ミスを犯したり、試練が訪れたり、逆風に襲われると、人はマイナス思考になりがちです。しかし、そこから抜け出すことができなければ、ストレスが蓄積され、時間が過ぎていくだけ。何の解決も見いだすことができません。

そこで、どのようにすればマイナス思考から早く抜け出せるのか。日ごろからどのような思考習慣を身に付けていれば、強いメンタリティでいられるのか。習慣化コンサルタントの古川武士さんに聞きました。

furukawa_prof.JPG古川武士(ふるかわ たけし)/習慣化コンサルタント

関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約2万人のビジネスパーソンの育成と約500人の個人コンサルティングの現場から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、オリジナルの習慣化理論・技術をもとに個人向けコンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援を行っている。主な著書に「マイナス思考からすぐに抜け出す9つの習慣」などがあり、全10冊、計30万部を超え、中国・韓国・台湾など海外でも広く翻訳され読まれている。

逆境に打ち勝った人たちのメンタルの強さは1つだけではない。

ビジネスにおいて、自分の感情を上手にコントロールする力は必要不可欠。そのためには、メンタルの強い人を参考にして思考習慣を取り入れることが重要です。

古川さんは、経営者やスポーツマン、ジャーナリストなど30名以上の著名人のエピソードなどを紐解き、メンタルを強くする思考習慣を9つに体系化。セミナーなどでレクチャーしているそうです。一気に9つの習慣を生活に取り入れるのではなく、できることから試してみましょう。

1. 等身大の自分を受け入れる

古川氏:後悔先に立たずとわかっていても、何でこうなってしまったのか、やらなければよかったとマイナス思考に陥ることがあります。そんなときは次の3つの視点を対応策と考え、思考習慣として取り入れてみましょう。

【対応策】

・多様な自分を許す

・差ではなく違いと捉える

・発展途上の自分を楽しむ

古川氏:たとえば、好きなことしか続かない人は、好きなことだけは続けられると考える。何事にも飽きやすい人は好奇心が旺盛と考える。つまり、自分を否定するのではなく、いろいろな面がある多様な自分を許すこと。人との違いを「差がある」と捉えないこと。自分を過小評価せずに成長過程にあると思うことが大切です。

2. 相手を変えずに、見方を変える

古川氏:身近に苦手な人はいますか? もしいた場合にどのように対処していますか。ビジネスやプライベートで今後も付かず離れずの関係でいたいなら、次の3つのポイントを参考にしてください。

【対応策】

・「違い」に寛容になる

・相手の立場で想像する

・最適な境界線をつくる

古川氏:たとえば、自分と考え方が違う人、価値観が違う人がいたとします。その人が変わることは期待できないので、自分とは合わないと簡単に片付けるのではなく、自分の見方を変えて、その違いに寛容になりましょう。相手の立場で想像して、自分と相手との境界線を相手に近づけてみましょう。

3. 徹底的に具体化する

古川氏:「健康診断に行くと何を言われるかわからないので怖い」という話を聞きます。不安を感じて1歩踏み出せないことがあるときは、漠然と考えて堂々巡りしていても解決しないので、対応策を参考に自分の心と向き合ってみてください。

【対応策】

・気持ちの分解をする

・事実と根拠を押さえる

・問題より解決策に目を向ける

古川氏:たとえば、先ほどの健康診断を例にすると、すべきことは、何を言われることが怖いのかを自分と向き合って具体的に探し出すことです。何が起きるのかわからない怖さ、あいまいだから怖いということもあるので、それを具体化すると意外と解決できます。もし、何かの病気が見つかったとしても、それを受け入れて治療や療養の方法を医師の話や自分で調べてみると一定の安心感が得られるはずです。

4. さまざまな視点から眺めてみる

古川氏:人はどうしても自分の固定観念で人や事象を見てしまいがちです。自分の世界だけでものごとを感じ判断していると、大変なことが起きたときに対処できないことが多くあります。そんなときは、視点を変えて眺めてみるようにしましょう。

【対応策】

・尊敬する人になりきる

・もっと大変な人と比較する

・悲観・楽観・現実で予想する

古川氏:たとえば、ボクシングに置き換えて、リングで戦っている自分と、上から見ている自分と、観客席から見ている自分など視点=立場や考えを変えてものごとを客観的にとらえることが大切です。起きた出来事を変えることはできませんが、冷静に分析して次への対応に生かすことはできるはずです。また、成功した経営者が「世の中にはもっと苦労している人たちがいるから、自分に起きていることはたいしたことではないと考えて奮起できた」というエピソードをよく聞きます。この比較基準を設定することも視点をかえる1つの方法です。

5. できることに集中して、できないことを手放す

古川氏:できること、できないことを混ぜこぜにして考えているとストレスが大きくなります。その解決策は、今できることにフォーカスを当てることです。

【対応策】

・結果でなくプロセスに集中する

・「できる」「できない」を分ける

・ハードルを下げて少しずつ行う

古川氏:配置転換されて、自分の希望ではない環境に転属したとします。人事や配属先は自分では変えられないので、その環境で将来的に役立つことを考えて見ましょう。現状に振り回されず、将来的に役立つことを考えて、今できることを少しずつ続けることで、ストレスは減り、今後の自分の大きな力になるはずです。

6. 運命を引き受ける

古川氏:どうしようもできないこと、誰にも変えられないことが起きたときに、仕方がないと受け止められるかが重要です。まだその自信がない人はぜひ思考習慣に取り入れてみてください。

【対応策】

・変えられないことを受け入れる

・最悪の事態に向き合う

・人生の試練を覚悟しておく

古川氏:人生には起きてしまったことを後悔しきれないことがたくさんあります。しかし、事実を見ないようにしていては何も生み出しません。現状とどう向き合って次の段階へ進むのかが重要です。がっぷり四つで向き合うという覚悟。運命を引き受けるという割り切りが大事です。

7. 完璧主義をやめる

古川氏:完璧を目指すことは大事なことですが、目指しすぎるとできなかったときの落胆やストレスが心身に影響を及ぼすことがあります。そこで、完璧主義をやめる方法をご紹介します。

【対応策】

・白か黒かの思考を変える

・例外を認める

・すべてに制限を設ける

古川氏:白と黒、0か100でものごとを考えたり、ゴールを設定してしまうと疲れます。そこで、どこまでできれば完璧なのか設定を変えたり、すべてに完璧を求めず、グレーゾーンや例外を設けてみましょう。気が楽になり、より完璧に近づくこともあります。

8. プラスの側面を見つける

古川氏:自分の今の境遇を疎んでも変化は訪れません。そんな状況から抜け出すためには、マイナスの側面ばかり見るのをやめることです。

【対応策】

・プラスの意味を見つける

・感謝できることを見つける

・嵐は過ぎ去ると心に刻む

古川氏:端的に言えば、今の自分に意味を見出すということです。現状を受け入れて、プラスに捉えて次につなげること、発展させることです。なにごとにもプラス思考でいること。現状はいつまでも続かず変化、終息すると思えば心身の安定や今後の変化を促進することにつながると思います。

9. 今に集中して生きる

古川氏:過去への後悔と不安にまみれていると、ストレスから逃れることはできません。それだけでなく、心身の不安定から何事にも集中できず、仕事が非効率になることがあるので改善が必要です。

【対応策】

・1度に1つだけやる

・期間限定で考える

・情報断食をする

古川氏: ストレスから逃れる方法は、当たり前ですがストレスがない状態にすることです。たとえば、映画館で作品を観ているときに仕事のことを思い出すことはあまりないですよね。これは、過去と未来の時間軸を切り離して、今に集中しているからです。同じように、1つのことに脳が浸れるとストレスフリーの状態になりやすいので、時間帯や期間を決めて、スマホの電源を切って情報を遮断し、今に集中できる時間を設けてみましょう。

また、思考習慣を自身に定着させるには、毎日の出来事を書く習慣を身に付けることが1番大切です。出来事に対して今どのように感じているか、思考をポジティブに変えることができたのか日常的に確認してください。


新年度を迎えしばらくは新しい環境に適応できず、不安や焦りを感じることがあります。ネガティブからポジティブへ。9つの思考習慣で改善を図ってみましょう。

(香川博人)

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