自分とは考えや価値観の違う人たちとうまく付き合う方法を考える短期集中連載。3回目のテーマは「慣れない相手のハードルを下げる方法」です。
誰かに何かを依頼するときは、自分をよく知る頼みやすい人にお願いしがちですが、ビジネスでは頼みにくい人、面倒臭そうな人、初めての取引先など、いろいろ人たちと仕事をすることになります。そんなときに、相手のハードルを下げて打ち解けることができれば、どれだけ気持ちがラクになるでしょうか。
そこで今回も『戦略的、めんどうな人の動かし方』の著者で心理カウンセラーの五百田達成(いおたたつなり)さんに、慣れない相手のハードルを下げて、「YES」と言わせる方法について聞いてみました。
「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」を主なテーマに、「情報の翻訳家」として執筆・講演。最新刊は「アラン先生と不幸な8人」(ワニブックス)。30万部を超える「察しない男 説明しない女」シリーズほか、著書多数。日本テレビ「スッキリ!!」レギュラーコメンテーターを務めている。公式サイト
相手と一緒に併走している感覚をつくり仲間意識をくすぐる
── 初対面の人や考え方の違う人、相手がどんな人なの見きわめていない状況で、相手を理解したり、自分の考えを伝えたいときは、どのようにすればよいのでしょうか?
五百田氏:「テーブルの向こう側にいる」と思われないようにすることが大事です。たとえば、取引先との会議の場面では、対峙しているのではなく、相手と横一列に座り、同じ立場、同じ目線で物事を考えている意識を持って話をすることです。これだけでも、単なる取引関係ではなく、共感や信頼を芽生えさせることにつながります。会社でも同じことが言えます。意見や考えの違いからいつも平行線をたどる者同士であっても、部署内共通の目標などを会話のテーマにすることで、同じゴールへ向かって併走している感覚になり、相手を受け入れたり、理解しようとする気持ちが出てきます。
さらに、小手先のテクニックですが、「我々は」「私たちは」という言い方をすると、さらに併走感が高まっていきます。
共通して言えるのは、仲間意識です。仲間意識をくすぐるような会話をしていくとお互い理解度が深まり、YESを引き出しやすくなっていきます。
無理してでも振る舞うことで身近な存在になる
── たとえば、同じ部署内で苦手な人がいるとします。会議などの話し合いの場であれば、共通のテーマを議題にすればうまくいくのかもしれませんが、席を並べる同僚のハードルを下げるにはどうすればよいのでしょうか?
五百田氏:これはある会社の話ですが、同じ職場で仲の悪い男女がいたそうです。部署外でもその関係性は周知の事実で、現場から収拾がつかないと聞いた管理者は2人を会議室に呼び出して「2人に仲良くなれとは言いません。でも、仲が良いフリをしてください」と伝えました。2人は何を言われるのかと思ったそうですが「フリ」ならできるだろうと、その日から職場で挨拶や言葉を変わるようになり、周囲も落ち着いてきたそうです。
そして、「仲の良いフリ」を続けていると不思議なもので2人は本当に仲良くなったそうです。
ですので、無理してでも会話をして仲良しのように振る舞うことが、その場の関係性をよくするひとつの方法であり、相手のハードルを下げてYESを引き出すことができるようになるんです。
反則ギリギリなので乱用禁止の方法がひとつあります
── そのほかには相手のハードルを下げる方法はありますか?
五百田氏:「セルフハンディキャッピング」という方法があります。たとえば、「小さい頃から数字や計算が苦手」と自分のハードルを最初から下げておきます。すると、計算が間違っていても強く怒られないし、計算が合っていると、逆にやればできると思われるようになる。自分でハンディキャップを設定するやり方です。でも、やり過ぎるとすぐにバレてしまうので気をつけてください。
さて、ここまで相手のハードルを下げる方法をいくつか紹介しましたが、仮にハードルが下がったとしても必ず「YES」と言ってくれる保証はありません。その意味では、過度な期待は強い失望感につながるので、相手にあまり期待しないことも大切です。
「YES」にならなくても、良好な人間関係は仕事上で欠かせないものなので、ぜひ参考にしてみてください。
異なる考えを持つ人、価値観が合わない人、なかなか慣れない人など、自分とは異なる人たちと、うまく付き合う方法を探る全3回の短期集中連載は今回が最終回です。
これまでのアドバイスを通じて感じたのは、自分との違いをひとまず受け入れてみると、多様な考え方があることがわかり、理解しようとすることで、改めて自分を知るよい機会になることです。ぜひ、五百田さんの話を参考にして、今後の人間関係やコミュニケーションに役立ててください。
(香川博人)
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