60万人が結果を出した「ネイティブ思考」英語勉強法』(ダン上野Jr.著、あさ出版)のもとになっているのは、「スーパーエルマーシリーズ」。60万人以上が利用し、TOEIC®リスニング満点や英検1級の人が続出している勉強法だそうです。同シリーズを展開する東京SIM外語研究所所長である著者は、英語学習について次のように主張しています。

英語の習得に必要なのは「時間」ではありません。大切なのは「正しい学習方法で勉強すること」です。(「はじめに」より)

多くの日本人が英語を話せないのは、「間違った勉強方法」が英語の上達を妨げてきたからなのだとか。そして、この場合の「間違った勉強方法」とは、私たちが学校で教わった「返り読み」。「英語の語順」を崩し、日本語の語順に置き換えて理解する読み方のことです。

(1)I(7)saw(6)the painting(2)which she(4)had bought(3)at the auction.

(1)私は(2)彼女が(3)オークションで(4)買った(5)絵を(6)見た。

(11ページより)

このような「返り読み」は日本人にとってわかりやすいものですが、英文を行ったり来たりしながら訳すので、多くの時間がかかってしまいます。そこで重要な意味を持ってくるのが、本書の提唱する「ネイティブ思考法」。英文をセンスグループごとに「私はその絵を見た」→「その絵を買った」→「オークションで」という順序で脳にインプットする方法。こうすれば文頭に戻って訳す必要がないため、読み終わればすべての意味が取れているというわけです。

その基本的な部分を、Chapter 1「『ネイティブ思考法』の基本を知ろう」で確認してみたいと思います。

「ネイティブ思考法」を身につけるための英語学習法

著者によれば、ネイティブ思考法を身につけるための英語勉強法である「SIM方式」の基本的な考え方は次の3つだそうです。

1.「返り読み」をしない

2.英語を「英語の語順」で理解する

3.センスグループ(意味のまとまり)ごとに英文を読む

(26ページより)

たとえば上掲の例文をSIM方式で見てみると、以下のようになるということ。

I saw the painting/私はその絵を見た

which she had bought/それを、彼女は買った

at the auction./オークションで。

(26ページより)

1.まず"I saw the painting"を、意味の取れるまとまりである「センスグループ」に区切り、「私はその絵を見た」と意味を取るのが第一段階。

2.そして、"which she had bought"を「それを、彼女は買った」と捉えるのが次の段階。この場合のポイントは、whichを「それを」と訳すことだといいます。関係代名詞を「関係詞」と考えるのではなく、「代名詞」itと見なして理解するという方法。こうすれば、関係代名詞も「返り読み」する必要がなくなるということです。

3.最後は、"at the auction"と訳せばすべての訳が終了。このような読み方をすれば、「返り読み」は不要。文頭から文末までを一直線で理解することができ、読み終わったときには全体の内容を把握できているわけです。

「返り読み」をせず、「英語の語順」に従い、適宣センスグループ(意味のまとまり)で理解する。これさえできれば、英語ベタな日本人でも英語をスムーズに理解できると著者は断言しています。(26ページより)

短い文章であっても「英語の語順」でとらえる

一般に、短い文章になるほど「返り読み」をしがちになるのだとか。とはいえ、たとえ短い文章であったとしても「英語の語順」に忠実に理解することが上達の秘訣なのだそうです。

Water is essential to life.(34ページより)

たとえばこの文も、"Water is essential"(水は不可欠です)と、"to life"(生物に)とに分けて理解することが大切。日本語の思考法に基づいて「返り読み」をし、「水は生物に不可欠です」と考えてはいけないのだといいます。まず「水は不可欠です」と結論を理解し、次に、水が「なにに」不可欠なのかという付帯状況を副詞句で説明するということ。次の例文も、考え方は同様。

He is very busy writing an essay. (34ページより)

まず"He is very busy"(彼はとても忙しい)と理解し、次に"writing an essay"(論文を書くのに)と捉える。結論は「彼は忙しい」であり、「なぜそんなに忙しいのか」という付帯状況を、次に続く副詞句で説明しているということです。

writing「書くのに」といっておいて、さらにan essay「論文を」と付帯状況の説明を続ける。これが英語特有の文章構造。つまりこのようにどんなに短い文章でも、「英語の語順」で理解するクセをつける。その繰り返しによって、著者のいう「ネイティブ思考法」が養われていくというわけです。

英語とは、まず「結論」があって、その結論についての「付帯状況」を連ねることによって説明をし、ふくらませていく言語。カッチリとしたかたちを持つ英語を理解していくためには、1.「英語の語順」を崩すことなく、2.センスグループごとに区切り、3.意味を理解していく「SIM方式」が、「ネイティブ思考法」の習得に大きな力を発揮するということです。(34ページより)

長文こそ「英語の語順」で読む方が効果的

ここまでは短い文章でしたが、では長文の場合はどうでしょう? 意外なことに、長いセンテンスになればなるほど構造が複雑になるので、「英語の語順」で読む方が効果的なのだそうです。逆にいえば、「返り読み」で行ったり来たりしながら翻訳する作業は、文章の長さに比例して大変な作業になるということ。

Pipeline was built in the early 1970's, over the objections of environmentalists who worried it would destroy fragile tundra.

(パイプラインは、それ(パイプライン)が傷つきやすいツンドラを破壊するのを恐れた環境保護活動家たちの反対を押し切って、1970年代初頭に敷設されました)

(37ページより)

このように、長文を翻訳するためにはロスの多い「返り読み」が必須。しかし、そのわりに理解しづらいものとなります。しかし「SIM方式」で読んでみた場合は、センスグループごとに英文を訳すため、文章が終われば理解も終わることに。

Pipeline was built in the early 1970's...

パイプラインは敷設されました、1970年代初頭に

over the objections of environmentalists...

環境保護活動家たちの反対を押し切って

who worried it would destroy fragile tundra.

彼らは、それ(パイプライン)が傷つきやすいツンドラを破壊するのを恐れたのです。

(38ページより)

3つのセンスグループの意味がわかれば、全体の意味は明確に理解できるはず。翻訳しなければならない場合はともかく、単にコミュニケーションをはかるだけなら、これ以上こなれた日本語にする必要はないと著者はいい切ります。そして、これが「SIM方式」だということ。(37ページより)


なお本書には「リスニング力」「スピーキング力」を養うことのできるトレーニングCDもついています。平易な解説とCDによって、多角的に英語力を身につけることができるということ。短期間で相応のスキルを身につけたい人には、格好の一冊だといえそうです。

(印南敦史)