シンプルな図を描くことによって問題点を明確にし、改善方法を考える「図解改善」を提案する書籍が、その名も『誰でもデキる人に見える 図解de仕事術』(多部田憲彦著、明日香出版社)。

著者は、「日産自動車のルノー日産共同購買本部リージョナル・サプライヤー・パフォーマンス・マネージャー」としてワールドワイドに活躍する人物。と書くと華やかに聞こえますが、注目すべきは小学3年生で吃音(どもり)症となってから人との会話が苦痛になり、孤独な学生生活を送ってきたという事実です。しかし、図解によって問題を解決できるようになってから、仕事やコミュニケーションの能力が劇的に高まったのだとか。それはなぜなのか? 図解のメリットを説いたChapter 1「図解de認められる」に目を向けてみましょう。

1.「口べたでも相手に通じる」(18ページより)

著者が図解の素晴らしさを実感したのは入社1年目のころ。当時の上司が、目の前で展開されるプレゼンテーションの内容を図式化して矛盾を突いてみせたときだそうです。「頭の中だけで考えているだけでは見えなかったことが、一枚の図表を描くだけで、こんなに明確に整理できるのか!」と感じ、それが以後の人生に大きな影響を与えるわけです。

2.「感情論にならず、冷静に結論を導ける」(21ページ)

仕事をしていると、ときには相手に厳しいことを言わなければならないもの。そんなとき言葉だけでやりとりすると感情論に陥りがちですが、図解で事実や根拠を示せば、冷静に結論を導けるそうです。たとえば部下が失敗したとき、感情的になったら部下もやる気を失うだけ。しかし失敗した理由を図解して一緒に整理すれば、失敗も前向きに役立てられるというわけです。

3.「会話の主導権を握れる」(24ページ)

会議の場では、とかく声の大きな人のペースでものごとが進みがち。しかし図解のスキルを身につければ、どんな会議でも主導権を握ることが可能。相手が外人であったとしても、英語がペラペラでなかったとしても、図式化すれば伝わるため、自然に「議長役」として尊重してもらえるのだといいます。多くのビジネスを成功させてきた著者の英語力が「典型的なジャパニーズ・イングリッシュで、『adjust』を"アジャスト"ではなく"アドジャスト"と発音して修正を促されるほど」だというので、なんだか妙に説得力があります。

4.「文字を書くより早く納得させる」(27ページ)

「エレベータートーク」がそうであるように、短時間で相手に説明しなければならないことがあります。そんなときにも、図解が役立つのだとか。そして重要なのが、目的は「美しく描くこと」ではなく、あくまで「こちらの意図を正確に伝えること」だということ。キレイな図にこだわって時間を書けるのでは本末転倒。1つの図は、1分以内で描きあげる。キレイに描こうと思わず、手描きで済ませることがポイントだそうです。

5.「議事録は1分で完成させる」(30ページ)

会議の議事録は、A4用紙1枚程度が原則。あまり長いと、誰にも読まれずに放置されてしまうからです。そこで著者がおすすめしているのが、会議中から図解を使って論議の内容を可視化し、その場で出席者から確認をとること。1分で「この会議で大事なポイントは〜と〜ですね?」と確かめ、図解を撮影し、その写真を書類に貼るだけで簡単に議事録が完成するというわけです。

なお、会議をまとめる「ファシリテーター役」として重宝がられ、なにより会議の中身が頭に残りやすくなるということも、会議の内容を図解でまとめるメリットだとか。いわば、一石三鳥だということです。

ちなみに著者に関しての重要なトピックは、現在も吃音症が治っていないという点。つまり弱点と共存しつつ、そこを図解で補うことで世界規模の成功を実現しているわけです。そう考えればなおさら、本書に書かれていることがいかに大切かがわかるのではないでしょうか。

(印南敦史)

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