以前に「浜松で、好きなことを仕事にする人々」という記事を書いたのですが、これからの日本は、東京一極化が続くのではなく、それぞれの都市が個性を発揮していくのだと感じています。大阪にある電通関西支社で働く日下慶太さんが中心となって、"アートと表現"をテーマにシャッター商店街を活性化させている活動「セルフ祭」も、これからの日本を考えるうえで勉強になりそうです。

若い世代が街づくりに参加する際に大切なのは、そこに住む人々と対話をすること。「セルフ祭」では「自分を表現する」というテーマで展示をするとともに、広告クリエイターたちがボランティアで商店街のポスター制作を行いました。

「お客さんは神様やって言うけど、うちの常連さんは半分ぐらい仏様になってもうたなあ/生田綿店」「おっ茶ん。/お茶の大北軒」などのコピーとともに、商店街の店主たちを紹介したポスターは、実際に商店街の人々を取材しながら作られたそうです。そして、生田綿店のポスターは、東京コピーライターズクラブ新人賞や福岡コピーライターズクラブ審査員特別賞「中畑貴志賞」を受賞しました。

このように、今では商店街の人々に受け入れられ、話題にもなっている「セルフ祭」ですが、1回目の開催では多くの反省点もあったそうです。そこで、ライフハッカー[日本版]では、どのように「セルフ祭」が成長していったのか、日下さんご自身に寄稿してもらうことにしました。では、バトンを日下さんにお渡しします。

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セルフ祭のメインスタッフ。アホなことを楽しめる人たちが集まっている。

大阪「新世界市場」で始まった「セルフ祭」とは何なのか? 

どうも。セルフ祭顧問ケイタタこと日下慶太です。セルフ祭とは、いったい何なのでしょうか? セルフ「さい」とは言わずにセルフ「まつり」と呼ぶこと以外、主催者の本人もよくわかっていません。奇祭、祭りのカタチをとったアートイベント、人々のうねり...。どうも一言では言い表しにくいのです。というわけで、とりあえず説明してみたいと思います。

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セルフ祭の発案者、異空間演出家コタケマン。

そもそものはじまりは異空間演出家コタケマンという男が「新世界市場」というシャッター商店街で「セルフ祭」を開催したことでした。彼はその場所を自身の作品とさまざまなアーティストで埋め尽くそうと、片っ端から声をかけました。まずは写真をご覧下さい。

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左上)第1回目の展示では、コタケマンの奇妙な作品が商店街にぶら下がった。右上)権田直博の作品「風呂ンティア」。裸のおっさんはただの通りがかり。

左下)飛び込み参加のホームレス詩人。自作CDを手際よく売ってすぐに帰っていった。右下)ぼくも「寝てる人100人」の写真を展示しました。

新世界市場は異様な熱気に包まれました。たくさんのお客さんが訪れ、イベントは成功だったと言えるでしょう。しかし、イベント終了後の商店街はもとの寂しい商店街に戻ってしまいました。若いアーティストと商店街の人々の交流もほとんどなく、ましてや信頼関係などもなく、若者が騒いだだけ、という結果です。

商店街のためにできること。それがポスター展だった。

しかし2カ月後には、第2回のセルフ祭が予定されていました。このままではいけないと、中心メンバーたちは軌道修正に取りかかります。震災後に気仙沼からやってきた「ハルキ」、東京からやってきた「池田社長」、北海道からやってきた「はん」の3人は、風呂なしで2万8000円という格安の条件で、商店街の空き店舗に移り住みました。メンバーたちは日々、あいさつ、掃除、配達などをして商店街に溶け込んでいきました。主催者の1人として手伝ってくれと誘われたぼくが、できることは何かと考えて企画したのが「商店街ポスター展」です。

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左)フンドシ屋「なにわ小町」のポスター。右)ビューティーショップ「ドリアン」のポスター。

「商店街ポスター展」は、自身が所属する電通関西支社の若手たちが商店街の各店舗のポスターをボランティアで制作するというものです。32名が、もう好き勝手に作りました。そして、第2回セルフ祭が始まります。店のポスターという商業アートと現代アートが渾然一体となった様は、どこでも見たものがないものでした。

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左)西村武美の傘とブランコの作品、その名も「カサブランコ」。右上)子供たちも楽しんで自分を表現。

右下)お店のポスターがアートとともにぶら下がる商店街の風景。

店の人と一緒になって商品を販売したり、店のものをパフォーマンスしながら売りさばいたりと、それぞれの表現が「お店のため」というベクトルに向いた第2回セルフ祭は大盛況でした。店と私たちの信頼感は深まりました。

その後も、何度かセルフ祭は行われました。新世界市場で3回、他の場所で2回。ぼくは「イスラム原理主義者タリバーン」の格好をして職務質問を受けたり、「いいにおいのするホームレス」というテーマで、ホームレスの格好をしながらシャネルの香水をたっぷりつけたり、インドのサドゥーになったり、宇宙人(遮光器土偶)になったりと、ことあるごとに違う仮装をしています。

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左)「イスラム原理主義者タリバーン」の格好や、「宇宙人(遮光器土偶)」の仮装をしたときの写真。

表現欲、参加性、祝祭性が、セルフ祭の基盤となっている。

今年のセルフ祭は9月13日~15日の3日間行われました。3年もやっていると名も知れたようで、熊本、博多、広島、長野、東京と日本全国から変わり者がやってきました。さらに新世界市場はちょうど100周年。ふんどしテープカットで幕を開け、相撲をとり、素人だらけのフリースタイルラップバトルを行い、UFOを呼び、宇宙人(役)がやってきて幕を閉じました。自分で書いていても全くわけがわかりません。

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左上)2014年「セルフ祭」のスタッフ記念写真。左下)幕開けとなった、ふんどしのテープカット。

右上)素人だらけのフリースタイルラップバトル。右下)UFOが到着した瞬間

さあ、そろそろ記事をまとめていきましょう。セルフ祭の要点は3つあります。

セルフ祭のポイント1:「表現欲」を大切にする。

表現の完成度よりも、表現者の表現したい気持ちを大切にしました。イベントをこなしてかかるプロのアーティストよりも、素人の表現したい力のほうが強ければそちらを大切にします。表現するのが初めてであればなおのことおもしろい。ポール・マッカートニーの16枚目のアルバムよりも、無名のアーティストのファーストアルバムの方がおもしろい。そう、セルフ祭には「ファーストアルバムの衝撃」がたくさん集まっているのです。下の写真は80歳をこえたおばあちゃん、趣味で作っていた布草履のはじめての出店でした。

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セルフ祭のポイント2:「参加性」のあるイベントにする。

とにもかくにも参加してもらうことが大事だと思っています。参加するのと、ただ見ているのでは楽しさがはるかに違います。はじめて表現する人には勇気づけ、手助けをする。恥ずかしがっている人には、手を差し伸べて一緒に踊る。一線をこえるのをためらっている人には、背中をそっと押す。より自我を脱ぎ捨てられるようにと仮装用の衣装とドーランを常備しています。

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セルフ祭のポイント3:日本の伝統マインド「祝祭性」を基礎とする。

セルフ祭には洗練されたアートやデザインが失いつつある「プリミティブな力」があります。「祭り」はそもそも人間の根源的な力を解放するもの。だからぼくらは「祭り」にこだわっているのです。「人間の祝祭の力」を1つの表現物にしたものが岡本太郎の「太陽の塔」です。セルフ祭の造形物にもそんなノリがあります。同じ大阪だからか、ああいったノリがどこか体に染み込んでいるのかもしれません。

3カ月の赤子から83歳のおばあちゃんまで。フリーターから医者まで。釜が崎のホームレスからハリウッド男優まで。アマチュア画家からプロの絵描きまで。だんじりヤンキーから渋谷系のミュージシャンまで。台湾人からガーナ人まで。さまざまな人が参加し、そこでつながった人たちがまた別のイベントをしたりと、セルフ祭は大阪の1つのうねりとなっています。

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セルフ祭とポスター展の大きなエネルギーが、シャッターを5つ開けました。デンマーク人の包丁屋、女装スナックのママの雑貨店など奇妙な店が増えつつある。とくに「ピカスペース」というセルフ祭の仲間たちで切り盛りしている飲み屋は、セルフ祭でつながった子ども、女子高生、おばあちゃん、ヤンキー、ハリウッド男優、外国人旅行客、仕事帰りのサラリーマンなどさまざまな人が訪れて、奇跡が起こり、また人と人がつながって、また奇跡が起こります。

大阪に来たらぜひ一度、新世界市場に遊びにきてください。ピカスペースに飲みにきてください。セルフ祭に来てください。できれば出演者として参加してください。セルフ祭のキャッチフレーズは「己を祭れ」。そう、神様はあなたなのです。

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日下慶太 Kusaka Keita

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1976年大阪生まれ。チベット、カシミール、アフガニスタンなど世界中を旅した後に電通に入社。コピーライターとして勤務する傍ら、写真家、セルフ祭顧問として活動している。現在、都築響一氏編集「ROADSIDERS' weekly」で「隙ある風景 ROADSIDERS' remix」を連載中。「文の里商店街ポスター展」を仕掛け、佐治敬三賞、カンヌライオンズ デザイン部門ファイナリスト、広告電通賞優秀賞、「広告業界の若手が選ぶコミュニケーション大賞」優秀賞、その他、TCC最高新人賞、ゆきのまち幻想文学賞などを受賞。

(写真:BANRI、白石卓也、新城重登、小嶋麻衣子、日下慶太 文:日下慶太 編集:松尾仁)