「交渉」と聞くと、経験豊かなプロがゲームのごとくやっている取引のように思う人もいるかもしれませんが、実際にはそれほど難しくはありません。今回は、給与交渉から車を買う時の値引きまで、口下手な人でも欲しいものを手に入れられる交渉術をお教えしましょう。

実際にしているかどうかはさておき、交渉というのは一日中するものです。中古車を2000ドル値切ることだけが交渉とは限りません。「お昼休憩をいつ取るか」なんて何気ないものから、パーティーに一緒に行ってくれる人を説得するというようなものまで、さまざまな交渉があります。

つまり、「日々是交渉」なのです。たとえ交渉上手な人でなくても、相手と対立することなく、欲しいものは手に入れられます。誰にでも使える交渉術を教える前に、まずは交渉に臨む前の基本練習から始めましょう。交渉のための下準備

「交渉はどの程度まで準備したかによって決まる」といっても過言ではありません。給与交渉も値切りも、準備をすればするほど成功する確率は高くなります。交渉の準備の基礎は以下のようなことです。

できるかぎり下調べをする:知識と情報は、交渉で大いなる力を発揮します。知っていることが多ければ多いほど、交渉では有利です。アメリカなら「Glassdoor」や「Salary.com」のような給与査定サイトで、今の自分と同じようなポジションの人の平均年収を知ることができます。同じように、Googleでちょっと検索すれば「Craigslist」で買おうとしている物の値段の相場が、「Trulia」で調べればその地域の家の相場がわかります。「Kelley Blue Book」は中古車の値段を調べるのにとても便利です。どのような交渉をするにせよ、知識や情報を知っていればいるほど、より落ち着いて交渉にあたれます。

事前に練習する:バカみたいと思うかもしれませんが、交渉する時に極度に緊張するような人は、練習しておいた方がいいです。なぜ、そのような金額を望むのかという理由を、鏡を前にして説明してみたり、誰かに練習台になってもらって意見をもらったりするのもいいです。

落ち着いてけんか腰にならない:同じようなものだと思っている人もいるかもしれませんが、交渉は議論する場ではありませんから、相手を言い負かそうなどと考えてはいけません。交渉で言い争いをしても無駄です。感情的になってしまったら、相手はあなたの言っていることに耳を貸さなくなってしまいます。とにかく落ち着いて、冷静に。交渉は、勝ち負けというよりも価値あるものを手に入れるための取引です。

ほんの少しの準備でも大いに役に立ちますが、交渉では「どのような戦術を使うか」も大事です。次は例をあげて説明していきましょう。

パイを大きくする

英語では「パイを大きくする」という表現をしますが、これは「交渉に興味がない人向けのテクニック」です。なぜなら、お互いが得をするようなウィン・ウィンの交渉術だからです。一方が何かを得れば、もう一方は何かを失うような場合、「ひとつのパイを分け合う」というような表現を使うことがあります。しかし、パイ自体を大きくできれば、双方ハッピーで丸く収まるわけです。

この交渉術の例として一番わかりやすいと思われるのは、これ以上は従業員にお金を支払えない会社においての給与交渉です。給与を上げる余地のない会社に対しては、パイを大きくして、他のもので給与代わりにする必要があります。

例えば、給与が安すぎると思った時に、上司のところへ給与交渉に行きます。上司が「給与を上げたいのはやまやまだけど、これ以上の給与を支払う余裕がない」というようなことを言ったら、お金ではない別の特典や報酬を要求するのです。週に数日自宅勤務がしたい、有給休暇を増やしてほしい、勤務時間を短くしてほしいなど、給与以外で自分の希望する無料の条件を提示しましょう。

この交渉術の考え方はとてもシンプルです。交渉する余地がない場合は、他に交渉できるものを探せばいいだけです。また、自分が臨めない給与交渉で「これ以上給与は上げられない」と返答が返ってきた場合は、会社には本当にお金がないということなのかもしれません。給与以外のもので交渉をしてみれば、問題が解決する可能性はあります。

「15~20%ルール」を使う

交渉といえば、アメリカで人気のコミュニティサイト「Craigslist」や中古車の売買などを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、そこには不安が付きものです。しかし、「15〜20%ルール」は誰にでも使える交渉術です。

中古のiMacをCraigslistで買うとします。売り手の付けている金額は1200ドルですが、少々予算オーバーなので、950ドルで交渉したいと思います(約20%の値下げ交渉)。1000ドルくらいまでは覚悟していたのに、たまたま相手は950ドルでいいと言いました。これは、Craigslistのようなところに出品する場合、売り手は実際に売りたい金額よりもあらかじめ15~20%上乗せした金額を提示していることが多いからです。

これは最初に金額を提示しなければならない場合など、逆の立場でも使えるルールです。予算が6000ドルの場合、交渉を始める金額は5100ドルにするのです。交渉でもっとも神経を使うと思われる、最初に金額を提示する時に使えるルールといえます。

じっと黙って手がかりを探す

交渉が得意でない人が最初にすべきは「まず相手にしゃべらせること」です。その中から、相手が妥協できるポイントの手がかりを探ります。「Inc. 」では、沈黙が一番の武器になると言っています。

あなたが金額を提示して、売り手が「それではちょっと安すぎる」と言ったとしても、すぐに返答してはいけません。口を閉じて、相手が沈黙に耐えきれずに話し始めるのを待ちましょう。たぶん相手には、なぜその金額では安すぎるのかという理由がいくつかあります。また、相手が早く取引を成立させたい理由も話すでしょう。売り手が沈黙を埋めるために話す情報は有益かつ、自分が話していては決して得られない情報です。

交渉術を学んでいる間にも使える、一番簡単なテクニックだと思います。状況を知れば知るほど、より理解することができます。中古車の値引き交渉で使えば、沈黙を埋めるために、相手はその車のいいところをすべて並べ立ててくれるでしょう。言うべきことがなくなったら、今度は難点を言います。「その金額では安すぎると言っているのは、10万マイルしか走っていない、しかもスバルの見た目もキレイな車だからです。もちろん、エンジンやリアウィンドウに多少難はありますが、常に問題があるわけではありません」。

必要な情報をすべて入手したら、今度は逆提案をしましょう。「なるほど、うちの犬は窓を開けて走らないとうるさくほえるので、エンジンのチェックに加えて、リアウィンドウも修理しなければなりませんね。その分、どれくらい金額を下げてもらえますか?」

このように、運が良ければ相手が金額を引き下げるのに有益な情報をすべて話してくれて、両者ともに納得の金額に落ち着くのです。

「もう一声」で少しずつ

すでに実証済みの交渉術に「もう一声」があります。基本的に少しずつ進めるというだけなのですが、ちりも積もれば山となるです。「Planet Money」でコロンビア・ビジネス・スクールのAdam Galinsky教授が、航空会社がオーバーブッキング(過剰予約)をした時の交渉について説明していました。

最初に300ドルの商品券を提示されました。私は席を譲りたくなかったのですが、航空会社は結局、私が180ドルで買った航空券に対して、1000ドルの商品券を提示しました。そこで私は「もし、ここで航空券を譲ったら、明日のフライトでファーストクラスの席になりますか?」と言ったら、「わかりました」と答えました。さらに「今夜泊まるところが必要になりますが、ホテルも取っていただけるのでしょうか?」と告げたら、それにも「わかりました」と。「子どもがおなかが空いたというのですが、今晩の夕食も支払ってもらえるのでしょうか?」と尋ねたら夕食の支払いも、最後に「今夜ホテルまで送っていただいて、明日迎えに来てもらえますか?」と聞いたらタクシーも手配してくれました。

Galinskyさんは、「もう一声」のテクニックを使って少しずつ頼むことで、1000ドル分の航空券が買える商品券、ファーストクラスのチケット、無料のホテル、無料の食事、無料の送迎を手に入れられました。ここでの教訓は、欲しいものがあるなら頼まないともらえないということです。誰かと交渉する時は、特に相手が大企業であれば、どの程度まで無料にしてくれるのかが分かります。

手紙や電話でも有効な交渉

一番いい交渉は、間違いなく面と向かって話すことです。しかし、対面は気まずいような場合は、特定の状況であれば手紙やメール、電話も有効です。

例えば、大家さんと家賃交渉がしたい場合は、直接話すよりも手紙やメールでもいいでしょう。同じく、新規雇用された会社との給与交渉も、書面で大幅アップが見込めます。現在の会社の上司と給与交渉をするような場合は、対面して話さなければならないと思いますが、少なくとも緊張してしどろもどろになる前に、自分の主張を表明する時間はあるでしょう。

交渉は大きなお金や物を手に入れるためだけの手段ではありません。毎月支払っている料金などを交渉すれば、結果的に大金を節約できます。金額の小さな交渉は、給与や車のような大きな金額の交渉をするためのいい練習にもなります。

最後に、交渉は自分の要求を明確にすることでもあります。要求というゴールが明らかになれば、そこへ到達する道も見えてきます。交渉は思っているほど大変ではありません。世の中、交渉嫌いな人が多いので、たくさんの経験を積めば、それだけ自分の要求を叶えられるでしょう。

今回お教えした交渉術はほんの氷山の一角です。ライフハッカーではこれまでも、数々の交渉術を紹介してきましたので、こちらの過去記事たちも参考にしてください。まずは落ち着いていくつかの交渉に臨めれば、きっとその中から何かを得られるはずです。

Thorin Klosowski(原文/訳:的野裕子)