方の発送まで時間は限られており、県は「確実に実施できる検査人員を確保した上で取り組む必要がある」としている。
 全量検査を原則とするが、サンマやサバなど大量に水揚げされる魚種については、県は100キロ単位での抽出検査も検討する。
 県の担当者は機器の設置場所にも頭を痛める。県内の漁港・港湾は合わせて13カ所。水揚げ時は漁師や仲買人らが慌ただしく行き交うため、十分なスペース確保が難しい。

■手いっぱい 
 現在、本県沖で行われている試験操業の漁獲物は相馬市の松川浦漁港に水揚げされ、相馬双葉漁協が自主検査をしている。手作業で身を細かくさばくなど事前処理をしてから計測する。漁協職員6人態勢で4台の簡易検査器を使って検査しているが、1回の操業につき、6~7時間程度かかっているのが実情だ。
 全量検査について、同漁協の遠藤和則総務部長(57)は「試験操業の魚種が増える中、現在の検査方法でも手いっぱい。人員確保や検査場所、設置費用はどうするのか」と案じた。
 県漁連の担当者も「日持ちがするコメとは事情が違う。魚は鮮度が命。水揚げした全ての魚を素早く検査するには限界がある。解決すべき課題が多過ぎる」と指摘した。
 相馬市のスーパーシシド社長の宍戸伸夫さん(56)は「全量検査となれば消費者に安全・安心をアピールできる」と歓迎する。ただ、魚介類は多様な品種、形状があり、「画一的な方法で検査できるのか」と疑問も呈した。

■複雑な気持ち 
 県の全量検査の方針に対して、2人の子どもを持つ福島市の30代の主婦は「検査していれば安心だと分かっていても、やはり不安に感じてしまう」と複雑な気持ちを明かす。4日夕も市内のスーパーで夕食の準備のため野菜を購入したが、子どもへの影響を考え、他県産を選んだ。「もし検査済みのシールが貼られていても、たぶん他県産の魚を購入すると思う」と話した。
 一方、魚が特産の浜通りでは全量検査に期待する声も。いわき市の会社員金子佳央さん(38)は「農作物に比べて魚の検査は遅れている。態勢を整え、復興の足掛かりにしてほしい」と求めている。

背景
 県が毎週実施している本県沖の水産物のモニタリング検査で、放射性セシウムが、食品衛生法の基準値の1キロ当たり100ベクレルを超えているヒラメやアイナメ、メバルなど41魚種について出荷制限措置が取られている。出荷制限措置が取られているのは昨年6月には36魚種だったが、徐々に拡大しているのが実情だ。県漁連は検査で基準を下回っているミズダコやズワイガニ、メヒカリなど13魚種について試験操業を実施しており、いずれも自主検査で検出下限値未満となっている。

カテゴリー:3.11大震災・断面