Inc:私たちの「自己を計測する」ことへの情熱は、とどまるところを知りません。「Fitbit」や「FuelBand」などのガジェットは、毎日の活動や睡眠を追跡してくれます。今や、カロリー計算のみならず、感情の状態や、瞑想した時間、慢性疾患の進行状況までも追跡するモバイルアプリがあります。ダイエットの進み具合をBluetooth経由でスマートフォンに知らせてくれる体重計もあります(いずれは、スマホから冷蔵庫にレポートが送られるでしょう)。

「自己定量化」のムーブメントは数十億ドルの産業に育ちました。一方、「職場の定量化」はまだまだ遅れています。もちろん、すでに実績をあげている企業もあります。コールセンターは90年代から計測ツールを導入し、データ分析により生産性を大きく改善してきました。貨物運送のUPS社は、運送ルートを「右回りに限定」することでルートの最適化を行い、燃料費を年間で100万ガロンも削減しました。

こうした成功事例がある一方で、気分が悪くなる事例もあります。ヨーロッパのスーパーマーケットチェーンTesco社は、従業員に電子機器のついたアームバンドを着用させました。従業員たちが倉庫を歩きまわる速度を調べるためです。従業員たちは、トイレに行く回数まで監視されていると不満を漏らしています。さらには、食事や運動、睡眠習慣など、仕事以外の活動まで監視する企業もあります。米国政府は、500万人以上の連邦職員の仕事及び個人的活動を監視するシステムを構築し、セキュリティ上のリスクになりそうな人物を割り出そうとしています。

こうした話を聞くと、「雇用主は被雇用者をどの程度まで監視していいのだろうか?」という疑問が湧いてきます。カリフォルニア州は、企業が社員にマイクロチップを埋め込むことを違法とする法律を可決しました。いくつかの企業が社員証のかわりにチップを埋め込むことを検討し始めたのを受けての措置です。

生産性低下の問題

極端な話は別としても、雇用主は社員の監視を真剣に検討しなければなりません。生産性の低下は職場においては大きな問題です。2013年のギャラップ社の調査によると、米国労働者の70%が、「ディスエンゲージ(嫌々仕事している)」もしくは「積極的にディスエンゲージ(同僚の足を引っ張ったり、プロジェクトを妨害する)」の状態なのだそうです。私の会社「Enkata」の調査でも、少数の「積極的にディスエンゲージ」である社員が、全体の生産性を著しく低下させていることがわかりました。

ディスエンゲージな社員がいると、事態は悪化の一途をたどります。オフィスは乱雑になり、勤務時間にスマホをチェックしたり、オンラインで猫の動画を見る人が増えます。在宅勤務者はデスクに座らなくなり、仕事にまったく集中できない者も出てきます。YahooのCEO、マリッサ・メイヤーは、在宅勤務の禁止を発表するとき、VPNのアクセスログを例にあげ、在宅勤務者の多くがほとんどログインすらしていないのを示しました。続いて、Best Buy社やHewlett Packard社も、Yahooと同じく在宅勤務制度を撤廃しました。

定量化を効果的なものにするために

自己定量化のムーブメントは人々にポジティブな変化をもたらしました。職場の定量化もポジティブなものにできるはずです。誰だって「ビッグブラザー」の元で働きたいとは思いません。どんなマネージャ-だって独裁者にはなりたくはないでしょう。雇用主は、うまくバランスをとって効果的に監視する方法を見つけ出さねばなりません。監視をすることで企業文化を壊してしまったり、優秀な社員を辞めさせてしまうようではいけません。

効果的に監視するための4原則

第一に、監視ツールは取り締まりのためではなく、改善のために使われるべきである。威圧的な親ではなく、パーソナル・トレーナーをイメージしてください。いくつかの企業は、スパイウェアさながらに、社員のPCで起きていることを秘密裏にすべて記録する製品を売っています。しかし、そんな方法で社員の仕事の質が向上するでしょうか? その企業が社員を信頼していないことを暴露するだけです。

第二に、社員を参加させるべきである。社員たちは、企業がどんな情報を、いつ、何のために集めているかを知らされるべきです。社員もマネージャーと同じ情報にアクセスできるべきであり、またその情報を企業がどのように使うのか知らされるべきです。監視ツールが自分たちの役に立つのがわかれば、社員たちも協力的になるはずです。

第三に、「細かいことは言われない」のを明確にし、社員たちに知らせるべきである。どんなハードワーカーでも、たまにはFacebookをチェックします。個人の生産性には波があり、誰にでも仕事に集中できない日があるもの。生産性の改善は、問題となるパターンや行動を明らかにし、それを変えようとすることから来るのであり、ルールからはずれたら直ちにアラームが鳴るようなことから来るのではありません。

第四に、企業は社員たちを助けるために、集めた情報をきちんと活用すべきである。マネージャが忙しいという理由で、有益な情報が放置されてはいけません。何カ月も情報を収集したあげく、社員がそれを目にするのはマイナス査定の時だとしたら最悪です。

コンピューターとテクノロジーが普及するにつれ、人々は「侵入される感じ」を持つようになっています。とはいえ、コンピューターとテクノロジーが職場にかつてない自由をもたらしたのも事実。社員たちは外の世界とつながり、仕事と私生活をブレンドしたり、同僚やマネージャーがいない場所でも仕事ができるようになりました。マネージャーたちが社員を最大限にサポートできるように、社員の側にもマネージャーへの監視権限とツールを与える必要があるのです。

How to Track Your Employees' Productivity Without Becoming Big Brother|Inc.

Daniel Enthoven(訳:伊藤貴之)