Inc.:皆さんご存知のオンラインメモツール、Evernote。以下は、CEOであるフィル・リービンが米メディア「Inc.」に寄せた記事です。なんでも、彼は41歳にして新しくピアノを弾き始めたというのです。

新しいインターン生からこんな質問を受けました。「"これがないとやってられないもの"が何かありますか?」

"やってられない"という程のものではありませんが、私は数カ月前、想像していた以上に効果のあるものを見つけたのです。それが、自動演奏機能をはじめとする"ロボット"が搭載されたヤマハのアコースティックグランドピアノ「Disklavier E3」ディスクラビア E3シリーズ)です。

私はミュージシャンでも、とりわけてピアノが上手いわけでもありません。ましてやDisclavierを仕事場で使っているわけでもありません。では、どうして仕事の助けになっているのでしょう? その秘密は、まさにその"ロボット"にあるのです。1日1時間、そのピアノの前に座って、音楽理論を学んだり、80年代以降のTVシリーズに出てきた悲しげな曲を弾いたりしています。41歳になって新しい専門性を身につけるのはそう簡単ではありません。だけと、脳が活性化されていることは確かです。

知らない世界に触れてみて、分かること

Disklavierは、まったく新しい学びの機会を与えてくれます。ピアノを弾く練習をしたあとどこが間違ったかを見直すことができるし、練習用のビデオをダウンロードしてそれを弾くこともできます。脳のシナプスが刺激を受け、新しいつながりができていくのが感じられます。ある部分を弾けずにフラストレーションがたまったあと、次の日にもう一度やり直してみると最高です。

新しい技術を学ぶということは、新しい型を身につけるということです。しだいにその型が自分のものになっていきます。できなかったことができるようになり、既に知っていると思っていたことをより深く知れます。

たとえば、多くの曲はある共通の構造を持っています。始めに短い前奏があり、主音が入り、曲の頂点に達し、最後に主音にまた戻ります。主音に戻ることで、曲の終わりを告げています。これが、知覚的に満足できるような終わり方です。

ピアノを弾き始めるまでは、このことを感覚的に理解することはありませんでした。だけど今では、スピーチ、雑誌記事、うまくデザインされたソフトウェア、説得力のあるプレゼンテーション、きちんと計画されたディナーのメニューなど、何にでも見て取れます。そしてそれを応用することもできるようになりました。皆無だった音楽の才能をわずかにつけるだけで、周りの環境が見違えるようになりました

ピアノの効用?

仕事でも違いが出ています。数か月前よりも頭が切れるようになりました。新しい視点と、心の強さ、より機敏な知覚力がついたように感じます。以前よりも創造的に物事を考えられますし、一日に終えられる仕事量が増えました。

たとえば、私の会社の製品に、近くの携帯電話に情報を送るために音声を使うものがあります。「音声を生み出すソフトウェアなのだから、音楽的に聞き心地のいいものにしたらどうだろう」と考えました。そこである日、Evernote社員の一部がピアノの周りに座り、良いメロディを考え出しました。──これはほんのわずかな改善ですが、以前には考えもしなかったことです。そして仕事は、少しずつの改善で進歩していきます。

私の両親はクラシック音楽のミュージシャンです。父は30年もの間、ピアノの調律や修理を行ってきました。私はピアノ(の部品)に囲まれて育ちましたが、ピアノの弾き方を習うことはありませんでした。両親は私にピアノを教えようとしましたが、4歳の時に諦めたようです。小さいながら、私がどれだけピアノを嫌いだったかが良く分かったそうです。4歳の男の子を怖がるべきではないよと、わたしは言ったことがありますが。

すべての人が、日常生活から精神を解放できる、簡単で、かつ上品で美しい何かを持てると思っています。少し心をのびやかにできる何かです。大好きなペン、美しい景色、クロスワードパズル、手品、など何でもいいのです。ロボットが中に入っているアコースティックグランドピアノでも。

Phil Libin: The One Item I Cannot Work Without|Inc.

Phil Libin(原文/訳:駒場咲)

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