よく言われることとは正反対ですが、科学的な研究によって、お金で幸せを買えることがわかっています。ある程度までは、ですが。

最近の研究では、主観的な「幸福」を構成する2つの要素を区別するようになっています。第1の要素である「感情面の幸福度」は、毎日の体験にまつわる感情の質を表すものです。具体的には、喜び、ストレス、悲しみ、怒り、愛情など、人生を楽しくしたり不快にしたりする感情を、それぞれどのくらいの頻度や強さで体験するかを指します。第2の要素である「人生の評価」は、人が自分の人生について考えた時に抱く思いです。

今回の研究では「お金で幸せは買えるのか」という疑問を、この2つの幸福の要素について別々に検証するべく、ギャラップ・ヘルスウェイズ幸福指数の調査対象となった約45万人分の回答を分析しました。この指数は世論調査の米ギャラップ社が1日あたり1000人の米国在住者を調査して算出したものです。(略)人生の評価と収入の相関性を調べたところ、収入が増えるのに比例して、人生の評価も高くなることがわかりました。感情面の幸福度も収入に伴って高くなりますが、年収が7万5000ドルを超えると、幸福度は頭打ちになります

参考までに、米国で現在、4人家族の貧困ラインとされている年収は、2万3050ドルです。つまり、お金で真っ当に買える範囲の幸せは、年収を貧困ラインの3倍強まで増やすとそこでピークに達してしまうのです。

この結論は、原文著者がこれまでさまざまな研究結果を見て感じていたことに一致していたそうです。マズローの欲求階層ピラミッドの下層にある基本的な欲求を満たすのに「充分な」お金があれば──つまり、食事や住む場所、身の安全について心配する必要がなく、あとは不測の事態に備えた余分なお金が少しあれば、それ以上いくらお金を積んでも、このピラミッドの上層の欲求を満たすうえでは、あまり役に立たないのです。

お金で幸せになるには「使い方を間違いない」のが大切

とはいえ、運良く高い年収を得ている人でも、お金の使い方次第で、幸福になるか不幸になるかは大きく変わります。この点についても、科学的な裏づけがあります。ある研究では、「お金で幸せになれないのなら、おそらくお金の使い方をまちがえている」という結論が提示されています。

たいていの人は、幸福に関する基本的な科学的事実、つまり、幸せを実現し、維持するために何が必要かを知りません。ですから、どんな風にお金を使えば幸福を手に入れられるのかがわからないのです。たとえお金持ちでも、ワインについて何も知らなければ、ワインセラーの中身がその辺の家のものとたいして変わらないのは当然です。同じように、いくらお金を持っていても、幸福について何も知らなければ、ほかの人と同程度の幸せしか得られないのです。お金は幸福を手に入れるチャンスをくれます。ですが、たいていの人は何が自分を幸福にしてくれるかを誤解しているので、しばしばそのチャンスを無駄にしてしまうのです。

いま引用した論文の著者たちの名前に聞き覚えのある人もいるかもしれません。特に、Daniel Gilbert氏は、『Stumbling on Happiness(邦題:幸せはいつもちょっと先にある 期待と妄想の心理学)』という優れた著書のなかで、同じテーマに触れています。

「お金で買える幸せ」を最大化するための8つのポイント

では、幸福に関する科学的事実とは何でしょうか? ここでは、基本的な8つのポイントをできるだけまとめてみました。各ポイントの根拠となった研究の書誌情報や内容を知りたければ、Gilbert氏らの論文を実際に読んでみてください。

  1. モノではなく経験を買う

    モノは古くなります。すぐに見慣れたものになります。モノには変化がありませんし、時が経てば劣化します。共有するのも簡単ではありません。それに対して、経験は唯一無二のものです。記憶のなかでダイヤモンドのように輝き、しばしば年を経るごとに輝きを増します。多くの人と永遠に共有できます。モノを買うよりも、できる限り経験にお金を使うようにしましょう。例えば、新しいテレビを買うかわりに、家族でディズニーリゾートに行くとかです。

  2. 自分ではなく他者を助ける

    人間はきわめて社会的な動物です。なんらかの形でお金を使って、自分以外の人との結びつきを深めれば、社会的なつながりが強固になり、自分や他者に対する良い感情が膨らむものです。どうすれば自分のお金の一部を使って他者を助けられるかを考えて(どんなささやかな形でもかまいません)、それを日々のお金の使い方にとり入れてみましょう。

  3. 「大きな喜びをわずかに」ではなく、「小さな喜びをたくさん」買う

    人はあっという間に変化になじむものです。効果的にお金を使いたいなら、すぐに慣れてしまう「大々的な」変化ではなく、ちょこちょことした変化にお金をかけるようにしましょう。大きな買いものをできる限り小分けにし、時間をかけて少しずつ買うようにすれば、経験をじっくり味わえます。こと幸福に関しては、頻度はインパクトよりも重要です。小さくて嬉しい買いものをたくさんするほうが、特大の買いものを1回するよりもずっと効果があります。

  4. 保証や保険にお金をかけない

    人は、良い変化にも悪い変化にもすぐに慣れてしまいます。長期間の保証や保険は、損失を避けたいという衝動につけ込んだ商品ですが、人は変化に慣れる生きものなので、たとえ買った商品が故障したとしても、その時感じる後悔は、予想よりもはるかに小さなものです。さらに、保険や返品保証などの安易な「逃げ道」は、逆説的ですが、さらなる不安や不幸につながることがあります。というのも、逃げずに全面的にコミットすることから得られる、感情へのプラスの影響がなくなってしまうからです。ですから、保険にお金をかけるのを避け、返品保証の条件にこだわらないようにしましょう。

  5. ローンで買わず、買う前にも楽しみを

    「欲しいものをまず手に入れて、支払いはあと」という買い方もできますが、そうすると自分の経済力以上のものや、たいして欲しくもないものまで買ってしまいがちです。こうした衝動買いでは、理性的な判断を下すのに必要な客観的視点が奪われています。そして、このような買いものの仕方では、期待を感じるヒマがないのですが、その期待感こそが幸福の大きな源なのです。最大限の幸福を得たいのなら、「買おうかどうしようか」「何を買おうか」と迷う時間や、欲しいものが手元に届くまで待つ時間をじっくり味わうようにしましょう(その時間を長引かせても良いでしょう!)。

  6. 細かいことまで考えてみる

    これから買うもののことを考える時には、細かいことにはあまり気をとめないものです。ですが、幸福(あるいは不幸)はたいてい、そうした「細かいこと」に宿っているということが、研究により明らかになっています。大きな買いものをする前に、それを所有したら周囲の状況がどんな風に変わるのか、手に入れることで時間の過ごし方がどう変わるのか、そういった細かいことをじっくり考えてください。典型的な1日を、1時間ずつ細かく想像してみましょう。それを買ったら、どんな影響が出るでしょうか?

  7. 商品の比較には、自分なりの基準を持つ

    あれこれ比較して買いものをする場合、商品の細かな特徴に目を向けがちですが、こうした特徴はしばしば、商品を差別化させるためだけのもので、買ったものをどれだけ楽しめるかには関係ありません。買いものの際に気になる特徴と、買ったものを実際に使ったり食べたりする時に気になる特徴は違うのに、前者だけが重視されがちです。要するに、お買い得の安いチョコレートを2ドルで買ったとしても、食べて楽しめなければ意味がないということです。比較のための比較に陥らないでください。自分の楽しみや体験に影響を与える基準だけを重視するようにしましょう。

  8. 自分の頭ではなく世論に頼る

    買ったものをどれだけ楽しめるか想像する時には、自分の判断力を過大評価しないようにしましょう。科学的に見れば、人はその手の判断がとても苦手です。でも、その商品がほかの人たちを確実に幸せにしているのなら、あなたのことも幸せにしてくれる可能性はかなりあります。買いものの判断の際には、ほかの人の意見に耳を傾け、ユーザーレビューをうまく活用しましょう。

幸福は、お金に比べればずっと、手に入れるのが難しいものです。ですから、お金を使う時には、この8つのポイントを念頭に置いて、できるだけたくさんの幸福を買えるようにしましょう。忘れないでください、これには科学的根拠があるのです!

Buying Happiness | Coding Horror

Jeff Atwood(原文/訳:梅田智世/ガリレオ)

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