99U:ニューヨークに拠点を置く、とあるテクノロジースタートアップのメンバー7名が定例会議に集まっていたときのこと。その前週に、メールマーケティングのチームとデザインチームとのあいだに生じたミスコミュニケーションが原因で、達成を目指していたサービスが実現に至っていませんでした。

編注:この記事は、アメリカ海軍の原子力潜水艦の元艦長で、リーダーシップに関する著作もあるDAVID MARQUET氏が執筆したものです。

デザインチームのメンバーの一人が言いました。「メールマーケティングのチームは、私たちとは異なる課題に取り組んでいたのです。彼らはできる限り多くのメールを得ようとがんばっていました。それらをカスタマイズするのに、さらに多くの作業が生じていました」。

「デザインのチームは、プロセスに参加できていませんでした」他のメンバーもコメントしました。「彼らは、週の半ばにページを変更することができませんでした。仕事量が多すぎて...」デザインのチームは、オフィスフロアの端にあるスペースに集まって仕事をし、メールマーケティングのチームは、別のフロアで仕事をしていました。

私はこうした会話を聞きながら、会話の中で使われる言葉から問題の本質を探ることが大好きです。今回のケースでは、会社の中で同じチームとして仕事をしているグループを、互いに「彼ら」と呼び、お互いが一つのチームであるとみなしていないことが明らかでした。あくまでも、彼らは彼らであり、我々は我々であるという態度です。マーケティングとデザインのグループの間には「我々」と「彼ら」の境界線が引かれていました。

「我々」から「彼ら」への変化は、協力をする関係から競争をする関係への変化を意味します。経営幹部が会社全体を「ひとつのチーム」であると掲げていても、現場で使われる言葉から伺える実態はそれとは異なるものでした。

言葉の重要性

1974年、エリザベス・ロフタス博士は実験を行いました。その実験は、被験者にある自動車事故を映した短いビデオを観てもらい、あとで観た内容を思い出してもらうというものでした。調査では、あるグループは「その(the)」破壊されたヘッドライトを見たかを問われ、もう片方のグループは「ある(a)」破壊されたヘッドライトを見たかを問われました。「その」ヘッドライトを見たかと問われた人は、「ある」ヘッドライトを見たかと問われた人よりも、2、3倍高い確率で、破壊されたヘッドライトを見たと回答しました。ですが、実際には破壊されたヘッドライトはひとつも映像に出てきていなかったのです。

一方で、「ある」ヘッドライトを見たかと問われた人は、「その」ヘッドライトを見たか問われた人よりも、2、3倍高い確率で「分からない」と答える結果となりました。つまり、「その(the)」か「ある(a)」の言葉の違いが、見る人の記憶に大きな影響を与えていたのです

見て、解釈して、行動する

人間は、視覚で認知したものを解釈する力に驚くほど優れています。その解釈に基づいて、何をすべきかを決断します。この能力は、進化の上で利点となります。個々人のレベルでは非常に大きな力を発揮し、種の生き残りに貢献します。

ですが、集団でコミュニケーションをとる際には、この能力は逆に障壁となります。人によって解釈が異なることに興味を示すことなく、議論をするからです。さらに最悪なのは、各自が異なることを考えているにも関わらず、皆が同じ考えを抱いていると考えてしまうことです。

その際、リーダーがなすべきことはまず、メンバー各自がどのような現状認識をしているのかを視覚化することです。そして、それぞれの考えを平等に価値があるものとしてみなすことです。Garold Strasser氏とWilliam Titus氏の研究によると、チーム内のメンバーは、他のメンバーが既に知っている情報を進んで共有し、自分だけがもっている情報を提供するのにためらう傾向にあるそうです。とりわけ、自分のもっている情報が全体で共有されている考え方と一致しない場合は、特にこの傾向が強まります。チーム内でその情報を知っているメンバーの数が多いほど、その情報に価値が置かれる傾向にあります。その情報の重要性、精度、正確さといった尺度よりも。

アメリカ海軍の原子力潜水艦サンタフェで艦長を務めていたころ、私たちが継続的に決定しなければならなかった事項のひとつが、潜水艦を停める場所でした。乗組員のメンバーはそれぞれ、異なる意見をもっていました。ソナー担当官は、海底の地形や音の探知に最高の場所について情報をもっていました。情報担当官は、敵の動きに関する最新のレポートに精通していました。各メンバーがもっている情報には一貫性がなかったため、すべての情報を掌握することがもっとも難しい点でした。ですが、一度、全情報を把握できれば、容易に決断を下すことができました。

裁量権のレベルを上げていく

リーダーシップに関して私たちが実施したことのひとつが、裁量権をできるだけ低いレベルの段階にも与えるというものです。潜水艦の操縦とその乗組員の配置に関する決定権です。以前は、担当官は潜水するといった操作を実行する際には、「許可を確認」していました。ルールで、艦長はそうした操作を承認しなければならないと決められていたのです。艦長は「船を潜水せよ」と言い、担当官は「船を潜水します」と指示を繰り返していました。

その流れを変えました。担当官は艦長から許可を得るかわりに「...をします」と言うようにしました。この効果はすぐに表れ、また絶大なものでした。今では、担当官は「艦長、船を潜水します」と言い、私は「よし」と返します。

やり方を変えた当初は、私は担当官に多くの質問をしていました。安全状態は大丈夫か、条件は整っているか、チームの準備体制は万全か、その操作は適切なのかといった点について。時間が経つにつれて、質問する内容は少なくなってきました。担当官が実行に移す意志を示す際に、必要な情報を与えるようになったからです。

こうした効果がすぐに、目に見える形で現れたのは、使用する言葉を少しだけ変えたからです。ほんの少し、使う言葉を変えただけで、担当官は潜水艦の操作においてリーダーとして積極的に実行するようになったのです。そして、担当官たちはそれを喜んで受け止めました。

「許可を得る」状態から「自ら...をする」状態に部下を動かすことで、裁量権のレベルを上げ、受動的に言われたことを実行する存在から、自ら進んで意思決定をするリーダーへと変えることができるのです。

「何をすべきか、教えてください」

普段の会話の中で「何をすべきか、教えてください」という台詞をよく耳にするかもしれません。多くの場合、「何をすべきか、教えてください」という言葉そのものは使われません。たとえば、解決策を提案せずに、上司に問題を報告することは、裏を返せば「何をすべきか、教えてください」という台詞と同じ意味です。

ほんの少し意識するだけで、相手の裁量権のレベルを理解して、そのレベルを引き上げることが可能です。部下に対して裁量権と自主性を与えることで、彼らはより積極的にチームに参加し、仕事に対する情熱も増すでしょう。

それには大変さも伴います。仕事のプレッシャーが大きいときには、部下の裁量権を低くしたくなるものです。ですが、もし次回部下の一人から何をすべきかと聞かれたときには、時間をとって、何をすべきだと思うのか本人に聞いてみてください。自分の発言は控えて、耳を傾けるのです。

時間が経つにつれ、こうした変化が徐々に、組織全体の生産性、またそこで働く人々の人生に大きな影響を与えるようになるでしょう。

Why Motivating Others Starts with Using the Right Language|99U

David Marquet(訳:佐藤ゆき)

Photo by Shutterstock.
Advertisement