はじめまして。KitchHike共同創業者の山本雅也と申します。2013年11月9日・10日にかけてシンガポールにて開催された「The Chaos Asia 2013」というピッチイベントで、88組のプレゼンターの中からKitchHikeがグランプリを獲得しました。"ピッチ"とは、短時間で行うプレゼンテーションのことです。
それを受け、この度、ライフハッカーさんで「スタートアップにおけるシンガポールの今、そしてKitchHikeがピッチで優勝するためにした3つの仕掛け」というテーマで、実際にシンガポールで体験した出来事を紹介させていただくことになりました。
僕らのウェブサービス「KitchHike」について
まず、そもそもKitchHikeって何?という方に向けて、簡単に説明させていただきます。「KitchHike」は、世界中の食卓で料理を作る人と食べる人をマッチングさせる日本発のオンラインプラットフォームです。世界中から旅人を自宅に招いて料理をふるまってみたい人を「COOK」、異国の食卓で食文化を味わって現地の生活を垣間見てみたい人を「HIKER」と呼び、彼らををつなげます。
食卓では、コミュニケーションが円滑になり、文化の異なる人との交流をより楽しむことができます。出会いが更に"おいしく"なる、というワケです。5年間勤めた会社を辞めて創業に至ったKitchHikeメンバーの想いは、以前にライフハッカーさんが取材してくれました。
それでは以下、本題。スタートアップにおけるシンガポールの現状からお伝えします。
シンガポールはアジアで事業を興すには最適な場所
「今、シンガポールがアツい!」とする記事や話の数々を目にしない、聞かない日はありません。マリーナ・ベイサンズの「ええ、そうです。バブルです」と言わんばかりの佇まいから、どうやらシンガポールが盛り上がっているらしい、という雰囲気を感じ取ることができます。
シンガポールは、アジアで事業を興すには最適な場所のように思えます。理由としては、都市の規模、法人税率17%、アジア各国へのアクセスが容易、英語圏で優秀な人材が集まる、(業種によりますが)テストマーケティングに適しているなどが挙げられます。他にもインキュベーション施設やシェアオフィスも多く、アジア中から「0を1にしようとする人」が多く集まってくるようです。例を挙げると、以下のようなシンガポール発のサービスが盛り上がっています。
Carousell:モバイルから簡単に売り買いできるフリマアプリ
Burpple:「食の日記帳」をシェアできるアプリ
Dropmysite:ウェブサイトやデータベース、メールのバックアップをクラウドで提供するサービス
シンガポールのイベント参戦を決めた3つの理由
しかしながら、シンガポールは何やら良い話ばかり聞くけど、実際のところどうなの?というのも本音です。やはり現地に赴いて、鼻でたっぷり空気を吸って、海南チキンライスをほおばって、ざわついているコミュニティに首を突っ込んでみないことには、自分たちにとって良い場所なのかどうかわかりません。オンライン上の情報だけでわかった気になるのはもうやめよう、実際に足を運んで五感で判断しよう、想像を超えた出来事に出会おう、そう考えました。「異国の食文化を味わって現地の生活を垣間見る」というKitchHikeのコンセプトを地で行くアクションだったと思います。
加えて、KitchHikeがイベントへの参戦を決めた具体的な理由は下記の3つです。
1.アジアの情報拠点・シンガポールでグローバルサービスとしての認知を獲得する
KitchHikeは、2013年5月にβ版をリリースしました。世界的な認知はまだまだこれからです。もちろん、日本国内のユーザー同士での利用もwelcomeですが、やはりKitchHikeの醍醐味は文化背景の違う人と、各家庭で一緒にゴハンを食べるところにあります。そのためには、まず日本国内でプロダクトのサイクルを完成させて海外へ展開!ではなく、初期から並行して海外での認知を得ていく必要がありました。
結果的に、グランプリ受賞をきっかけにして現地のメディアでも取り上げてもらうことができ、シンガポールからのアクセスも増えてきています。プレゼン日程に合わせて、モバイルサイトのリリースをしたことも上手く功を奏したようです。これを機に、日本の食卓で家庭料理が食べられるなんて面白そうじゃないか! わたしも旅行者を招いて料理をふるまってみよう! と思ってくれる人が増えることを願っています。
2.現地で挑戦中のチームや企業、投資家、インキュベーションとネットワークをつくる
滞在中、現地で活動する多くの情熱的な人に出会えました。個人的には、Airbnbのシンガポールオフィスに訪問できたことが、非常にモチベーションアップにつながっています。オフィスに置かれたユーザーストーリーのイラストなど、サイト上で見られない資料もあり、とても参考になりました。
他にも、ひょんなことから知り合った方の縁で、共同創業者の藤崎が東京で開催されたエンジニア向けのパネル・ディスカッションにも参加しました。
KitchHikeチームでは、ひと段落したら活動拠点を海外に移したいね、という話をよくしています。サービスをさらにドライブさせるためです。正直、海外で生活したいです。起業してから、「人生に正解はないんだな」と、より一層感じるようになりました。ロールモデルを見つけて、自分を重ね合わせるべく追いかける時代はもう終わったんだと思います。一度きりの人生、全力で謳歌してかつ世界を拡張させるというのがKitchHikeメンバーの強い想いです。
3.普段ばらばらに仕事をしているため、海外集合をしてチームビルディングをする
KitchHikeメンバーは、基本的に一箇所に集まって仕事をすることがありません。出社時刻もなければ、出社する場所も問いません。各々のパフォーマンスが上がる場所、滞在したい都市、KitchHikeのためになることなどを判断して、お互いの意志を尊重しながら自由に仕事をしています。サイボーグ009もしくは幻影旅団なチーム編成ができればいいなとわりと本気で思っていたりするわけで。情報共有はChatWork、タスク管理はGitHub、打ち合わせはGoogle Hangoutsなど、デジタルデバイスとアプリを駆使して、KitchHikeを育てています。
そんなメンバーですが、イベントをきっかけに久しぶりに集合しました。今回のアジトとして選んだのは、クイーンズタウンからほど近い巨大な一軒家。大型犬2匹と大型犬のようなホストのおばちゃんが出迎えてくれました。現地集合現地解散を促していたところ、偶然にも誰一人として便がかぶらないという見事なばらばらっぷり! メンバー全員の登場から帰国まですべて見届けた僕としては、非常に感慨深いものがありました。
寝食を共にした5日間、メンバーの新たな一面も見えて、あらためてKitchHikeをスタートさせて良かったなと思いました。ばらばらに仕事をしていたとしても、メンバーの気持ちはいつもひとつです。結果的に、今回のシンガポール出張で一番良かったことは、チームビルディングだったのかもしれません。海外合宿、オススメです。
グランプリ獲得を狙って、ピッチに施した3つの仕掛け
1.何を言うかではなく、何を言わないかを決める
KitchHikeというプロダクトは、アイデアはやや奇抜ですが、とてもシンプルでわかりやすいウェブサービスです。ただ、ITのスタートアップブームとも言うべき今、ともすれば「余剰生産物の再分配」や「カスタムメイドのCtoCマッチング」といった文脈で解釈されてしまう可能性もありました。そこで僕らは、今回の制限時間3分のピッチにおいては、機能やファクトの紹介を最低限に削り、「実際にやってみるとどんな気分になるのか?」に焦点を当てることにしました。
3分の流れを簡単にまとめるとこんな感じです。
- 基本情報:サービス概要・How It Works・ファクト
- 問題提起:本当に機能するの? → 創業者自ら実践してます!
- 新たな気付き:KitchHikeは人生を豊かにする具体的な方法でした
前職の広告会社で学んだことではありますが、プレゼンは「発表」ではなく「説得」です。「こうゆうモノなんです!どや!」と投げっぱなしにするのではなく、「だからいいでしょ?あなたもやってみてね!」と語りかける着地がいいように思いました。
2.伝わるスライドを作成。視覚的に入ってくる情報は強い
情報は、多ければ多いほど安心します。ただ、情報が多すぎるとキモが伝わらずに、散漫な印象のまま終わってしまうこともあります。徹底的に余分な肉をそぎ落としたシンプルなメッセージの方が強く印象に残ります。
特にKitchHikeの場合は、ネーミングとロゴがコンセプトを何よりも雄弁に語ってくれる設計になっているので、極端な話、それだけでも覚えてもらえれば、後からでも何のサイトか思い出してもらえます。そのため、スライドでは、冒頭でロゴを象徴的に見せつつ概念を伝えてから、具体的なプレゼンに入っていきました。
視覚的にすんなり入ってくる心地よさは、プレゼンの理解を促す潤滑油です。今回スライドを作成するにあたり、SlideShareとSpeaker Deckを参考にしました。特にSpeaker DeckはGitHub社が提供しているサービスで、アップされているスライドのレベルがとても高いように思います。海外のスライドは、色使いや見せ方が美しいのでとても勉強になります。
3.ひと笑い入れてみる
英語力と笑いはあんまり関係ないはず(?)なので、英語がうまく話せないからといって、ビビっていては何も始まりません。僕自信も英語はまだまだ発展途上段階ですが、やってやれないことはありません。そもそもシンガポールで失うものはありませんし、起業家は恥を晒して成長するもんだと勝手に思っています。今回、プレゼンの後半部分で、「もし、あのハングリーな男が今もなお生きていたら、きっとこう言うでしょうね」という文脈でこのスライドを使いました。
会場全体は中くらいのややウケでしたが、最前列に座っていた欧米系の女性がやたら爆笑していたのでとりあえず良しとしましょう。
ネーミングに関しても、「KitchenをHitchhikeするからKitchHikeなのね!」というところで、にやっと笑ってくれた人も多かったように思いました。これは余談ですが、リリース以前、偶然にも『WIRED』の元編集長であるクリス・アンダーソン氏と話す機会があり、KitchHikeのコンセプトを説明したことがありました。サービス自体はすごく面白い!と興奮して言ってもらえたのですが、ネーミングを伝えた途端、苦虫を噛んだハの字の困り眉になり、「えーと、ダサいから今すぐ変えなさい」と言われました。あの時はショックでしたが、僕らとしてはすごく気に入っていたし、今回シンガポールやアジアの人にも面白がってもらえたので満足しています。時に、信念を貫くことは大事ですね。
以上、KitchHikeメンバーによるシンガポール上陸のレビューでした
リリースから早半年。KitchHikeがどのようなスケールで世界を拡張させていけるのか、はたまたKitchHikeチームがどのようなレベルまで成長していけるのか、ひとつのドキュメンタリーとしても気に掛けていただけると嬉しく思います。そのひとつとして、世界の食卓を訪ねた模様をレポートなどをBlogに書いています。
世界中の"Hungry"な人たちに、KitchHikeをさらに心地よく、楽しく、おいしく、利用していただけるように、今後とも努めていきます。まだKitchHikeが描く未来には辿り着けていませんが、世界中の食卓で異文化の人と一緒にゴハンを食べることが"普通"になる日が、絶対に来ると信じています。
Discover the world through Kitchens! - KitchHike
(山本雅也)
Photo by Nicolas Lannuzel.