ほんとうにこわ~い話
~国立大学病院の経営問題~
今日は、ほんとうにこわ~い話をしましょう。
この写真は1月29日に撮った写真です。ここに写っている方々は、東海北陸地方の国立大学の学長さんたちなんです。この写真が撮られた場所は、岐阜グランドホテル。国立大学協会(全国の国立大学長さんの集まり)の東海・北陸地区支部会議というのがあったんですね。この会議は、各大学で困っていることについて、お互いにいろいろと意見を交換をする場なんです。
こわ~い話といっても、残念ながらこの写真に幽霊が写っているとか、そんな話ではありません。 この会議でいろんな事が話しあわれたのですが、その中で、とってもこわ~い話があったんですね。
それは、ある大学の附属病院が約3億円の赤字となり、その補てんを大学本部がしたというのです。3億円と言うと、病院ではあっという間にそのくらいの赤字を作ってしまうことがあるんですが、病院以外の学部や大学院にとっては、つぶれてしまいかねないものすごい大金なんですね。幸い、この大学では積立金があったので、それを病院部門の赤字補てんにあてて、今回はなんとかやりくりをしたとのことです。せっかく教育・研究の高度化のために積み立てたお金を、病院の赤字の補てんに使わなければならないとは、その大学にとってもたいへんつらいことですし、また、こんなことが他の大学でもおこると日本全体の学術の国際競争力の低下につながるので、これはゆゆしき事態だと思います。そして、もし仮に、この大学病院の3億円の赤字が何年か続くと、今の国立大学法人の制度が今後も変わらなければ、大学自体がつぶれることになりかねませんね。 (私は、病院経営の不安定な浮沈が、安定的に供給するべき教育研究サービスに影響を与える現在の法人制度自体が間違っていると考えています。)
実は今、赤字の大学病院はどんどん増えており、42の国立大学の附属病院のうち半数以上が赤字となってしまって、大学本部が赤字を補てんしている大学がけっこうあるんですね。ちなみに私立の大学病院も半数以上が赤字なんですけと。
なぜ、赤字の国立大学病院が増えたのかというと、いくつかの原因の中で最大の原因は、附属病院運営費交付金(以下病院交付金と略します。)を国が激しく削減したからです。国立大学全体の予算としては毎年1%ずつ減らされつづけているのですが、病院交付金はこの4年間で50%以上も減らされたんですね。(約600億円あった病院交付金が現在約300億円に減りました。)これは、ものすごい削減率です。
各病院は一生懸命患者数や手術件数を増やして経営を頑張ってきたのですが、追いつかないんですね。大学病院は、教育・研究・高度医療・地域医療の最後の砦(とりで)という、地域にとってほんとうに大切な役割を果たしてきましたが、その機能が低下しつつあります。たとえば、お金を稼ぐために教員でもある医師の診療の負担が増えて、その分研究時間が少なくなって医学・医療の論文数が減り続け、国際競争力はどんどん低下しています。論文の量が減っただけではなく、質も中国に追いこされる事態になっています。地域への医師供給能も低下して、地域の病院から医師がボロボロ抜けていることも、皆さんよくご存じですね。これには、新医師臨床研修制度の影響も加わっていますけどね。
病院への予算の削減率を最初から1%程度にしておけば、これほどひどいことにはならなかったと思います。今後は、ぜひとも、1%程度の削減率に抑えていただきたいものです。そうでないと、赤字病院は減らず、医学・医療の国際競争力はますます低下し、大学病院の機能低下が進み、地域医療の最後の砦としての役割が果たせなくなります。
今、政府の方では、病院への予算の削減率をゆるくすることを考えていただいているようなのですが、どうも、ある程度高い削減率に設定されるかもしれないんですね。大学病院の医師たちは、他の病院に比べてかなり安い給与で引き続きがんばることになると思いますが、その限界が来て“がんばりバブル”が崩壊すると、今の世界の経済状態のように、大学病院システム(あるいは大学そのもの)と地域医療が一気に崩壊します。これこそ、ほんとうにこわ~い話ということになりますね。
このこわ~い話にならないように、私が一生懸命自分なりに奮闘してきた長い道のりを書いた文章がありますので、興味のある方は挑戦をしてみてください。けっこう長い文章ですけど。(http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0830/1/2201000109/1433760 )
今後、もし、このこわ~い話が現実のものとなった暁には、今回の大学病院の予算制度を決定することになる政府の人の責任であって、学長の責任ではないということをここに明言しておきます。 大学病院(大学本体も)が弱体化することは、その大学のある地域の死活にかかわることになると思います。ぜひ、地域からも声をあげていただきたいと思います。