こんにちは。メンタルトレーナーの森川陽太郎です。

自分では頑張っているつもりでも結果がついてこない。周りにいつも遅れを取っている。そんな状況を何とかしたいと思うなら、まずあなたが身につけるべきは「タフな心」です。今回は、「プロになれない」と周りから言われていたダンサーが、今や世界を相手に活躍するまでになった経緯を追いながら、「周囲の評価を逆転させる人」が持っている、タフな心のつくり方を紹介します。

事例として紹介させていただくのは、記事冒頭に写っている彼、世界で活躍しているダンサーのTAKAHIRO(上野隆博)さんです。彼は、アメリカの有名テレビ番組『Show Time At The APOLLO』にて、マイケル・ジャクソンも成し得なかった番組最高の9大会優勝を記録し、殿堂入りを果たします。米誌『News Week』による「世界が尊敬する日本人100」にも選出。マドンナの専属ダンサーとしてワールドツアーにも参加し、彼女に振付の才能を絶賛されました。現在、世界を舞台にオリジナリティーで勝負する数少ないダンサーです。

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今でこそ、世界で活躍するダンサーになった彼も、冴えない時代が長くありました。彼に聞くと、運動、勉強、どれをとっても学校の中では下の方で、誰からも相手にされずにいたのだそうです。大学に入ってからダンスを始めたものの、周囲から「お前がプロになるなんて無理だ」と言われ続けていました。

そんな状況から、彼はいかにして周りの評価を逆転させたのでしょうか? その答えの一つは、彼が持つタフなメンタリティにあります。彼の考え方は、社内での評価が上がらず苦しんでいるビジネスマンにとっても、非常に役立ちます。ここでは、重要なポイントを大きく2つに絞って紹介します。

1. 本質を見失わない

TAKAHIROさんがある大きなオーディションに参加した時の話です。最終選考に残った10名のダンサーから、合格者1名を選出するための最終オーディションが、10日後に行われます。

1日目、TAKAHIROさんは他のダンサーよりも一歩遅れをとっていました。ところが1日目だけではなく、結局は9日目まで、他のダンサーより優位には立てなかったのです。

彼はこの9日間、何をやっていたと思いますか? TAKAHIROさんはプライドや感情にとらわれることなく、他のダンサーにやり方を教えてもらっていたのです。オーディションまでの過程で他のダンサーに負けても、10日目のオーディションで勝つことを優先した選択です。その結果、彼はそのオーディションに合格しました。

多くの人が、プライドや「嫌だ」「悔しい」「カッコ悪い」という感情にとらわれ、最終的にオーディションで勝つための行動ができなくなってしまいます。これこそが「周囲の評価を逆転できない人」の特徴です。最終日に勝つことが目標にもかかわらず、オーディションまでの10日間、他の人と自分を比べ続け、毎日勝とうとします。その結果、オーディションで勝つための行動ではなく、「その日」「その瞬間」の満足感にばかり気が取られ、本質からズレた行動をとるのです。

「周囲の評価を逆転できる人」は、敗北感に毎日苛まれようと、自分が最終的に勝つための方法を知っているのです。それには、今の自分に「できること」と「できないこと」をハッキリと理解し、「できないこと」を受け入れられるタフなメンタルが必要になります。人は皆、目標に向かうとき「自分にはできる」と思いたい心理が働きます。しかし、それではうまくいきません。自分に「できないこと」を受け入れなければ「できること」には変えられないのです。

2. 自分のやったことにOKを出せる

TAKAHIROさんは、幼い頃から周りが90点を求めていても、それが自分の過去最高得点であれば、たとえ60点の出来でも自分自身に「OK」をあげていました。それは、趣味や趣向でも同じ。みんながダサいと言っているものでも、自分がカッコイイと思うものはカッコイイと素直に感じることができたのです。

人は、周囲が気になるあまり、知らず知らずのうちに、評価基準を常識や周りに合わせてしまいます。これを避けるための方法として、私の提唱するOKラインメソッドを紹介します。

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OKラインメソッドでは、自己肯定感を持つか、自己否定感を持つかを分ける評価基準のことを「OKライン」と呼んでいます。評価基準を周りに合わせようとすると、「OKライン」は高くなっていきます。すると、完璧な自分にしかOKを出してあげることができず、自己否定感ばかりが強くなってしまうのです。

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さて、TAKAHIROさんはどうでしたか。彼は幼い頃から、周囲のプレッシャーや偏見に惑わされることなく、OKラインを「自分ができること」に設定できていました。彼は、「今日はダメだった...と思うことは、どんな舞台でもありません。すべての舞台がその日の自分の全力なので、それが実力。それ以上でも、それ以下でもないです」と話してくれました。

その日の体調、かかってくるプレッシャーなどをすべて受け入れ、その日の自分に「できること」と「できないこと」を把握し、OKラインを設定する。このサイクルを確立すると、目標に向かう過程でも自己肯定感を持ち続けることができるのです。

彼がダンスを始めたのは大学生の時でした。大学にいる4年間、自己否定感ばかり持ってダンスをしていたとしたら、「周囲の評価を逆転させる人」になることはできなかったと思います。自分ができることにOKラインを設定し、自己肯定感を持ち続けたからこそ、周囲の評価を逆転させることができたのです。

タフな心を作るには「できないこと」を受け入れよう

OKラインのサイクルはビジネスマンでも同じです。社内で評価が低く、苦しんでいる人に共通する傾向は、「できないこと」を「できる」と勘違いしている点です。

私のところへ相談に来たビジネスマンで、自分では頑張っているのに成績が上がらず、社内の評価が低いことに悩んでいる人がいました。彼は1カ月に3件の成約を取ることを目標にしていました。しかし、実際にその数値を達成したことは入社以来、一度もありません。それどころか、毎月1件取れれば良い方でした。それにも関わらず、ポジティブでいるために「3件の制約は取れる」と自分に言い聞かせていたのです。

彼に必要なのは、「できる」とポジティブに考えることではなく、月に3件はできないと受け入れて、まずは月に1件の成約を目指し、今までと行動を変えることです。できないことを受け入れるのは傷つきます。だからこそ、人は傷つくことを恐れ、無意識にできないことを「できる」と考えてしまうのです。

アドバイスの後、彼はできないことを受け入れました。そして、まず1件の成約を取るための行動を起こし、その1件で自己肯定感を持てるようになったのです。徐々に成績を伸ばし、4カ月後には目標だった月に3件の成約を獲得。その結果、周りからの評価も得ることができたのです。

「できないこと」を受け入れるのは、心理的にタフな作業になります。しかし、それができる人こそが「周囲の評価を逆転できる人」なのです。

(森川陽太郎)

森川陽太郎ブログTwitter):元サッカー選手として欧州でプレー。引退後、心理学やメンタルトレーニングを学び、2008年株式会社リコレクト設立。著書に『いつもの自分トレーニング』『ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則

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