ヒューストンを離れてロサンゼルスに移り住んだとき、目新しさに感動しました。乾いた爽やかな風、テレビに映る楽しいコメディーショー、おいしい食事。でもしばらくすると新鮮味はなくなり、私はイライラして皮肉ばかり言う、なんとホームシックになっていたのです。
20代後半だった私は、自分がホームシックだと認めるのをちょっと恥ずかしく思いました。サマーキャンプに来ているんじゃないのよ。生活しているんだから!
それに、私はもう大人です。大人はママが恋しくなったり、友達が私がいないところで楽しく過ごしていても、悲しくなったりしないものです。新しい友達を作り、努力して新しい生活を築きます。でも、本当を言うと、30代になった今でさえ、ときどきホームシックになってしまいます。でも大丈夫。私は折り合いの付け方を学びました。
ホームシックとは実はどういうことか
ロサンゼルスに住んで1年ぐらいたった頃、私は沈んだ気持ちでいました。家族がたびたび訪ねてきてくれないことに腹を立てていました。故郷にいる友人のような人は誰もいないと、出会う人たちを品定めしていました。そんな気持ちでしばらく過ごしてから、はっと気づいたのです。私はロサンゼルスが嫌いなわけではない。以前の生活が恋しいだけなんだ、と。
自分がホームシックだと認識したら、すべてが変わりました。なぜなら、自分の感情を周囲の人のせいにする代わりに、本当に悩んでいることに取り組めるようになったからです。臨床心理学者であり教授でもあるJosh Klapow氏は、ホームシックとは「愛情と庇護と安心に対する本能的欲求であり、普通は、家族のいる家と結びついている感情であり資質である」と述べています。
だから、新しい環境でこれらが感じられないと、家族のいる家が恋しくなり始めるのです。理にかなっています。引っ越してきたとき、周りは初めて知り合う人ばかりでした。よく知らない人ばかりの中では、守られているとか愛されているというような安心感を得るのは大変です。たとえ、新しい場所や体験が好きな人でも、なじみがないということは驚くほど落ち着かないものです。
小児科専門誌『Pediatrics』に発表された論文は、ホームシックになるような影響を与える「危険要素」は4つあると指摘しています。
- 経験:今まで家族と離れて暮らしたことがないなら、家族が恋しくなるかもしれません。「なじみがない」という感覚と折り合いをつけていくことに慣れていないからです。
- 態度:ホームシックは時として自分の思い込みが招くものです。新しい状況では居心地が悪いだろうなと考えていると、実際にそうなります。
- 性格:研究者は、初対面の人たちと親しくなるのが得意でない人は、新しい保母さんと過ごしている子どもの「不安定感」に似たようなものをもっているといいます。これに影響を受けるため、新しい生活になじみにくいのです。
- 外的要因:もちろん、ホームシックのレベルはどれだけその引っ越しに乗り気であるかにもよります。引っ越しせざるを得なかったのでしょうか。それとも進んでしたいことだったのでしょうか。そして、ホームシックは、家族がその変化にどのように反応するかにもよります。
何でもそうですが、ホームシックが自分にどのような影響を与えるかを学ぶことは、対処の仕方を見つけるのに、大きな最初のステップとなります。
ホームシックに備えて自分に「予防注射」をする
研究者のChris Thurber氏は、ホームシックを防ぐのに最善の方法は、寂しさに対して抵抗せずやり過ごすことだと言っています。彼はCNNで「それは将来起こりうる、ホームシックの発作に対する予防注射である」と言いました。「それをやり過ごしながら生活していくうちに、折り合いをつけられるようになります」
たとえば、わが子がホームシックになりすぎないようにするにはどうしたら良いかというと、
親にできることが何かあるとしたら、それはチャットであろうとメールであろうと、親元を離れた子どもと数分ごとにコミュニケーションを取らないことだ、と臨床心理学者のJosh Klapow氏は言いました。その代わり、週に1回、具体的な時間を決めて連絡を取るようにしましょう。こうすることで子どもは、周りの人々としっかりした社会的なつながりを作る余裕や時間をもて、ホームシックになりそうな心細さがなくなり、自立できるようになります。
大人もこの助言を取り入れ、家族とのコミュニケーションを制限してみてください。私は引っ越したあと、1日おきに母に電話して、母と話をしない日には故郷の友達に電話していました。そうすることで安心感を得ていたのです。しかし、これは、自分が抱えている問題を長引かせていただけでした。思い出してください。「経験」はホームシックになるような影響を与える、4つの要因の1つです。家族から離れていることに慣れるほど、ホームシックとうまく折り合いがつけられるようになります。ほんの少しの寂しさは、前進するために必要なのです。
過去について文句を言うのをやめる
私はホームシックだったとき、嫌なことはすべて忘れて、昔の生活を理想化するという悪い習慣がありました。「故郷ではみんなもっと親しみやすかったわ」と私は言いました。「あちらでは、道を歩いている知らない人にもあいさつしていたけれど、ロサンゼルスでそれはできないわ」なんて。
それに間違いはありませんが、もちろん、故郷の人たちにも欠点はありました。それなのに私の頭の中では、そこは完璧なところになっていました。新しい場所はその理想に比べて、すてきだとは思えなかったのです。隣の芝生は青いと言いますが、私には、いつでも今いる西海岸より東海岸の芝生の方が青かったのです。
過去を懐かしむのは何も悪くありませんが、「古き良き時代」を恋しがり、そのせいで、現在の幸せをありがたく思わず、新しい体験や出会った人々に心を許さないのは問題です。
とは言え、単純にノスタルジーを否定するよりずっと良い考えがあります。それは、ノスタルジーを利用することです。ノスタルジーは未来を良くするためのアイデアを生み出し、幸福感を高めるということを示す研究があります。
心理学専門誌の『Psychology Today』が指摘するように、問題は、自分のノスタルジーにどのように目を向けるかです。過去のことをくよくよ言っていますか? それとも将来に役立てようと考えていますか?
良い経験を、自分を豊かにしてくれるものとして見ている人は、幸せに過ごしていることが多いです。しかし過去と現在を対立させるように見ることが多い人は、未来にはろくなことが起こらないと思い、あらゆる良い経験を台無しにしてしまいます。
心理学者のFred Bryant氏は、過去と現在を比較して愚痴を言うのを避けるために、過去を現在と結びつけることを推奨しています。たとえば、現在の仕事や家族のことを考えるときは、今を未来として夢見ていた、若かった自分のことを思い出しましょう。きっと、日々の生活の見方が変わります。「昔想像していた未来のことを思い出してみることは、生活のスパイスになります」
要するに、ノスタルジーは毒にも薬にもなるということです。
新しい習慣を作り慣れ親しむ
思い出してください。ホームシックは「愛情、庇護、安心に対する本能的な欲求」であり、家族のいる家と結びついている感情や資質です。新しい家を安心感の得られる場所にするために何かをするのは、何もしないよりはマシです。それは、新しい場所を自分の居場所に変えるということだからです。
新しい人たちと出会い、そこに時間を使うことに加えて、自分だけの新しい習慣を作るのも良い方法です。そして、その習慣は複雑である必要はありません。毎週日曜日の朝に食料品店に行く(人混みを避けたいなら平日の夕方でもいいです)というようなシンプルなもので良いのです。新しい生活の中をしていく上で同じことを繰り返し、それに慣れれば慣れるほど、なじんできて、いつの間にか新しい場所でも安心感を覚えるようになり、ホームシックの感覚は薄れていくでしょう。
もしかして、旅行中で、近いうちに家族や友達のもとに戻る予定ではあるけれど、今はなんとなくホームシックを感じているという人もいるかもしれません。私は数年前、感謝祭の日に独りでヨーロッパにいたときそんなふうに感じました。そこで、レストランに行き、食べたいものを食べながら感謝祭を祝うことに決めました。状況になじむためとは言え、少し体に悪いやり方ではありましたが、おかげでホームシックが和らぎました。興味深いことに、同じことを試みているほかのアメリカ人にも出くわしました。彼らにとってもこのやり方は効果的だったようです。
ホームシックを感じていても、恥じることはありません。それは根本的には、安心感の問題であり、それは子供だろうと大学生だろうと30代以上の大人だろうと、誰もが感じていたいものです。ホームシックについてきちんと理解すれば、適切な折り合いのつけ方を学ぶのに大いに役立つでしょう。
Kristin Wong(原文/訳:春野ユリ)