スマホで長い記事を読むのはひと苦労ですよね。『Circa』は、そんな問題を解決するアプリです。ニュースのストーリーをシンプルに提示するため、複雑なコンセプトから本質を抜き出してわかりやすいカード表示にしてくれます。2013年には、AppleとGoogleの両社からベストアプリに選ばれました。
有名アプリの誕生にまつわる逸話を紹介する「Behind the App」シリーズ、今回はCircaの共同創設者であるマット・ガリガン(Matt Galigan)CEOに、アプリの開発秘話と今後の展望を聴きました。
── Circaのアイデアは何がきっかけで生まれたのでしょうか。あなた自身が直面していた問題の解決策としてなのか、それとも別のきっかけがあったのですか?
ガリガン:これまで複数の会社を立ち上げてきましたが、そのどれもが、当時私が抱えていた特定の問題を解決するために作った会社です。Circaの場合、巷にこれだけ情報が氾濫しているのに、自分の中に入ってくる情報はなんて少ないんだろうと、ある日とつぜん実感して。問題の核心は、スマホへの依存と、自分に提示されるニュースの幅広さと長さからくる疲労にあることを確信したんです。当時、ほとんどのことは根本的な消費方法が変わっていたのに、コンテンツだけは変わってませんでした。つまり、ニュースは根本的なレベルでの変化が必要なんだ。そう実感したとき、Circaのアイデアが生まれました。コンテンツ、表示方法、配信方法などを、もっとスマホを中心としたライフスタイルに合わせる必要があると思ったんです。── アイデアを思いついた後、次にした行動は何ですか?
ガリガン:行動を伴わないアイデアに意味はありません。根本的な問題を特定したら、次は答えになりそうなものを見つけなければいけません。それができたら、次は解決策の開発です。Circaの場合、それはデザインモックアップの開発でした。それが、リアルでのデモにつながっていたったのです。── スマホを中心としたライフスタイルにアプローチするために、最初はどんなアイデアを思いつきましたか?
ガリガン:最初のアイデアとしては、とにかくシンプルに、モバイル環境で最新ニュースを逃さないための機能を作り上げることに努めました。最初のモックアップでは、ストーリーごとに複数の見出しが付いたスムーススクロールのページを1つ用意しました。しかし、長い記事を読んでいるのと感覚が変わらなかったため、最終的にこのアイデアはボツになりました。単に短いだけで、真の違いは何も感じられなかったのです。この経験がきっかけとなって、ニュースを消費するための新しい方法を思いつきました。それが、「フラッシュカード」というコンセプトだったのです。新しいユーザーコメント機能も試作しました。ニュースの原子ひとつひとつにまでコメントを付けられるようにしたかったのです。非常にクレバーなインターフェースで、最適なタイミングが来るまでは、コメントではなくコンテンツに注目が集まるようになっていました。しかし、これを作ったあとで、あまりにも新コンセプトが多すぎることに気づいたんです。そのため、このアイデアもローンチ前にボツになりました。便利だけれど、混乱を招くのではないかというのがその理由でした。
1つのストーリー内で複数のニュースポイントを並べ替える機能も検討しました。Circaでは、「重要度」順にポイントを並べ替えているので、重要なものは上位に、そうでないものは下位に表示されるのですが、別の方法として、ポイントが追加されたタイムライン順に並べ替える方法もオプションとして考えていたのです。結局シンプルさを重視してこの機能も削りましたが、いずれはこの機能に見合った注目を得られる方法で、戻したいと思っています。
── ターゲットとするプラットフォームはどのように決定しましたか?
ガリガン:まずはiOS、具体的にはiPhoneをターゲットにしました。理由は単純で、私、リードエンジニア、デザイナーの3人が皆iPhoneをメインで使用していたからです。Circaの開発においては、ウェブも後回しにすることにしました。解決すべき課題はあくまでもモバイル環境だったので、すべてのプラットフォームに同時に対応する必要はないと考えたからです。── もっとも大変だった点は? それをどのようにして乗り越えましたか?
ガリガン:Circaが作るニュースは、それまでのニュースとは根本的に違うものだったので、今までに誰も解決したことのない問題に立ち向かわなければならないのが何よりも大変でした。多くの場合、他のアプリや他業界などからヒントを得られることがほとんど。世に出されるものは、たいてい何かの派生品なんです。でも、本当に新しい方法で問題を解決しなければならないときには、自分で道を切り開いていかなければなりません。私たちが直面した最大の難問は、新しいニュースフォーマットの表示方法でした。そんなとき、リアルなものからひらめいたんです。それがフラッシュカードでした。子どものころ、フラッシュカードを使って勉強するのが好きでした。そんな経緯から、私たちのインターフェースを実現する方法として、1本のニュースストーリーに複数のフラッシュカードを蓄積することで落ち着いたのです。あれから表示方法を進化させてきましたが、基本的なアイデアは変わっていません。── Circaが従来型ニュースサイトと「根本的に異なる」ニュースを生み出せる理由は何ですか?
ガリガン:Circaが他と根本的に異なる点は、ライターが実際にニュースを書く際の方法です。それこそが私たちの編集作業の一環であり、編集者をサポートするためのツールなのです。Circaのライターは、1つの大きなテキストボックスにニュースを入力するのではなく、小さなテキストボックスに少量の情報を入力して、それらを紡いでストーリーを作ります。こうすることで、情報を入れ替たり、重要でないポイントを「リタイア」させることも容易にできるようになります。さらに、ポイントの「クローン」も可能なので、例えば引用として、他のストーリーのしかるべき場所にポイントを複製することもできます。
このような機能のおかげで、絶えず古いストーリーに新しいポイントを追加することができるので、ストーリーを常に最新の状態に保てます。これは、ストーリーを進める主な手段が新しい記事を書き起こすというやり方しかなかった従来のニュース執筆プロセスとはまったく異なります。
執筆はすべて人の手によりますが、ライターをサポートするツールとマシンが、よりよい記事の執筆を手助けしています。
── ローンチした時はどのような感じでしたか?
ガリガン:ローンチにはいつだって、想像を絶する忙しさが伴います。Circaの場合、まだ小さな開発グループ以外の人に見せたことがなかったので、人々の反応が非常に怖かったのを覚えています。でも、驚くほど多くの人が気に入ってくれました。おかげでローンチの日は、サーバーが落ちないようにするという大きなトラブルに見舞われたほどでした。その後も、新バージョンのローンチのたびに、貴重な経験をさせてもらっています。── ユーザーの要求や批判にはどのように対応していますか?
ガリガン:フィードバックには、すべて耳を傾けています。いただくフィードバックのほとんどが、私たち自身もアプリに足りないと実感している機能に関するものです。それらに対して、追求をやめることもあれば、単純に開発のタイムラインにおける優先順位を変えるだけで済むこともあります。いずれにしても、フィードバックには、私たちが考えたこともないようなアイデアが詰まっています。それがきっかけで新しいアイデアが生まれ、アプリに組み込まれることもあるのです。批判も大事です。たとえまったく賛同できない批判であっても、多くの場合、何らかの根拠があるものです。── 現在は「新機能」と「既存機能」の開発に割く時間の比率はどれくらいですか?
ガリガン:それは、私たちが前進する勢いそのものです。経験において大きくステップアップするには、すべてが新機能である必要はありません。改訂版の開発と既存機能の改善にも多くの時間を割いています。現在は、既存機能70%、新機能30%といったところでしょうか。── 同じような試みをしようとしている人に、どのようなアドバイスを送りますか?
ガリガン:基本的に、価値あるモノを作るには、必ず強い痛みを伴うものだと考えています。素晴らしい製品の多くが、問題への解決策として作られています。Uberは、サンフランシスコで信頼できる交通手段を見つけるのが難しかったからできた。Squareは、中小企業にとってカード決済を導入することがまったく楽な仕事でなかったから作られた。新しいアイデアはいつも、次のシンプルな問いかけによってその価値を知ることができます。「自分が解決しようとしている問題は何で、その問題に対するベストアンサーは何なのか?」
Andy Orin(原文/訳:堀込泰三)