ジェームス・クリア(James Clear)さんは、ウェブサイト「JamesClear.com」の創設者。このウェブサイトでは、心身ともに健康な生活をおくるために必要なスキルを紹介しています。健康生活の達人であるクリアさんが、年初に立てた目標を着実に実行するためのコツについて、次のように綴っています。
「変わること」は大変なこと。おそらく皆さん、お気づきだと思います。誰しも、もっといい人間になりたいと願うもの。より強く、より健康で、よりクリエイティブになり、より多くのスキルを持ち、よりよき友人や家族になりたいと望んでいます。とはいえ、よりよいことに取り組み始めても、新しい行動を身につけるのは並大抵ではありません。毎年、同じような目標を掲げるも、挫折を繰り返しがちです。では、なぜこのような状況に陥るのでしょう? もっと容易に変われるコツはないのでしょうか。習慣づくりは「見た目の変化」でなく「個性を信じる」ことから始まる
私のパートナーは人の名前を覚えるのがとても得意なのですが、彼女は高校時代にこんなエピソードがあったそうです。マンモス校での高校生活の初日、ほとんどの生徒が初対面。教師は生徒一人ひとりに自己紹介をさせ、最後に「全員の名前を覚えられた人はいるかしら?」とたずねました。そこで、彼女は手を挙げ、教室を歩きながら、30名ほどの同級生の名前をすべて正確に言い当てました。クラス中が驚き、彼女の隣の席の男子は「僕は君の名前すら思い出せないよ」と言ったそうです。彼女いわく、この瞬間が彼女にとって自分の個性を確信した経験だったとか。これをきっかけに「私は人の名前を覚えるのが得意なタイプの人間なんだ」と感じるようになりました。実際、彼女は今でも出会った人の名前を覚えるのがとても得意です。このエピソードから、新しい個性を信じるためには、それを自分で証明しなければならないことがわかります。
継続的な習慣を身につけるためには、新しい個性づくりに集中することがポイント。現在の習慣は、現在の自分の個性を反映したものです。そして、今自分がやっていることは、意識的/無意識的にかかわらず、「自分はこういうタイプの人だ」というイメージを表したものなのです。ゆえに、自分の行動をよいものに変えたいなら、自分にはよい個性があると信じることからスタートせねばなりません。
一般的な目標設定プロセスでは、「減量したい」、「もっと強くなりたい」などの漠然とした目標を掲げ、さらに「20ポンド減量したい」、「300ポンドでパワーリフティングしたい」と内容を詳細化します。これらの目標は、自分のパフォーマンスや見た目を中心にしたものです。
パフォーマンスや見た目に力点を置いた目標もよいのですが、これらと習慣は同じものではありません。すでに何か行動を起こしているのであれば、パフォーマンスや見た目を中心とする目標でも自分にドライブをかけられるでしょう。しかし、目標達成のために新しい行動を始める必要があるならば、パフォーマンスや見た目に力点を置いた目標よりも、むしろ自分の個性に着目した目標を設定するほうが望ましいでしょう。
個性に基づく目標と、パフォーマンスや見た目に基づく目標の違いは、以下に図示されているとおりです。
今までの行動を変え、よりよい習慣を身につける源は、自分の個性です。自分の行動は「これはできる」という基礎的な信念によって起きます。つまり、個性を変えれば、行動も変えやすくなるのです。言い換えれば、新しい習慣を身につけづらいのは、個性を変えずに、パフォーマンスや見た目だけにこだわった目標に取り組んでしまうから。「こうなりたい」と望むタイプの個性を持っていると証明する前に、成果を出そうとしてしまいがちですが、アプローチを逆にすべきです。
持続可能な成功のための秘訣自分の信念を変えるのは、それほど難しいことではありません。次の2つのステップを踏みましょう。
何よりも重要なのは小さなステップから始めること。本質的な目的は、成果を出すことではなく、成果が出せるタイプの人になることです。例えば、ワークアウトを持続できる人は、カラダが強いタイプの人なので、まずはワークアウトする人という個性をつくってから、パフォーマンスや見た目に移ること。小さな範囲でスタートし、新しい個性が身につくにつれ、成果もついてくると信じましょう。
このアプローチを活用した実例として、以下の5つを挙げておきます。
例1:減量したい身につけるべき個性:毎日、もっとカラダを動かす人になる
目標達成までのアプローチ:歩数計を買う。仕事帰りに50歩は歩き、その歩数を翌日は100歩、2日後は150歩と、1日ごとに50歩づつ増やしていく。週5日、毎日50歩づつ増やしていけば、年末には一日あたりの歩数が1万歩を超えるはず。
例2:もっといいライターになりたい身につけるべき個性:毎日1000ワード書ける人になる
目標達成までのアプローチ:今週毎日、1パラグラフ書く
例3:もっと強くなりたい身につけるべき個性:ワークアウトをさぼらない人になる
目標達成までのアプローチ:毎週月・水・金曜日に腕立て伏せをする
例4:いい友人になりたい身につけるべき個性:マメに連絡を取る人になる
目標達成までのアプローチ:毎週土曜日、友人のひとりに電話をする。翌週は別の友人に、翌々週はまた別に友人にといったように、1カ月で週替わりに4名の友人に連絡し、これを3カ月続ける。このサイクルを1年続けると、12名の旧友と親しくつながれる。
例5:仕事で真面目に扱われたい身につけるべき個性:常に時間厳守の人になる
目標達成までのアプローチ:会議に早く行けるよう、会議と会議との合間をさらに15分増やす。
自分の経験では、何かに向けて改善したいと思ったら、驚くような成果を出すよりも、自分の個性を証明するほうがずっと大切です。モチベーションやインスピレーションを得たいなら、YouTubeの動画を観たり、お気に入りの曲を聞いてエクササイズプログラムをやったりしてもいいわけですが、1週間後に燃え尽きても驚くことではありません。モチベーションを頼りにはできません。自分がなりたいと望むタイプの人であることが必須。その手始めとして、新しい個性を自分に証明しなければなりません。
「今年こそいい年にしたい」と思っている人は多いでしょう。しかし、皮肉にもパフォーマンスや見た目に基づく目標はその達成を難しくしてしまいます。変わりたいのなら、結果に一喜一憂するのは止め、自分の個性を気にすることから始めましょう。自分が達成したいことができる人になり、習慣を身につければ、結果は自ずとついてきますよ。
Identity-Based Habits: How to Actually Stick to Your Goals This Year | The Art of Becoming Better
James Clear(原文/訳: 松岡由希子)
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