自分を変える習慣力』(三浦将著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、人材開発コンサルタント・エグゼクティブコーチ。「コミュニケーションの質が企業を変える」という観点から、アドラー心理学やコーチングコミュニケーションに基づいた手法により、企業の人材育成や組織開発をサポートしているのだそうです。

そして本書においてはそのような経験を軸に、「続けたくても続かない」という人に対して「習慣化」を身につける術を記しているわけです。

習慣化が上手くいかないのは、あなたが意識していない心の奥底の深いレベルで、この潜在意識の強烈な抵抗を受けているからです。それは、気持ちは前に進もうとしているのに、心の奥では気付かないうちにブレーキがかかっている状態。(「はじめに」より)

だからこそ潜在意識の特性を理解し、潜在意識の抵抗を受けない状態にし、潜在意識を味方につけながら、習慣化を進めるための画期的な方法を身につけることが大切だというのが著者の主張。その点を踏まえたうえで、きょうはChapter 1「習慣化への4ステップ」から、習慣化についての基本を確認してみたいと思います。

無意識にやっているレベルを目指す

早起き、ダイエット、禁煙などがそうであるように、習慣化はなかなか実現が難しいもの。しかし潜在意識の特性を理解し、セルフコーチングを応用することによって、それは簡単に身につくと著者はいいます。ちなみにセルフコーチングとは文字どおり、自分自身でコーチングすること。コーチングについてまったく知らなくても、簡単に実現できるのだそうです。

よい行いを習慣化していくための重要なポイントとして、まず筆頭にあげるべきは「習慣化への段階を知る」こと。そして習慣化の段階とは、物事の習熟の段階に似ているのだといいます。

ここで例として引き合いに出されているのが、歯磨きをする仕草。それは毎日の習慣として慣れたものなので、他のことを考えたりしながらでも、ほとんど無意識でできるでしょう。それが下図のいちばん右、「やっている」の段階だということ。

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しかし、ふだん歯を磨くときに使っている利き手とは反対の手で磨くと、おそらく違和感が生まれます。そして「ちゃんと歯の裏側を磨けているかな?」「いちばん奥の歯には、毛先が届いているのかな?」など、いろいろ考えながら磨いているはず。これは、図のなかの「知っている」から「できる」の間くらいの状態。まだまだ習熟からは程遠いだけに、しっかりと歯ブラシの動きを意識しながらでないと、うまくいかないわけです。

でも何日も続けることによって、いつしか違和感も消え、「できる」から「やっている」の状態になり、やがて無意識でできるようになっていく。この、"ほとんど無意識でできているレベル"としての「やっている」が極みの状態に入ってくると、プロフェッショナルというレベルに到達するという考え方です。

つまり習熟段階は、無意識レベル(知らない)からはじまって、それが意識レベル(知っている、できる)に変化し、習熟が進んだ段階では、また無意識レベル(やっている)になっていくという流れがあるわけです。(24ページより)

習慣化にも段階がある

次に、この習熟段階を「習慣化の段階」と置き換えてみましょう。するとその第一段階は、「知らない」になります。まだなにもしていないので知る機会のない状態であり、かつ「無意識」であるわけです。

その次が、「知っている」という段階。この時点ではすでに知っているのですから、そのことに対して意識が向いている状態だといえます。ただし意識はしていても習慣化はしておらず、それに対して不慣れな状態でもあります。ちなみに世の中の勉強や読書は、この「知っている」の段階にとどまることが多いと著者は指摘しています。

習慣化についても同じで、つまり「学んだはいいが、読んだはいいが、知識レベルでとどまった」状態だということ。よって、この先の「実践」に移行することが、その知識を意義あるものにしていくのです。

そして次が、「できる」。習慣化をするために、日々そのことを繰り返しはじめている段階です。これは、実践に一歩踏み出している状態。この時点では何回かやっているわけですから、それができるようになっている反面、まだ「意識してこなしている段階」でもあるわけです。また、継続する意志の力が必要な段階でもあり、そういう意味では定着の最中だということになります。もしもこの段階が大変だと、多くの人が続かなくなってしまうのです。

さて、最後は「やっている」という段階。繰り返しの日々が何十日も何百日も過ぎ、「やっているのが当たり前」になっている状態です。つまり、ここまできたら、もう意識しやっているというよりは、無意識に近い状態だということ。

習慣化できているといってもいいことになります。いわば習慣化とは、意志の力をほとんど働かせる必要なくやっている状態だということになります。だから、ここまでくると日々自動的に習慣行動が行われていくといいます。

なお習慣化に向かう段階のなかで、特に「知っている」から「できる」に移行する過程で起こってくるのが違和感だといいます。慣れないものをやろうとするから、違和感が起こるということ。違和感があることは、不慣れな感じであまり心地よくない段階だともいえるでしょう。しかしそれは、新しいことに取り組んでいる証でもあると著者は表現しています。

だからこそ取り組んでいる習慣化において、この違和感がなくなってくることが、「慣れ」が進んできたことを表すバロメーターでもあるわけです。違和感という言葉にはネガティブなイメージがありますが、それはチャレンジの証で、変化の前兆でもあるということ。(27ページより)

不必要な習慣をやめる

本書において著者は、よい習慣をつくることの重要性を説くいっぽう、「不必要な習慣をやめる」ことを勧めてもいます。そしてそれは、「必要なことだけに集中する」ということでもあるといいます。いってみれば、習慣の断捨離。いらない習慣を断ち切ることによって、それによるマイナスの習慣をなくすだけでなく、時間や労力、そしてお金の余裕が生まれるわけです。

自分にとってのスイッチとなる習慣を見つけ、それを実践していくと、「本当は不必要な習慣」がなくなっていくことを実感できるそうです。そして、あらかじめこのような習慣をリストアップしておき、どうなるかを観察することによって、順調な連鎖反応が起こっていることを確認することができるのだとか。

そしてここでは断捨離の例えとして、家のなかの話題が取り上げられています。

まったく使っていない大きな健康器具が、家のなかに陣取っているとします。すると当然ながら圧迫感があったり、手狭感があったりするでしょう。また、それだけではなく「いつも買っただけで使わずじまい」という自己否定感が、その健康器具と感情的に結びついたりもします。

そうなると、それが視界に入るたびに、なんともいえないダメな気分になる。しかしそれでも、「せっかく買ったのだから捨てるのはもったいない」という思いがあるからこそ、その健康器具はいつまでも家庭内の大事な場所に鎮座し続けるのです。

でも、これを思い切って断捨離してみたらどうなるでしょうか? マイナスのイメージと結びついたものの存在がなくなるわけですから、家のなかにはスペースが生まれることになります。いいかたを変えれば、不必要なものがなくなったことによって、「大事なものが入ってくることができる余裕」ができるということ。

そうすればその先では「あえてなにも置かない」という選択もできますし、「代わりに素敵なインテリアを置いて、部屋の雰囲気を一新する」という選択も可能になります。

この例に明らかなとおり、断捨離することによって、新たな展開が生まれるのです。そして、習慣についてもまったく同じことがいえるのです。不必要な習慣を手放すことによって、心のスペースができ、新たな習慣をはじめる余裕が生まれるということ。

著者は、ここで「戦略」という言葉を持ち出します。戦略にもさまざまな定義がありますが、端的にいうとそれは、「なにをやって、なにをやらないかを決めること」だといいます。これが、自分にとってなにが大事で、なにが大事ではないかがわかっていること、すなわち「自分の軸が定まっている」ということ。

そういう意味において、断捨離をすることはまさに戦略であるという考え方。よい習慣をつくっていくと同時に、不必要なことをやめていく。それは、自分の軸に沿った、非常に戦略的な生き方だということです。そんな生き方をするためにも、習慣化が大切だと著者は主張しているのです。(30ページより)


こうした考えを軸として、以後は習慣の見つけ方から生活習慣の磨き方までがわかりやすく解説されています。それらを自分のものにすることができれば、習慣力を手足のように使いこなせるようになるかもしれません。

(印南敦史)

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